第23話 同郷者との遭遇
朝になると窓の外が騒がしくなり目が覚めた。窓を開けていると今日も大陸からの船が到着したようで荷揚げや朝市が開かれていた。
『朝はこんなに活気があるのね』
「あぁ、荷揚げ作業もだけど、商人とか欲しいものがある人達にとっては早い者勝ちなところがあるからな。希少な物はオークション形式にしているみたいだし、これだけ賑やかになるのも仕方ない」
近場で朝食を食べてからせっかくだからと朝市を見て回り、気になったものなどをいくつか取引していると昼前になっていた。思いのほか長居したなと思いながら昼食を食べ終えて、カルヘルドへの帰路に着くことにした。
しばらく街道を進んでいると近くの森の方から金属を打ち付けたような音が聞こえてきた。
『森の中で誰か戦っているようね』
「えっ?でもこの辺は魔物もほとんどみないって」
『そうね。戦ってる相手が魔物とは限らないけど』
言われてみれば確かに。こんなに人通りの多いところでは盗賊なども難しいとは思うが絶対じゃない。特に森の中に誘い込めれば人に見られない様にするのも容易だろう。
とはいえ、俺が行っても何の助けにもならない。ロシェなら不意打ちできるかもしれないが反撃にあう可能性もあるだろう。
迷いはしたが、やはり気づいてしまった以上見捨てるのは寝覚めが悪い。
「ロシェ、悪いけどいざという時は頼めるか?」
『助けに行くの?相変わらずお人好しね。まぁ私もそのおかげで助けられた側だしね。任せて』
「ありがとう」
恐る恐る近づいていくと、やがて争いの音も聞こえなくなった。まずい、すでに決着がついてしまったのかもしれない。気を付けつつも音がしたほうへ急ぐとそこには倒れ伏す人影とそのそばに立つ人影の二つがあった。
「誰だ?こいつの仲間か?」
立っていた人影の方がこちらに振り向いて誰何の声を上げた。
その姿には見覚えがあった。昨日ヒシナリ港で見かけた黒髪の女性だ。
「ん?お前は確か昨日の」
向こうもこちらのことを覚えていたらしい。
何故か怪訝そうな表情を浮かべている。
「仲間じゃない。誰かが争うような音が聞こえたから様子を見に来たんだ」
「そうか。恐らくだがただの賊だろう。もう決着はついた。近くに他の気配もないし、こいつは町の衛兵にでも引き渡せばいい」
「余計な心配だったみたいだな。俺も街に戻るところだったから、良かったら載せていこうか?すぐそこに馬車を止めてある」
「・・・担いでいくのも面倒だし、お言葉に甘えよう」
「分かった。俺は商人のアキツグだ。よろしく」
俺の言葉に彼女はピクッっと眉を上げたが、表情を戻すと
「私の名はカサネだ。ところで一つ聞きたいのだが、地球や日本という言葉に聞き覚えはないか?」
唐突に驚きの質問を投げてきた。
「なっ!?えっ?」
「その反応、やはりあなたも地球から来た人ですか。その髪と雰囲気から何となくそうでないかと思いましたが」
ん?なんだか少し口調が変わったような・・・いや、今はそんなことよりあなたも、ということはもしかして、
「その言い方、カサネさんも?」
「えぇ、そうよ。まさかこんなところで同郷の人間に会えるとはね。エストリネア大陸では一人も会えなかったから、同じような人は居ないのかと思っていたのよ」
そう言うと彼女はこちらに近づこうとして・・・2、3歩進んだところで足を止めた。
「間違っていたら申し訳ないんだけど、あなたの側に誰かいない?敵意がないのであれば姿を見せて欲しいのだけど」
またも驚かされる。彼女はどうやってかロシェのことに気づいたらしい。
見る限り彼女に敵意はなさそうだしロシェを見られても問題はないだろう。
「ロシェ、姿隠を解いて貰っていいか?多分この人は悪い人間ではないから」
『そうみたいね。何か知らない単語も聞こえてきたけど、あなたは知ってるみたいね。同郷とか言っていたし。まぁあとで教えてくれればいいけど』
そう言いながらロシェが姿を現す。
彼女は目の前に現れたロシェにほんの少し驚いた様子を見せた。
「本当にそこに居たのね。ほんの僅かに気配を感じたので鎌を掛けたんだけど・・・戦闘中だったら気づけなかったわね」
