魔道具と魔法と同郷と
第18話 研究都市カルヘルド
冒険者ギルドに入ろうとしたところでちょうどセシルさんが中から出てきた。
「あら、これから向かおうかと思ってたんだけど、その様子だと問題なかったみたいね」
「あぁ、ミアは無事合流できた。連れてきてくれてありがとうと伝言だ。直接伝えたいとも言ってたから、良ければ会いに行くと良いだろう。報酬は後ほど冒険者ギルドから受け取れるようにするという話だった」
「そう。襲撃者の方は残念ながら今のところ収穫なしよ。研究所から何かの魔道具の提供依頼を出しているみたい。さて、他に用事があるわけでもないし会えるか分からないけど、向かってみましょうか」
「あ、セシルさん。あそこに行くならこれを」
そう言って、合言葉を書いたメモをセシルさんに渡す。
彼女はそれを見ると理解したように頷いた。
「なるほどね。ありがとう。依頼も完了したしあなた達とも一旦お別れね。まぁクロヴは時々見かけるけど」
「活動地域が同じだからな」
「そうね。それじゃ、アキツグもまた機会があればよろしくね」
「はい。ここまで護衛ありがとうございました」
彼女はひらひらと手を振りながら『青銅の棺』の方へ歩いて行った。
俺たちはそのまま冒険者ギルドへ入っていく。
「受付はあっちだ。そういえば聞いてなかったが冒険者登録はしているのか?」
「いえ、していません」
「そうか、冒険者として活動しないなら必要ないか。それじゃ俺は襲撃者の方の様子を見にいく。たぶん信じて貰えないだろうから、契約相手のことは受付に俺から一言言っておくよ。」
「ありがとうございます。クロヴさんもここまで護衛ありがとうございました」
「あぁ。また一緒になる機会もあるだろう。それまで元気でな」
「はい。クロヴさんもお元気で」
そしてクロヴさんは受付の一人に声を掛けると視線でこちらを示した。
受付の人は驚いた様子でこちらを見るが、クロヴさんに向き直って頷きを返した。
クロヴさんが離れていったところで、その受付に声を掛ける。
「すみません。先ほどクロヴさんに事情を説明して貰ったアキツグと言います。従魔登録をお願いしたいのですが」
「しょ、承知しました。別室に案内しますので、こちらへ」
彼女の案内でギルド内を進んでいく。
前を歩きながらも彼女はちらちらと振り返っては俺の周囲を気にしている。
やはりそれほどハイドキャットの存在は珍しいということなのだろう。
部屋に案内されてしばらくすると、一人の人間が入ってきた。
「お待たせしました。従魔登録担当のミュエラと申します。アキツグさんでお間違いなかったですか?」
「はい。俺がアキツグです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。早速ですが、契約対象のハイドキャットはどちらに?」
「ロシェ、頼む」
俺がロシェに声を掛けると、足元に居たロシェが姿隠を解いて姿を現した。
ミュエラは突然ロシェが目の前に現れたことに少しの動揺を見せたが、すぐに平静を装うと話をつづけた。
「確かに。では、まず従魔登録についてご説明させて頂きます。手順は契約主が魔法契約書に自分と従魔対象のについて記載し、その後契約書を媒体とした儀式魔法にて従魔対象がそれを受け入れれば契約は完了となります。
注意事項として、従魔対象が催眠や従属系の魔法で無理やり従わされている場合、儀式魔法により無効化されるため、従魔対象に拒否され契約は無効になります。その際従魔対象が暴れた場合の損害費用は契約主の負担となります。ここまででご質問はございますか?」
「えっと、街中を連れ歩くなら従魔登録をしたほうが良いと聞いたんですが、従魔登録をしていれば街の中に入れても問題ないという認識であっていますか?」
「基本的には問題ありません。もちろん従魔が何らかの危害や損害を与えた場合、その責任は契約主の負担になります。例外として契約内容に何らかの不備があり従魔が暴れる原因となった場合は冒険者ギルド側が対処することになります。また一部従魔の入街を許可していない街もあります。後ほどお渡しする補足資料に記載がありますので、そちらをご確認下さい。まぁ、そういう街は入る際にも注意を受けるので間違うことはないと思います」
