第19話 ロンディとの交渉
二階に戻ってきてどうするか考える。ロンデールでの取引が上手くいっていたこともあり資産的には余裕がある。だが、魔力補給の目途が立たないと使いきりになってしまう可能性がある道具を買うのはどうなのだろうか?
「ロシェ、魔道具を買ってみようか迷ってるんだがどう思う?」
『私に聞かれてもね。。まぁ、買ってみても良いんじゃない?マジックバッグに入れておけば少なくとも邪魔にはならないでしょうし。もしくは店員に魔力補給の方法でも聞いてみたら?』
「確かにそうだな。聞いてみるか」
手近な店員に話を聞いてみると、魔法が使えなくても魔力補給自体はできるらしい。ただ、魔力が少ない人の場合、再使用までに数日分の魔力が必要になることもあるのだとか。魔力量については冒険者ギルドなどで調べることができるとのこと。
店員に礼を言ってからもうしばし悩んでいたが、気になっていたモノクルと魔熱板を買うことにした。
支払いも問題なく終わり店を出ようとしたところで後ろから声を掛けられた。
「ちょっとお客さん、ストップ!ストップ!」
振り返ってみると40代ほどの恰幅の良い男性が少し焦った様子で立っていた。
「なんでしょうか?」
「少しお聞きしたいことがあるんですよ。あ、失礼しました。私この店のオーナーのロンディと申します。」
??なんで突然オーナーが俺に話しかけてくるんだ?支払いは間違いなく済ませたし、他に思い当たることも・・・もしかしてロシェを姿隠状態のまま店内で歩き回らせてしまったことがバレたりしたのだろうか?
とはいえ入店不可の様な注意書きもなかったし怒られるようなこともないとは思うのだが。
「聞きたいこと・・・ですか」
「えぇ、応接室にご案内しますのでお時間が許すのであれば是非!」
相手の様子からこちらに悪意があるようには見えない。
よく分からないが話を聞くくらいは問題ないか。
「分かりました」
「良かった!それではこちらへどうぞ」
ロンディさんの後について応接室まで案内される。
席に座ると店員さんらしき人がお茶と茶菓子を用意してくれた。
「急にお呼び立てして申し訳ございません。改めましてロンディと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「アキツグです。よろしくお願いいたします」
「それでは早速本題なのですが・・・失礼を承知でお聞きしたいのですが、アキツグさん、うちで支払いの際にスキルを使用されましたか?」
その一言に心臓が跳ね上がる。
当たり前になって意識から抜けていたが、物々交換での支払いなんて特異なものの筆頭じゃないか。今まで誰にも違和感すら持たれなかったので、気づかれることはないと思い込んでしまっていた。
「えっと、支払いは問題なく処理されたと思っているのですが、何故スキルを使用したと?」
「ふむ。誤解して欲しくはないのですが、私は支払いについてあなたを責めるつもりはありません。スキルを使用した根拠としては支払いが金銭ではなく物品で行われていたからです。うちでは通常物品での支払いは受け付けておりませんので」
バレてる。やはり物々交換で取引したことがバレている。
これは言い訳は苦しいか。。
「ご推察の通りです。ただ、使用したというか常時発動している効果であり、悪意があって物品で支払ったわけではないのです」
「なるほど、そうでしたか。実は店内監視の魔道具にほんの少しですがノイズの様な反応がありましてな。何事かと確認したのですが、まさか取引に干渉するようなスキルが存在するとは」
「こちらとしては仕方なかったのですが、申し訳ありません」
「いえ、それはお気になさらず。それよりもお願いしたいことがあるのです」
「お願い・・・ですか?いったい何でしょう?」
「ご存じかもしれませんが、魔道具の多くは魔法やスキルを解析してその仕組みを道具として使えるようにしたものになります。そしてあなたのようなスキルを私は見たことがありません。魔道具の発展のために是非そのスキルについて調べさせていただけないでしょうか?!」
ロンディさんは話すうちに興奮してきたのか最後の方はこちらへ乗り出すように訴えてきた。
「ちょ!?ちょっと待ってください。できることなら協力したいとは思いますが、このスキルは私にとって命綱なので流石に人に詳細を知られるわけには。。」
「やはりそうですよね・・・もしご協力頂けるのであれば、あなたのことは誰にも漏らしませんし、相応の謝礼も御用意致しますが、それでも難しいでしょうか?」
う~ん。正直なところは誰にも知られたくない。だがロンディさんには既に特異なスキルがあること自体はバレてしまっている。ロンディさんがその気になれば俺の存在をばらすという脅しで無理やり聞き出すことも可能なのだ。その上で下手に出てくる時点である程度の信用はできると思う。まぁこの考えすらも向こうの手の内の様な気もするが。
とはいえ、物々交換はともかく知識の交換までできることがバレるのはマズイと思う。俺自身まだ1回しか使えていないが、使い方によっては機密情報などを盗み出せるかもしれないのだ。世に広めて良いものではないだろう。
・・・待てよ?知識の交換についてはまだ見せたわけではないし、調べ方によっては隠せるか?
