不法占拠する猫

鳥頭さんぽ

第1話

 家のチャイムが鳴った。


「はいはーい」


 外に聞こえていないとわかっていながらも思わず声って出てしまうよな。

 相手が誰か予想はついている。

 俺は母に「俺が出る」と断ってインターホンに出た。


「はい」

『お荷物をお届けに来ました』

「はい、ちょっとお待ちください」


 予想通り宅配便だった。

 予知能力じゃないぞ。

 ネットで注文した荷物の受け取りをこの時間帯に指定していたんだ。

 ドアを開けると宅配便のにいちゃんの姿が見えた。

 と、足元をとことこと何かが通り過ぎた。

 振り返ると奴がいた。

 猫だ。

 こいつはウチの猫じゃない。

 隣の幼馴染みのとこで飼ってる猫だ。

 その猫は立ち止まり、後ろを振り返ると「みゃ」と鳴いた。

 そして歩みを再開して二階への階段を駆け上がっていった。

 勝手知ったる他人の家、って、やつだ。

 たく、図々しい猫だ。

 あいつは俺んちを散歩コースに設定しているようで、勝手に上がり込むのは珍しくない。

 とはいえ、うちの家族も甘やかしているのが問題だがな。

 それはともかく、俺はにいちゃんから荷物を受け取った。



 荷物の入ったダンボール箱を担いて階段を上る。

 俺の部屋のドアは開いていた。

 中に入るとやはり猫がいた。

 なんか偉そうに転がっていた。

 俺は猫を無視して速攻でダンボール箱を開ける。

 その様子を猫はじっと見ていた。

 ダンボール箱の中身はプラモだ。

 通販でしか手に入らない限定版だ。


「おお!」


 俺がプラモの箱を手にして喜んでいる隙をついて猫が行動を起こした。

 なんと、プラモを取り出して空になったダンボール箱に飛び込んだのだ!

 ……いや、「なんと」なんて言う程のことじゃなかったな。

 ちなみにダンボール箱の大きさは猫より小さい。

 はずなんだが、こいつは器用に体を丸めてすっぽり収まった。


「みゃ」


 きっつきつに見えるが、なんか幸せそうな顔をしている。

 

「よかったな」

「みゃ」


 じゃねえよ!


「おいこらっ、何やってんだ?片付けられねえだろ」

「みゃ」


 俺の言葉に反応はするが、ダンボール箱から出る様子は全くない。

 仕方ないな。

 俺はプラモの箱を下に置き、ダンボール箱に手を伸ばして猫を捕まえようとしたら、奴は俺の手に猫パンチを放ちやがった。


「いてっ」


 思わずそう叫んだが、痛くないし、怪我もない。

 向こうも手加減しているからだ。

 その証拠に爪を出していなかった。

 しかし、その足から爪が現れた。


「みゃ」

「なるほど、今のは威嚇、というわけか。次は容赦しないと」

「みゃ」

「そう来るなら俺も本気を出させざるを得ないな」


 人間がたかが可愛いだけの猫に負けるわけにはいかない。


「人間の本気って、ヤツを見せてやるぜ!」

「みゃ」


 そこで俺の背後から冷めた声が聞こえた。


「バカじゃないの」


 振り返ると隣に住む幼馴染みが後ろに立っていた。

 どうやって、と思ったが鍵を閉め忘れていたのだろう。

 だからと言って勝手に入って来ていいわけはない。


「何勝手に入って来てんだ?」

「ウチの子がお邪魔してると思って」


 そう言ってスマホを見せる。

 表示されていたのは物を探すアプリだった。

 猫の首輪についているニャップルタグの位置情報から追って来たようだ。

 俺は使ったことないけど精度いいな。

 って、それはともかく。


「今のは理由になっていないがまあいい。早く連れ帰ってくれ」

「無理かな」

「何でだよ?」

「この子、意思が固いから」

「甘やかせすぎだろ」

「別にいいじゃない。この汚い部屋にダンボール箱が一つくらい増えても誤差よ、誤差」

「失敬な!」


 そんなに汚くないぞ!

 たぶん。


「俺はこれから忙しいんだ」


 プラモを作らないといけないからな。

 と下から母さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。


「俺が戻ってくるまでに連れて帰れよ。その箱やるから」

「しょうがないわね」



 俺が部屋に戻ってくると幼馴染みと箱がなくなっていた。


「みゃ」


 猫入りダンボール箱はある。

 消えたのは……俺のプラモの箱だ。


「どうしたら箱を間違えんだよ!?」

「みゃ」


 どうやらこの猫の俺への嫌がらせは飼い主のがうつったようだ。

 

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不法占拠する猫 鳥頭さんぽ @fumian

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