「分かりました」
「他はありませんね?では契約書への記載をお願いします」
俺は渡された契約書に自分とロシェのことを記載してミュエラさんに渡す。
「はい。確認しました。ではこちらの魔法陣の上に立ってください」
言われた通り魔法陣の上に立つと、ミュエラさんが契約書を翳しながら呪文を唱え始める。呪文に応えるように魔法陣が光を帯びて徐々に輝きを増していき、眩しさを感じるようになった辺りでぱっとその光が弾けた。
その瞬間、俺とロシュの間に何かの繋がりができたような感覚を覚えた。
「契約は問題なく完了しましたが、何か違和感などはありますか?」
「ロシュとの間に何かの繋がりができた感じがありますが、これが契約の効果なんですか?」
「はい。その感覚によりあなた達はお互いの状況をぼんやりとですが把握できるようになるはずです。どちらかが危機的状況に陥った場合、その感覚の糸を辿れば相手を見つけることも可能かもしれません」
なるほど。離れて行動していてもお互いのことが分かるのは便利な気がする。この感覚がどのくらいの距離まで有効なのかは確認しておく必要があるだろうが。
「分かりました。それ以外には違和感とかもないです」
「承知しました。それでは従魔登録はこれにて完了となります。受付にて精算をお願いします」
「はい。ありがとうございました」
部屋を出て先ほどの受付に向かい、いつも通り物資で支払いを終える。
従魔登録は終えたもののロシェには一応姿隠を続けて貰っている。
必要以上に目立ちたくないというのは俺とロシェの共通認識だったからだ。
「さて、従魔登録も終わったけど、どうするかな。街の様子見も兼ねて色々見てみるか」
『魔道具が有名らしいし、魔道具店にも寄ってみると良いんじゃない?』
「確かにそうだな。マジックバッグみたいな便利なものが他にもあるかもしれないしそこは是非寄ろう」
方針が決まったので、冒険者ギルドを出て適当に街をぶらついてみる。
魔道具で発展したというだけあって、ロンデールでは見なかったものもいくつか見かけた。
例えば、染色店の前には恐らくは宣伝と思われる様々な色を表示する看板の様なものが飾られている。人形やぬいぐるみを扱っているお店では店の窓際でぬいぐるみが踊っているのが見える。
魔道具はお店の宣伝にも利用されているようだ。
まずは大通りをとあちこち見ていると、街の中央辺りでひときわ大きな店を見つけた。店名を見てみると『ロンディ魔道具店』と書かれている。
ここがこの街一番の魔道具店かな?道中には他にも魔道具店らしき店は他にもあったが、立地的にも規模的にもここが一番だと思われる。
店内に入ると入り口辺りに案内板があった。どうやら三階建ての様で、一階は日用品その他、二階は冒険者や旅用品、三階は高級品という形で売り場が分かれているようだ。
便利な日用品などであれば取引に使えるかもしれないとみてみたが、どうやら動力として魔力が必要になるようだ。考えてみれば魔道具なのだから当たり前か。魔蓄機と呼ばれるものに魔力を補充してそれを動力とするらしい。
この街には魔力を補充できる施設もあるのだが、他の街では難しいだろう。
一先ず保留にして二階を見てみる。
二階にも色々と気になる者は多かった。魔力で光るランプや遥か遠方を見ることができるモノクル、火がなくても調理などができる魔熱板など、見ているだけでも結構楽しい。当然値段も相応にするのだが、買えないほどでもない。ただ魔力の補充がなぁ。。などと考えながら3階も見てみることにする。
うっ!上がってすぐに気付く。値段の桁が違う。そこには魔法武具や飛行を可能にする道具など希少なものが揃えられていた。フロアに居る客も明らかに金持ちや貴族だと分かるような者、もしくは歴戦の冒険者と思われる者たちばかりだ。
場違いなのを理解して二階に戻ることにした。
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