第17話 依頼の完了と別れ
その後、やっとのことでカルヘルドに到着した。
かなり発展しているようで、街の入り口のすぐ先には聞いた通りロールートがあり、ほとんどの人はそれに乗って街の各地に移動しているようだ。
正面の奥の方には大きな建物が2つ見える。あれが学園と研究所だろうか?
検問を終えて中に入る。するとセシルが捕まえた襲撃者を連れて先行した。
「私はこいつを冒険者ギルドまで連れて行くわ。情報を吐く可能性は低いだろけど」
「セシルさん、これを持って行ってください。何かに役立つかもしれません。」
というとエルミアは封書の様なものをセシルに渡した。
「これは?・・・!王印入りの封書。使っていいの?」
「えぇ、必要な時は使ってください。襲撃者の情報は重要ですから」
「分かったわ。これなら研究所の方に協力も頼めそうね」
「お願いします。何か分かれば教えて下さい」
「えぇ」
そう言ってセシルは念のためと衛兵と一緒にギルドへ向かっていった。
「それじゃ俺達も行くか。目的地はどこだ?」
「街の南東にある『青銅の棺』っていう道具屋です」
「よし行くか」
三人と一匹で『青銅の棺』へ向かう。
ロールートは思った通り、歩く歩道みたいな感じだった。街の中央から東西南北にそれぞれ伸びているようだ。
ロシェには念のため透明状態で付いてきてもらっている。時間があれば冒険者ギルドに行って従魔登録をしたいところだけど。
「そういえば、ロシェ。君が危険な存在じゃないと周囲に示すために俺の従魔として登録したいんだけど、そういうの嫌だったりするか?」
『別に構わないわよ。変な焼き印されるとかなら流石に嫌だけど。魔術的な契約くらいなら問題ないわ』
「クロヴさん、従魔登録ってどういうことをするんですか?」
「ん?あぁ、ハイドキャットか。別に難しいことはない。魔術的な契約書に記入して従魔対象がそれに抵抗しなければ登録が完了する。あの懐き具合なら抵抗はされないと思うぞ」
良かった。それなら時間もそんなに掛からなそうだ。
ロシェにも了解を貰ったし、後で行くことにしよう。
「着いたぞ。ここだ」
店の前には『青銅の棺』とまさに棺の様な看板に店名が記されていた。
こんな看板で客が来るのだろうか?疑問には思ったが、今回のような件で使われることからわざと人を遠ざけるような見た目にしているのかもしれない。
ともあれ全員で店に入ることにする。
「いらっしゃい。こりゃ珍しい、団体さんだね」
出迎えたのは、60代くらいの眼鏡をかけた男性だった。
俺は男性に近づくと小声でハロルドさんから聞いた合言葉を告げた。
「”秘密は棺桶の下に”。ハロルドさんから聞いてきました」
「なるほど。そういうことかい。全員お仲間さんで良いのかい?」
「はい。大丈夫です」
そう答えると彼はしゃがみ込んで何かを操作すると、カウンターの内側に入るよう指示した。
内側に入るとそこには地下への階段があった。
「しばらく進むと広間に出る。そこまでは暗いからこれを持っていきな」
そう言って明かりのついたカンテラを渡される。
「ありがとうございます」
「先頭は俺が行こう。大丈夫だとは思うが念のためな」
そうしてクロヴさんを先頭に階段を下りて地下を進む。
しばらく歩くと言っていた通り広間が見えた。そこには既に何人かの人間がいるようだ。
一瞬待ち伏せを疑い警戒したが、そこに居るのは黒ずくめではなく、どちらかと言えば騎士に近い恰好をしていた。
さらに近づいていくと向こうも気づいていたようでこちらに視線を向ける。
そしてエルミアの姿に気づくと全員が跪いた。
「エルミア様!よくぞご無事で」
「えぇ、私を逃がしてくれた近衛の皆と、ここまで連れてきてくれた彼らのおかげです。あと皆さん姿勢を楽にしてください。ここは王宮ではないのですから」
言われて彼らは立ち上がりながらこちらに視線を向ける。
「彼らは・・・冒険者ですか?」
「冒険者のクロヴさんと商人のアキツグさんです。あともう一人、セシルさんが先ほど捕まえた襲撃者を冒険者ギルドへ連行しています。どなたか状況を確認してきて下さい」
「承知しました」
