38. 尾崎豊『十七歳の地図』(1983)

今回もまたガラリと趣向を変えてお送りいたします。

その名を聞けば説明は不要でしょう。天性の声を持つ歌い手であり、真実の言葉をつむぐ詩人でもあります、尾崎豊を取り上げます。



◆尾崎豊『十七歳の地図』(1983)


十代の尾崎本来の瑞々しい声、詩のエッセンスを活かしつつ、ニューミュージック寄りの音作りがキャッチーなデビューアルバム。手堅い演奏陣によるロック音楽としての熱量も充分な不朽の名盤です。



★「I LOVE YOU」


https://www.youtube.com/watch?v=EsOsc-sajMk


国内外数多くのアーティストにカヴァーされ、歌い継がれる永遠の名バラードです。純粋で飾り気のない愛情表現と、情景を描写する言葉選びの巧みさが同居した完成度の高さに、恐ろしいほどの才能を感じます。



★「15の夜」


https://www.youtube.com/watch?v=rBbEv6OFnVE


誤解されがちですが、この詩の語り手は聞き手に対して何も推奨したり理解を求めてはいなくて、ただただ回顧しているのですよね。「気がした」の一言に込められた本質を見逃してほしくはないと、いつも思います。


この歌を聴く度、十代の頃の自分の、知恵も言葉も足りない、伝え方がわからないもどかしさを思い出して胸が締め付けられます。若さゆえの浅はかさを、悔やみながらも愛おしむような、相反する感傷が湧き上がるのを抑えられません。



◇「OH MY LITTLE GIRL」


「I LOVE YOU」と双璧を成すピュアなラブバラード。メロディが素晴らしいだけでなく、歌い方や節回しも独特です。語りかけるような「I LOVE YOU」に対し、こちらには訴えかけるような切実さがただよいます。




【おまけ】


★「卒業」


https://www.youtube.com/watch?v=HUHUsfbvw9I


2ndアルバム『回帰線』(1985)より。代表曲の一つです。ナイーヴな感性を隠さず歌いつづる様に胸を打たれます。それまで抑えていた感情がせきを切ったようにあふれ出す終盤にこそ、真に伝えたいことが込められていると感じます。


支配は悪辣あくらつ狡猾こうかつに、私たちの人生を縛り付けようとします。だから、本当の自分として生きたいと願う私たちは、いつだってつたないやり方で、時には間違ったやり方で抵抗することを強いられるのです。




歌は詩であり、詩とは想いです。言葉尻だけをとらえて理解したつもりになっては、本質から遠ざかってしまいます。語り手の心に寄り添い、感じ取ろうという姿勢こそ肝要であると筆者は考えます――自戒を込めて。

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