第21話 街の散策

「そういえば俺の都合であちこち連れまわしてしまっていたが、ロシェが行ってみたいところとかないのか?」

『そうね。それならあそこに行ってみても良い?なんだか美味しそうな匂いがするわ』


ロシェが示したのは町中にある食べ物系の露店だった。


「・・・もしかして、今までの食事口に合わなかったりした?」


ロシェと出会ってからは自分達と同じ食事をロシェにも出していたのだが、彼女は文句も言わず食べていたので大丈夫なのだろうと勝手に思っていた。


『いいえ、アキツグの出してくれるご飯はいつも美味しいわよ?でも、近くで良い匂いがしたらそれはそれで気になるじゃない?』

「そうか。よかった。それじゃ見に行ってみるか。ロシェはどの店が気になるんだ?」

『そうね。あそこの緑屋根のお店かな。この辺では見かけないような果物を扱っているみたい』


言われて見てみると、今まで見たお店とは違う果物を扱っているようだ。

近くまで寄ると店主がこちらに気づいた。


「いらっしゃい。どれも新鮮な果物だよ。おひとつどうだい?」

「確かにどれも瑞々しいですね。この辺では見かけない果物のようですが、どうやって仕入れてるんですか?」

「お?良いところに目を付けるね。これらは東のヒシナリ港で仕入れている別大陸の果物さ。ちょっと変わった味だが美味しいって結構評判良いんだぜ」


別大陸の果物か。どうりで他では見かけないはずだ。

俺は果物を見る振りをしながら目配せでロシェにどれがいいか聞く。

彼女が指さしたのは緑色の丸い果物だった。


「別大陸からですか。それは気になりますね。それじゃ、これとこれ下さい」

「お、良いね。その緑のはメロウって言って特別甘いぜ。赤いのはリィゴで少し酸味があるさっぱりした味だ」


自分用に選んだ赤い果物と合わせて取引を終える。


「まいどあり~」


店主の言葉を聞きながら近場にあった人気の少ないベンチに座り、ロシェにメロウを渡す。

リィゴを食べてみると店主の言う通りシャキシャキした触感でさっぱりした味だった。確かに少し変わってるが美味しいな。

ロシェの方を見てみると、満足気な様子でメロウを食べている。


「美味しそうだけど気に入ったか?」

『えぇ。とても甘いわ。今まで森で食べた果物と比べても一番かもしれないわね』

「へぇ、そんなにか。ロシェは甘いものが好きなのか?」

『えぇ。親兄弟はそんなでもなかったから私個人の好みだと思うけど』

「兄弟が居るのか・・・あれ?それって今頃ロシェのこと心配しているんじゃないのか?」

『あぁ、私達の種族は一定の年齢になると家を出るのよ。もう長らく会ってないわ。弟達ももう家を出てるでしょうね』

「そうなのか。なんかちょっと寂しいな」

『まぁそうかもね。今まであまり気にしたことなかったけど』


思わぬところでロシェのことを色々聞くことができた。

果物を食べ終わりロシェが気に入ったということで、再度メロウといくつかの果物を取引してマジックバッグにしまう。

これはロンディさんに聞いて知ったのだが、マジックバッグの中では時間が経過しないらしく、物が腐ったりしないのだ。恐ろしく便利である。

その後、そういえばこの街では商業ギルドに行ってないなということに気づき寄ってみることにした。

この街の商業ギルドも大きさはロンデールと変わらないくらいの建物だった。中に入ってみると何やら商人たちが慌ただしく動いている。何かあったのだろうか?


「随分慌てていますが何かあったんですか?」

「何かってアンタ知らないのか?いや、悪いが急いでるんだ。知りたいなら受付ででも聞いてくれ!」


そういうと男はギルドで買ったらしい道具類を纏めて、ギルドを出て行った。よく見ると人が集中しているのは探索道具の販売をしているエリアで受付は空いているようだ。


「なんか慌てて道具を買いに来ている人が多いみたいですけど、何かあったんですか?」

「いらっしゃいませ。それが、昨日ここの北の方で黄金竜が飛んでいるのを見た人が居るらしいんですよ」

「黄金竜?」

「知らないんですか!?あ、いえ。文字通り全身が黄金に輝く竜のことです。とても希少なもので鱗一枚でも大金になるようです。商人ならたとえ噂程度でも動かずにはいられないということでしょう。万が一本当で、何らかの素材が手に入れば一攫千金ですから」