そう彼女は悔しげに口にした。
改めてみると彼女は容姿端麗を絵に描いたような姿をしていた。
長い黒髪に、切れ長の黒い瞳。ゆったりしたローブを着ているが、恐らくスタイルも良い。年齢は20歳くらいだろうか。見た目の割に言動が落ち着いていて大人びて見える。
「この子はハイドキャットのロシェッテだ。同行しててもこの子の姿隠に気付けた人は今までいなかったから俺もびっくりしたよ」
「ハイドキャット・・・聞いたことがある。希少な種族で人前に姿を現すことはほぼないとか。この子がそうなのね。アキツグさんはどうしてこの子と一緒に居るの?」
「ロシェが何かに襲われて足を怪我して動けなくなってたところに出くわしてな。手持ちの薬で手当てしたのが縁で、それから行動を共にしてる感じだ」
「なるほど。あなたの言葉を理解して指示にも従ってくれるみたいだし、随分慕われているのね」
「あぁ、なんだかそうみたいだ。目立ちそうなんで人目がある時は姿を隠して貰ってる」
「それが正解でしょうね。・・・ねぇ。アキツグさん、良かったらなんだけど、私もあなたの旅に同行してもいいかしら?」
「え?俺達に?いったいどうして」
「今まで一人旅だったんだけど、どうも一人だと面倒ごとが多くて。お邪魔でなければどうでしょうか。こう見えて戦闘面では役に立てると思いますよ。私、Bランク冒険者ですから」
Bランクということはあのクロヴさんよりも上なのか。この若さでBランクなんて余程の才能がなければ不可能だろう。もしかして彼女も特殊なスキル持ちなのだろうか?
気にはなったが、お互い安易に明かせることではないだろう。そういう意味では信頼関係を築くのにちょうど良い話かもしれない。
「ロシェはどうだ?」
『私は構わないけど、しばらく一緒に居るつもりなら私と話せることは言ったほうが良いんじゃない?内緒話にも限度があるわよ?』
「そうだよなぁ」
「あなた達、本当に言葉が分かるみたいに話すんですね。それで、ロシェッテさんはなんて?」
「別に構わないってさ。俺も同意見ではあるんだけど、一つ聞きたい。カサネさんの言う面倒事って何なんだ?」
「・・・まぁ、いずれ分かることかな。自意識過剰みたいであまり言いたくはないんだけど、要はナンパみたいなことや付きまとわれたりすることが多いんです。同行者が居ればそういうのに絡まれる機会も減るかと思って」
「あぁ・・・納得したよ。でも、それを言うなら俺も一応男なんだけど」
「そうね。でも、ここまでの会話内容であなたからは邪な気配は感じなかったから。ロシェッテちゃんにも好かれているみたいだし、今まで声を掛けてきた男達よりは信用できるかなって」
「お褒めに預かり光栄だよ。ともあれ、そういうことなら俺も構わないよ。
ただ、一緒に旅をするなら一つ、これから話すことは秘密にして欲しい。約束できるか?」
カサネはこちらの質問にしばし考え込んでいたが、自分の判断を信じたのか頷きを返した。
「良いわ、約束します」
「ありがとう。これは俺のスキルに関係するんだが、とある理由で俺は本当にロシェの言葉が分かるんだ。ロシェも俺達の言葉を理解している」
「言葉が?なるほど。道理でさっき会話が成立しているように見えたわけね。本当に会話していたってこと。ロシェッテちゃん、1+2って分かる?」
そう言われたロシェは前足で三本線を引いて見せた。
「私の言葉も分かるのね。確かにこれは知っておかないと面倒事になりそうですね」
「あぁ、普段近くに人が居る時はなるべく他人に聞こえない様に話してるんだけど。しばらく一緒に旅をするならこれくらい打ち明けとかないとやりづらいだろ」
「そうね。教えてくれてありがとう。二人とも改めてこれからよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
『よろしくね』
盗賊の縁?という奇妙な出会いで旅の同行者がまた一人増えることになった。
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