第16話 襲撃2

賑やかになり過ぎて注意される一幕はあったものの、道中襲われるようなこともなく今日予定していた野営地には到着できた。

無理をすれば夜にはカルヘルドに到着できたかもしれないが、検問で怪しまれる可能性もあるし、夜は相手にとって有利な時間だ。尾行されて潜伏場所がバレては元も子もないということで、ここで一泊することになった。


「そういえば、カルヘルドってどんな街なんですか?」

「カルヘルドか、あそこは魔法や魔道具研究が盛んな街だな。街灯にも魔道具が使われているし、ロールートと呼ばれる公共設備がある」

「ロールート?」

「あぁ、足元がな勝手に動くんだ」


動く歩道みたいなものか?確かにこの世界では珍しいだろう。

前の世界でも街中にはなかった気がする。


「ロールートを見るのは私も初めて!楽しみだなぁ」

「珍しさで言えば話の種にはなるだろうな。慣れてくると単に便利としか思わなくなるが。あとはそうだな、魔法学園と魔道具研究施設があるな。どちらも一般人はあまり関わる機会がないけどな」

「やっぱり学園の生徒は貴族階級の人が多いんですか?」

「いや、言い方が悪かったな。能力さえあれば平民でも学園には普通に入れる。学費はそれなりに掛かるらしいけどな。一般人ってのはそういうのに興味がない人達のことだ」

「学園って入れるのかな?」

「一般開放は特別な日以外はしてなかったと思いますが、どちらにしても今は近づくべきではないでしょう」

「こんな時じゃなかったらな~せっかく街まで行けるのに・・・なんか、もどかしい!」

「ミアは学園とかには通ってるのか?」

「一時期通ってたんだけどね・・・あ~色々あって家庭教師に変わっちゃったの」


どうやらあまり言いたくない何かがあったらしい。まぁ王女ともなればすり寄ってくる貴族やそれに紛れた暗殺者に狙われたりとか色々有り得そうだ。


「だから、学園自体は通ったことあるんだけど、魔法学園ってどういうところが違うのか気になるじゃない」

「確かに。どんなことを教えてるんだろう」

「俺も詳しくは知らないが、カルヘルドの魔法学園はマグザやパーセルにあるのとは違って魔道具研究に関する授業が多いらしいな。まあ当然と言えば当然の話だが」


マグザ、パーセルという街にも魔法学園があるらしい。

機会があれば行ってみたいが今は名前だけでも覚えておくか。


「どの辺が違うんですか?」

「マグザやパーセルは攻撃魔法や補助魔法みたいな戦闘に関する魔法が主体だな。冒険者にも魔法使いは多いが、大体がその学園からの卒業生って話だ。もちろん魔道具にも戦闘用のものはあるから共通する部分もあるとは思うが、さっきも言った通り詳しいことは分からん」

「なるほど。そういえばクロヴさんとセシルさんは魔法使えるんですか?」

「その質問、相手のよっては一触即発になるから安易に冒険者にしないほうが良いぞ?俺はそれほど気にしないが冒険者にとって手の内は知られてないほど有利だからな」

「あ、すみません。気を付けます」


迂闊だった。言われてみればその通りだ。この世界で魔法やスキルはものによっては切り札にもなるだろう。知られないに越したことはない。


「そっか~確かに火魔法が得意だって知ってたら水とか耐火防具用意したりできるもんね。私も気を付けよう」

「さて、明日は早めに出るぞ。そろそろ休め」

「分かったわ。おやすみなさい」

「おやすみ」


最後の野営ということで襲撃があるかもしれないと警戒していたのだが、幸いにもそんなことはなくその日も夜は静かに過ぎていった。


次の日は予定通り早めに野営地を発ち、しばらくすると遠目にカルヘルドが見えるくらいのところまでやってきていた。


『アキツグ、警戒して。右の林から何か近づいてきてるわ』

「襲撃者か?」

『分からない。けど、動物なら街道に入る私達に向かってきたりはしないと思う』

「分かった」


クロヴさんの方を見ると既に何かを準備しているようだった。

前もそうだったが気づくのが早い。もしかしたらセシルさんと何らかの方法で連絡を取っているのだろうか。単にロシェッテと同じくらい索敵能力が高いだけかもしれないが。

すると、クロヴさんから白い煙が立ち上った。


「やはり気づかれたか。だが、街の近くまでこれたのは幸いだな。衛兵がこれに気づけば救援に来てくれるはずだ。アキツグ、御者を頼む。俺とセシルは追いかけながら護衛する」