なるほど。受付の人の話で納得した。もちろん無駄骨になる可能性も高いが噂の真偽を確かめている間に先を越されるのも嫌だということなのだろう。

せっかくの機会だし俺も行くだけ行ってみようかと思ったのだが、そこでふとある考えが頭をよぎった。

確か明日はミア達が王都に向かって出発する日だ。その直前にこんな噂が流れるのはタイミングが良すぎないだろうか?クロヴさんに聞いた話だと確か王都は南の方角にあるはずだ。そこもまたあからさまに怪しい。

騎士達が人目を避けるために流したのか、襲撃者達が余計な邪魔が入るのを排除するために流したのかしらないが、恐らくこの噂はどちらかが流した嘘な気がしてならない。

他には特に気になる情報もなかったため、一旦宿に戻ってロシェに俺の考えを話してみた。


『人間の考えなんて私には読み切れないけど、状況をみる限り、アキツグの考えはあっていそうな気がするわね』

「だよなぁ。踊らされる人達は可哀想だけど、王女の、ひいては王国の一大事となればしょうがないか」

『まぁ、彼らも最初から半信半疑で動いているんだし、それほど落胆はしないんじゃない?それに嘘の噂のつもりが真実だったなんて万が一もあるかもしれないし』

「確かに。最初からあるかも分からないものを探しに行ってるんだから、見つからなかったとしても仕方ないと思う程度かもしれないな」

『それで?アキツグは万が一の運試しをしに行くの?』

「いや、金銭に困っているわけでもないし、やめておくよ・・・いや、金銭が使えないことには困っているけど。それよりミアは大丈夫かな?どっちが流した噂なのか分からないが心配だ」

『流石に本隊に合流できたなら大丈夫じゃないかしら。私も心配ではあるけど、あの近衛兵の人達に付いて行っても邪魔にしかならないでしょうし』

「それは・・・そうだな。せめて俺がもうちょっと戦えれば足を引っ張ることもないんだろうけど」

『無いものねだりしてもしょうがないわよ。身を隠すすべは手に入れたんだし前進はしてるんじゃない?』

「あぁ。なんでもネガティブに考えてしまうのは良くないな。ロシェありがとう。少し元気出たよ」

『それならよかったわ。まぁミアのことは近衛兵の人達を信じるとして、私達はどうする?』

「う~ん。結構慌ただしくこの街まで来てしまったし、もうしばらくのんびりしても良いかなと思ってるんだけど。・・・そういえばサムール村はどうなったんだろう?カルヘルド手前で襲われたから向こうもサムール村に残ってはいないと思うけど」

『気になるのなら見に行ってみる?』

「気になるといえばなるけど、何もされてなかった可能性もあるし、何かされてたとしてもハロルドさんが上手く対処している気がする。俺がいまさら行ったところでできることもなさそうなんだよな」


しばらく他に良い案も浮かばずベッドに寝転がりぼ~っと天井を眺める。

ロシェも何を言うでもなく側で寝そべっている。

俺の考えが纏まるのを待ってくれているのだろう。長らく一人でいた俺にとってロシェのような存在は貴重だ。俺が彼女を助けたからというのもあるんだろうが、彼女は俺の意思を尊重してくれる。

とはいえ、彼女に頼り切りというのも良くないだろう。


「そういえば、東のヒシナリ港に行ってみるのもいいかもしれないな。果物以外にも珍しいものが見れるかもしれないし、海を見る機会なんてそうなさそうだしな。」

『確かにあの果物は美味しかったわね。メロウって言ったかしら。ところで海っていうのは何かしら?』

「あれ?ロシェはもしかして海を見たことがないのか?簡単に言えばとんでもなく広い水たまりのようなものだが」

『湖の様なものかしら?』

「それよりもさらに広いな。世界規模って言えば分かりやすいかな?」

『へぇ。想像がつかないわね。私はこれまで森の中で過ごすことが殆どだったから。どんな景色なのか興味が湧いてきたわ』

「そうか。それなら次はヒシナリ港へ行ってみようか」


次の目標も決まったところでその日は休むことにした。

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