第20話 魔法研究所にて
次の日、ロンディさんを待たせるのも悪いと思い早めに店を訪れた。
ちなみに今回ロシェには別行動をしてもらうことにしている。
魔法解析室というのがどんなものかは分からないが、ロシェが入って何かまずい情報が収集されてしまうと彼女に不利益になると考えたからだ。
彼女も気にした様子もなく『適当に散歩してくるわ』と言って出て行った。
従魔の契約によりお互いの存在はなんとなく分かっているが、ロシェの方がより感覚が鋭いようで、彼女は俺の位置まである程度把握できるらしい。
なので、用事が済むか何かあった時には合流することになっている。
店に入り昨日の応接間まで来て念のため扉をノックする。
「どうぞ」
中からロンディさんの返事が聞こえた。既に部屋に居たらしい。
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「おはようございます。いえいえ、少し準備などしていただけですからお気になさらず。早速ですが、そちらに用意したマントとブーツの着用をお願いします」
言われたほうを見るとテーブルの上にマントとブーツが用意されている。
テーブルの前にはご丁寧に姿見まで用意されている。
俺は言われるままにマントを着用し、ブーツに履き替えた。
姿見を見てみると目の前には俺の姿はなく背後の風景が写されていた。
ブーツの履き心地も問題なく軽く跳ねてみても本当に音がしない。
すごいな。これなら俺でも隠密行動ができそうだ。必要な機会が訪れるかはともかくだが。
「このブーツもすごいですね。全然音がしないです」
「気に入って頂けたなら何よりです。流石に限度はありますが走行や軽い跳躍程度の音は消すことができますよ。それでは研究所へ向かいましょうか」
ロンディさんについて研究所に向かう。
このブーツも相当な貴重品だろう。値段が気にはなったが予想通りの返答が返ってきそうだったので聞くのはやめておいた。
店を出てロールートを使い研究所に向かう。
道中人にぶつからない様に歩くのに苦労した。普段なら相手もこちらを避けようとするので自然とすれ違えるのだが、今の俺は相手に見えないため、俺が避けなければぶつかってしまうのだ。
ロンディさんも同じような経験をしたことがあるのか、こちらを見ないようにしながらもくすくすと笑いを堪えていた。
研究所に入るとロンディさんの言っていたことが理解できた。
入り口近くに案内図が置かれており、どの区画の所有者が誰なのかが記載されている。俺たちはロンディさんの所有している区画へ向かい、そのまま魔法解析室へと入った。
「記録装置の起動をしてきますので、しばしこちらでお待ちください。あ、阻害効果がありますので、姿隠のマントは外しておいてください」
そう言って、ロンディさんは扉の一つに入っていった。
マントを外し部屋を見渡してみる。ものは何も置かれていない簡素な部屋で、部屋の所々が点滅しているのが見える。さらに天井の四隅にはカメラのようなものが備え付けられていた。
手持無沙汰でぼーっとしていると、ロンディさんが先ほどの扉から戻ってきた。
手には中身が詰まってそうな大きめのバッグを抱えている。
「お待たせしました。それでは早速始めたいと思いますが、何か気になることなどありますか?」
「部屋のあちこちで光が点滅していますが、あれは何ですか?」
「あぁ、あれは魔力センサーです。あれによって、この部屋内での様々な魔力情報を取得しているのです。そして天井付近にあるカメラで映像を記録しています」
「なるほど。ちなみにそのバッグは?」
「これはアキツグさんと取引するためのものです。ものによって違いが出るかの検証のため、食べ物、日用品、魔道具、武具などいろいろ揃えてみました。可能なら一度交換したものを再度交換した場合なども試してみたいと考えています」
そういえば物々交換をするのだから、交換するものを用意するのは当たり前だった。しかも様々なパターンを用意している。こういうところは流石研究者だなと感心した。
「分かりました。再取引もできます。始めて貰って大丈夫です。」
「では、始めましょう」
そうして、ロンディさんとの取引が始まった。
ロンディさんが用意した色々な物と交換したり、値引き交渉をしてみたり、交換した商品で再度交換したりなど色々なパターンで取引した。
取引自体は順調に進んだが、一通り試したところでロンディさんは得心が行かないように首を捻っている。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでしょう。値引き交渉の時により感じたのですが、なんだか普段の交渉よりも判断が甘くなっているような・・・そう、損した感覚はないのですが、改めて考えると通常では納得しないような価値で取引している様な気がするのです」
「あぁ、それは恐らくスキルの影響だと思います」
そういって俺はスキルの効果である『交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する』ことを伝えた。
「なるほど。この辺でも相手の感覚や感情を取引内容に影響させているのですな。需要や好感度による変動というのは通常の取引でもあるものですが、わざわざ明記されているということはこれらにもスキルの補正がされているということなのでしょうな」
ロンディさんは自問自答をしながら考察を深めていた。
最後に金銭の扱いに確認させて貰ったが、これは予想通り、受け取ることはできた。だが、その後でロンディさんに何かを渡そうとすると体が動かなくなった。スキルにより行動が制限されたらしい。試しにロンディさんが何かを貰おうと近づくと勝手に体が飛びのいた。やはり実質的に取引の扱いになるとだめらしい。恐らくは贈与が完了したと判断されるまではこのままなのではないかと思われた。
「金銭の件を最後に回したのは正解でしたな。さて、一通り試し終わりましたし、本日はこれにて終了としましょうか。ご協力いただき誠にありがとうございました」
そう言ってロンディさんは深々と頭を下げた。
俺は慌てて返事をする。
「いや、ロンディさん頭を上げて下さい。十分過ぎる報酬を頂いていますし礼を言うのはこちらの方です」
「いやいや、あなたに出会えなければこのスキルを知る機会すら得られなかったかもしれない。その報酬は正当なものですよ」
「そう言って頂けるとこちらとしてもありがたいです。それではこれで」
「えぇ。もしまた何かあればいつでもお越しください」
ロンディさんに別れを告げて、忘れずにマントを羽織り研究所を出る。
念のため宿まで戻ってからマントを外していると入口の戸をカリカリと擦るような音がする。
扉を開けるとそこには誰も居なかった。だが、俺は気にせずに扉を閉めた。
「おかえり。散歩はどうだった?」
『ただいま。そうね。最初は少し街を見てたんだけど、私だけじゃ店の中に入ったりするわけにもいかないしね。街を出て近くの森を見に行ったんだけど、意外なことにそこで知り合いに会って色々話してたわ』
「知り合い?」
『えぇ。同族のね。まさか私もこんなところで会うとは思わなかったんだけど、この周辺は危険な獣も居ないし過ごしやすいらしいわ』
「へぇ。よかったじゃないか」
『まぁね。と言っても別に私達の種族は集団意識みたいなのはないから、珍しいって思った程度だけど。そっちはどうだったの?』
「あぁ、特に問題なかったよ」
そう言って、研究所での出来事をロシェに話した。
『そう。良い道具も貰えたし余計な秘密もバレなかったなら良かったんじゃない?今日の記録がどう扱われるのかは気になるけど、今は気にしてもしょうがないでしょうし』
「うっ。そうなんだよな。いやまぁロンディさんは良い人だったし、悪いことにはならないと信じよう。さて、依頼も終わったしまた街の散策にでも行くか。まだ見れてないところも結構あるし」
『そうね』
そうしてロシェと共に宿を出た。
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