「あの、スキルを調べるというのはどういう方法で調べるのでしょうか?」
「魔法研究所に魔法解析室という専用の部屋があります。そこで実際にスキルを使用していただき、その時の魔力の質や流れ、相手への影響など様々な情報を記録して、それがどのように発現しているのかを調べるのです。アキツグさんにはその部屋で物々交換をして頂くだけです」
「あの研究所ですか。見た感じかなり大きな建物でしたが、人も大勢いるのでは?」
「あぁ、確かに大きな建物ですが中は複数区画に分かれてましてな。それぞれ所有者が異なるのです。必要なら共同研究も可能という形ですな。実は私も研究員の一人で1区画の所有者なのですよ。ですから、他の所有者に知られる心配はありません。アキツグさんが望むのであれば当日の記録も私一人で行いましょう。流石に解析作業にはうちの研究員も加わることになりますが。。あと道中もこれを使用すれば心配は無用です」
そういうとロンディさんは部屋の隅にある収納棚から1枚のマントを取り出して身に着けた。その途端ロンディさんの姿が消える。まるでロシェが消えたのと同じような光景を見て俺は驚く。
「どうです?これは
確かにこれらを使えば俺のことは気づかれないだろう。知識の交換については不安要素だが、発動条件の特定条件下はロシェの時を考えるに相手の危機を救った時とかだと思う。であればこの調査中に発動する可能性は低いだろう。ここまでの譲歩もしてくれているし、断ったことで遺恨を残すのも怖い。まぁ受けてもいいか。
「分かりました。但し、本当に俺のことは他の研究員にも秘密にしてください」
「それはもちろんです。私の魔道具人生に掛けて誓いましょう!」
「あと報酬については?」
「そうですな・・・そうだ!ちょうど使っていただくこの姿隠のマントと消音のブーツでどうですかな?」
「えっ?!いや、それ確かものすごく高かったような・・・」
確か三階で見た覚えがある。何百万だか何千万高の馬鹿げた金額だった気がする。あまりの額に俺には縁がないだろうと思っていたのだが、、
「当然です。あなたが言った通りそのスキルは命綱と呼んでも差し支えない希少なスキルですからな。それに魔道具の発展を考えればこのくらいの投資は惜しくありません」
なんだかそこまで評価されると一部を隠そうとしている俺の方が悪い気がしてくる。いやでも、こればかりは仕方ないだろう。もしバラすとしてもそれはロンディさんが本当に信用できると確信できたときにしよう。
「ありがとうございます。そこまで評価して頂けるのであれば私も協力します」
「おぉ!ありがとうございます!きっとこれでまた一歩魔道具の発展に繋がることでしょう。では、また明日の朝にこちらまで来て頂けますかな?この部屋を開けておきますので」
「分かりました。それでは今日はこの辺で」
「はい。また明日お待ちしております」
ロンディさんとの話を終えて店を出る。ちょっと魔道具を見てみるだけのつもりがとんでもない話になって何だか疲れてしまった。
『お疲れ様。なんだか大変そうだったわね。まぁ、襲われたりしなかっただけマシだったんじゃない?』
「そうだな。そう思うことにしておくよ」
ロシェの励まし?に少しだけ癒されながら帰路に着く。
今日のところは適当に宿を探してもう休むことにしよう。
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