「紹介にあずかりましたクロヴです」
「同じくアキツグです」
「そうか、エルミア様を助けて下さったこと感謝する。私は近衛第2部隊隊長のゴドウェンだ」
「ふふっ!実はもう一人居るんですよ。皆さん分かりますか?」
言われて彼らは怪訝な顔をした。広間と言っても見渡せる程度の広さしかないし、俺たちの後ろにも姿も気配もない。
やはり彼らでもロシェには気づけないようだ。
『私のことまで紹介する必要はないのに、ミアは律儀ね』
「!?猫の鳴き声?まさかハイドキャットか?」
「えぇ。今は姿を隠していますが、頼もしい仲間です」
彼らはかなり動揺していた。味方だからいいものの近衛兵として間近に居る存在に気づかなかったのだ。もし敵であれば彼らは初撃に対応できないことになる。
「これは・・・迂闊でした。存在感知の魔道具を用意するべきですな。ハイドキャットのような存在は希少ですが、敵が似たような魔術を使う可能性は考慮しなければ・・・」
隊長らしき男はぶつぶつと考え事をしている。エルミアはせっかく紹介した友達のことがスルーされて少し不満げな様子を見せたが、すぐに表情を戻して続けた。
「さて、皆さんの紹介も終わりましたし、今後のことについて話しましょうか。そちらの体制はどうなっていますか?」
「はっ。我ら先遣隊は昨日到着し、情報収集を行っておりました。明日には本隊も到着する予定です」
「そうですか。それならば二日後には出発できそうですね。ではゴドウェン隊長、引き続き情報収集と補給を進めて、本隊の準備が整い次第出発できるように対応をお願いします」
「承知いたしました」
エルミアの命を受け、ゴドウェンは部下に指示を出し始めた。
エルミアは一息つくとこちらに戻ってきた。
「近衛兵とも合流できたし、私はもう大丈夫です。予定よりだいぶ長くなってしまいましたが、ここまで連れてきてくれてありがとう。セシルさんにも伝えておいてくれる?街を出るまでに合えたら直接お礼を言いたいとは思ってるけど」
「あぁ、伝えておこう」
「報酬については冒険者ギルドで貰えるようにしておくね。すぐには難しいかもだけど、ある程度融通が利くように依頼しておくわ。
王都まで来る機会があれば、ぜひ遊びに来てね。あなた達には会えるようにしておくから」
そう言ってエルミアは寂しそうに笑った。
2,3日とはいえ一緒に旅をした仲間だ。俺も正直寂しい部分はある。
それに王宮に戻れば、王女としての責務が待っている。
旅の中で見せたような素の姿で居られる時間も限られるのだろう。
とはいえ、こればかりはどうしようもない。
「ミア、短い間だったけど、楽しかったよ。必ず王都に行くからその時は良ければ王都の案内でもしてくれよ」
「えぇ、もちろん。王都のことなら任せて。美味しいお店とか色々知ってるから」
「あぁ、期待している。あと良かったら、これ持って行ってくれ」
そう言って木彫り細工からエルミアが好きそうなものをいくつか見繕って袋ごと渡した。
「わぁ、可愛い!ほんとに貰っていいの?」
「あぁ、友達になった記念にプレゼントだ」
「ありがとう。大切にするね!」
するとロシェも姿を現してエルミアに頭を摺り寄せた。
『私も楽しかったわ。ミア、また会いましょう』
「私も楽しかった。また会おうってさ」
「ありがとうロシェ。またね」
エルミアもロシェの頭を優しく撫でて再会の約束をして別れを告げた。
その後、道具屋から外に出るとクロヴさんと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
「クロヴさんはあまり話してなかったけど、良かったんですか?」
「あぁ。というか、旅の間も思ってたがアキツグが気安すぎるだけだぞ。エルミア様がああいう性格だから問題なかったが、本来話をするのも恐れ多いんだからな?」
言われてみればそうかもしれない。ミアが普通に接してくれるからあまり意識してなかったが、この世界で王族と話す機会なんてそうそうないだろう。
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