「分かりました」


そう言って御者台に座り、クロヴさんが馬車から少し離れたところでロシェに声を掛ける。


「ロシェ、悪いが敵が近づいてきたら迎撃を頼めるか。狙われているのはミアだけど、馬を止めるために先に俺を仕留めようとするかもしれない」

『もちろん。私の恩人と友達だからね。あんな奴らに傷つけさせたりしないわ』

「俺は友達じゃないのか?」

『恩人で友達よ』

「そっか。じゃ任せた!」


軽口を躱して俺は馬の制御に専念する。

正直怖くて仕方ないが、俺にできるのは少しでも早く街に近づくことだけだ。防御についてはロシェを信じることにした。


少しして、前回と同じくけん制の投げナイフが戦闘の開始を告げた。

林から次々と計5人の黒ずくめの姿が飛び出してくる。

うち二人はクロヴさんを抑えに行き、残りの3人がこちらに向かってくる。

向こうも短期決戦でエルミアを攫うことを優先しているようだ。

しかし、さらにその背後から飛び出してきたセシルさんが襲撃者の一人に奇襲を仕掛けて背中を斬りつけた。

斬られた襲撃者はバランスを崩して倒れたが、残りの二人は構わずに馬車の荷台に乗り込もうとしてくる。

だが、先頭に居た襲撃者が突如後方に吹っ飛んでいく。


「っ!見えない何かが居たという報告は本当だったか。厄介な」


前回の戦闘で逃げた二人はロシェに気づいていた。しかし、クロヴを相手にしながら様子がおかしいことに気づいた程度だったため、任務に失敗したこともあり、その報告はあまり信じられていなかった。


残った襲撃者は懐から取り出したものを荷台の方に向けて投げ放った。

それは逃げる対象を捕らえるための捕獲網だったが、ロシェは咄嗟に横に飛び退りその範囲から逃れる。

しかし、ロシェの着地に気づいた襲撃者がそこに数本のナイフを投擲する。

姿は消せても着地した際の地面の砂利の音までは消せない。襲撃者は音を頼りにロシェを狙っていた。

見えない相手への対処としては悪くなかっただろう。だが、そこには致命的な欠点があった。

相手の意図に気づいたロシェは飛んでくるナイフを飛び越える軌道で襲撃者に向かって飛び掛かった。

突然の反撃に気づけなかった襲撃者は頬を爪で切り裂かれ苦痛の声を漏らすが、咄嗟に持っていたナイフで目の前の空間を斬りつけた。

回避が間に合わなかったロシェは横腹を少し斬られてしまったが、襲撃者の体を踏み台にして飛び退りまた距離を離した。

流石のハイドキャットも体外に零れる血液までは消すことはできない。

出血は僅かだったが、目印ができてしまう。

そこにセシルと競り合っていた二人のうち一人がこちらに向かってきた。

味方を犠牲にしてでもエルミアを攫うつもりらしい。

ロシェは投げナイフでけん制されており、もう一人の対処まで手が回らない。

馬車に辿り着いた襲撃者が木箱に手を掛け蓋を開けたその瞬間・・・


!」


エルミアが全力で放った光を生み出す魔法により、目の前が真っ白になった襲撃者は予想外の反撃に目を眩まされて後ずさった。それは僅か数歩ではあったが、ここは移動中の狭い馬車の中である。馬車の淵に足を取られた襲撃者はそのまま転げ落ちてしまった。


「盗賊か!?助けに来た!」


そこに街からやってきた衛兵がやっと到着した。

流石に無理を悟ったのだろう。襲撃者達はセシルに倒された一人を残して林の中に消えていった。

セシルさんは襲撃者はまた毒で自殺しないよう猿轡を嚙ませていた。


「ふぅ。何とか助かったか」

『大分危なかったわね。ミアの機転のおかげで何とかなったけど』


(そういえば、ミアのライトって言葉が聞こえたと思ったら急に背後から光ったような気がしたな。あれが魔法だったのか。)


ミアの方を見るとまだ緊張が解けていない様で深呼吸をしていた。


「大丈夫か?」

「えぇ、もう大丈夫よ」

「ロシェがミアの機転のおかげで何とかなったって言ってるよ。魔法が使えるなんてすごいな」

「そんなに大したものじゃないよ。まだ基礎的なのしか使えないし。前に似たような経験があってね。私にできるのはこれくらいしかないと思ったから、上手くいって良かったわ」

「似た経験?」

「えぇ・・・ま、その話はいいじゃない。緊張で疲れちゃった。街に着くまでちょっと休ませて」

「あ、あぁ」


気にはなったものの、御者に戻ることにした。

カルヘルドはもうすぐのところまで近づいていた。

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