第24話 カサネと特殊なスキル

「そういえば、カサネさんって出会った直後とその後でなんか口調変わってないですか?」


盗賊を縄で縛り、馬車まで戻ってカルヘルドへ戻る道すがら、俺はもう一つ気になっていたことを聞いてみた。


「あぁ、あの時は敵かどうかも分からなかったので、舐められない様にわざときつめの話し方にしていたんですよ」

「そういうことか。確かに結構迫力あったからな。ナンパされた時も同じように対処すれば相手から引いてくれるんじゃないか?」

「そういうものでしょうか?とはいえ、街中で見知らぬ人に話しかけられていきなりあの口調で返すのはどうかと。。何かに困って声を掛けたのかもしれませんし」


優しいんだな。結構嫌な目に合ってきたんだろうに。それでもそれ以外の人達のことを考えて気を配れるなんて。


「それなら話してみてカサネさんがナンパだと判断できたら対応を変えるのはどうだろう?」

「なるほど。なるべく事を荒立てないようにと早めに会話を切って逃げるようにしていたのですが、それが良くなかったのかもしれませんね。今度試してみます」

「あぁ。でも相手によっては逆切れとか逆恨みするようなのも居るから、気をつけてな」

「それはご心配なく。私これでもBランク冒険者ですよ?そうそう負けたりはしませんよ」

「それも結構ビックリしたんだけどな。この前護衛して貰った人は冒険者歴7年でCランクって話だったから。カサネさんはこの世界に来て何年くらいなんだ?」

「3年くらいでしょうか。最初は戸惑うことばかりでしたが、幸い村の人は優しい方ばかりで、色々と教えて頂きました」

「ってことは冒険者歴はそれより短いってことだよな。やっぱりすごい才能があるんだな。俺は戦いはさっぱりだから羨ましいよ」

「それは才能というより、スキルに恵まれたからだと思います。アキツグさんも特殊なスキルをお持ちのようですが、私もなんですよ」

「あぁ、スキルか。なるほどな」


カサネさんは戦闘関係の特殊スキルを得ることができたらしい。

この世界では身を護るすべは前の世界よりも重要だ。彼女のような人がそれを手に入れられたのは幸いだろう。


「それにそれを言うなら私も羨ましいですよ。ロシェッテさんと仲良く話せるなんて。二人が話してる時はなんだか仲間外れにされてる気分です」

「仲間外れなんてそんな。前の世界でも外国人とは言葉が通じないとかあるし、仕方ないんじゃないか」

「分かってはいますけどね。私もハイドキャットの言語を理解できるようにならないかしら」


そう言いながらカサネは拗ねたようにロシェを撫でていた。

ロシェも気にした風もなくおとなしく撫でられている。

そういえば、俺はハイドキャットの言語を知識としてロシェと交換した。

ということは、この知識を誰かと交換することも可能なのだろうか?


「可能性はあるかもしれない。ただ俺自身も良く分からない部分があるんだよな。特定条件下じゃないと使用できないのにその条件が分からなかったりとか」

「アキツグさんもなんですね。私もありますよ。まだほとんど戦ったこともなかった時に危機に陥ったことがあって、急に発現したスキルに助けられました。それ以降は使えてないんですけどね」

「その辺も同じなのか。助けられているから文句は言えないけど、なんかもやもやするよな」

「えぇ。本当に。でも、ロシェッテちゃんと話せるようになるかもしれないなら期待してますね」


話している内にカルヘルドに帰り着いた。

衛兵に盗賊を引き渡し、今日はもう遅いということで一旦解散ということになった。泊っている宿屋が同じであればそこで続きを話しても良かったかもしれないが、彼女が泊まっていたのは別の宿屋だった。

夕食を食べて部屋に戻るとロシェが話しかけてきた。


『それで、あなた達が話してたのは何だったの?地球とか日本だったかしら?初対面っぽいのに共通認識があったみたいだけど』

「あぁ、それが信じられないような話なんだけどな・・・」


俺はロシェに俺が別の世界からこの世界に来た経緯を話した。


『別の世界・・・ねぇ。確かにいきなり言われても信じられないわね。でも、あなたがそんな嘘を言う理由も思いつかないし、あの子と話がかみ合っていたのも事実だしね』

「まぁ、前の世界に戻れるわけでもないし、気にしてもしょうがないことだけどな。おとぎ話みたいなものとでも思っといてくれ」

『そうね。それで何かが変わるわけでもなさそうだし、気にしないことにするわ』

「そういえば、詳しく聞いたことなかったけど俺と言語の交換した時、ロシェの方はどんな感じだったんだ?」

『どんな感じって聞かれても、あなたに手当てして貰って助かったと思ってほっとしていたら「「条件を満たしました。対象者との知識の交換に同意しますか?」」って聞いたこともない声で聞こえたのよ。あの状況で対象者はあなたしかいないでしょうし、助けて貰った恩もあったからそれに同意したってわけ』

「そんなことがあったのか。俺の方は何も聞かれなかったんだよな。俺のスキルなのに俺の方には同意を求めないっていうのはどうなんだ?」

『それだけ聞くと随分使いづらいスキルね』

「まったくだ。マイナス方向に働くことはなさそうなのがせめてもの救いだけど」

『あなたが制御できないなら、今は気にしても仕方ないと思うわ。適切なタイミングで自動発動するスキルとでも思っておけば?』

「う~ん、そうだな。なんか釈然としないけど」


ロシェの言う通りかもしれない。唯一の手掛かりはロシェの危機を俺が助けたことだけど、その再現のために誰かを危険にさらすわけにもいかないしな。

残念だが、スキルについては次の機会を待つということで一旦保留にすることにした。しかし、その次の機会は別の形で思いのほか早く訪れた。

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