第15話 異種族の友達
次の日、昨日と同じように俺たちは二人で馬車を進ませていた。
そう二人である。昨日の襲撃でセシルさんが居ることはバレている、そして積み荷の中に王女が居ることも多分バレているだろう。そのため襲撃者には人数を誤魔化しても意味はないのだが、他の旅人には効果がある。もしもやつらが他の旅人から話を聞いた時に人数が違えば勘違いさせられるかもしれないという苦肉の策だ。
それならセシルさんだけが別行動でもいいのではないかという話もでたのだが、エルミアは昨日見惚れた通りその見目ですごく目立つ。輝いているような金色の髪に、形の良い唇。すっと通った鼻筋に深い緑色の瞳。
そして何より、動きやすくて汚れてもいいように簡素な服を着ているのに、気品を感じさせる物腰が人目を引くのだ。
彼女がこんな馬車で旅をしていたら、すれ違う人達に間違いなく只者ではないとバレるだろう。ということから、彼女には昼間は変わらず木箱に隠れて貰い、夜になったらテントで休んで貰うという結論になったのだ。
ちなみにロシェッテも姿を消すのはいつでもできるという話だったので、昼間は姿を消すようにしてもらっている。
そして今、御者はクロヴさんにお願いしている。昨夜の襲撃の影響か上手く寝付けなかった俺は荷台で休ませて貰っていた。
「ねぇ。アキツグさん、一つ聞いても良い?」
昨日のことを思い出しながらぼ~っとしていると、周りからは分からない程度に横にした木箱の蓋を開けたエルミアが話しかけてきた。
「あぁ、なんだ?」
「昨日、ハイドキャットと話してたでしょ。どうして言葉が分かるの?」
ギクッ!思わず顔が引き攣る。そういえばあの時はまだ彼女の姿は見てなかったから意識せずにロシェッテと会話してしまっていた。
「い、いや、助けて貰ったから礼を言ったりしただけで、言葉が分かるわけじゃ・・・」
「それは無理があるでしょ。私が木箱の中に居るのも当ててたし、分かったつもりの会話にしては内容がしっかりしすぎてたわ」
「まぁ、そうだよなぁ。頼むから他の人には秘密にしてくれ。俺はスキルでハイドキャットの言葉が分かるんだよ」
「スキルで?それは珍しいわね。王宮でもそんな話聞いたことないわ。他の動物の言葉も分かるの?」
「いや、試してないがたぶん分からない。このスキルも昨日ロシェッテを・・・あぁロシェッテっていうのはあのハイドキャットの名前な。ロシェッテを助けた時に発生したんだ」
「なるほどね。確かに特異な条件下で特殊なスキルを会得する人が稀に居るっていうのは聞いたことあるわね。いいな~私も話してみたいなぁ」
「そうか?別に人と話すのとそんなに変わらないし、何考えてるか分かったら安易にかわいいとか思えなくなるんじゃないか?」
「う~ん?言われてみれば確かにそうかも?私としたことが考えが甘かったわね」
昔どこかで聞いたそれっぽいことをそのまま言っただけなのだが、エルミアは納得したように頷いている。
「それにしてもアキツグさんは私にあまり気後れしないね。あの二人も言葉はともかく態度にまだ引け目の様なものを感じるのに」
「え~っと、それは俺最近まで田舎で暮らしていたんで、王族って言われてもピンと来ていないというか、もちろんミアが高貴な存在だとは思うんだけど、場所も街道だしな。もしも場所が王宮だったら目を合わせるのも恐れ多いって感じになってたと思うよ」
「そう。それならこんな状況だけど、こんな形でアキツグさんに出会えて良かったわね。仕方のないことだけど、こんな風に気兼ねなく話せる相手って少ないのよ、私」
それはそうだろう。王族といえば国のトップなのだから、対等に話せる存在なんて家族か他国の王族、後は公爵みたいな位の高い貴族ぐらいなのではないだろうか?
正直俺もこんな風に話していて大丈夫だろうかと内心は徐々に心配になってきているのだが、流石に今更恭しくするのもどうかと思いなるべく普通に接している。
「俺なんかには理解も及ばないだろうけど、大変なんだろうなというくらいは分かるよ。あと俺のことはアキツグでいいよ。俺もミアって呼ばせて貰ってるし」
「そう?年上だから気を付けたつもりだけど、本人が良いって言うならいいか。じゃ、これからはアキツグって呼ぶわね」
「あぁ」
『なんだか楽しそうね。アキツグ』
「ロシェッテ?寝てたんじゃなかったのか」
『さっきまでね。二人の話声で目が覚めたのよ』
「あ~それは起こしてしまって悪かったな」
『別に構わないわよ。何の話してたの?』
「それなんだが俺がロシェッテと話せることがミアにバレててな。それについてとあとは呼び方とか程度の雑談だよ」
『あぁ、ほぼ目の前で話してたものね。しょうがないわ』
「ロシェッテさん?姿が見えないけど居たのね。彼女なんて?」
「さっきまで寝てたって。何の話してたのかって聞かれたから、ミアに話せることがバレたって伝えてた」
「なるほどね。う~ん。やっぱりこうしてみると羨ましいなぁ。私も話せればロシェッテさんと友達になれたかもしれないのに」
「そうかもな」
それを聞いたロシェッテはすぅっと姿を見せると
『言葉が分からなくても友達になることはできるんじゃない?って伝えてくれる?あと私も呼び捨てで良いって』
といって、エルミアの手を軽く舐めた。
「言葉が分からなくても友達になることはできるんじゃない?だってさ。名前も呼び捨てで良いって」
「ほんと?嬉しい!あ、それじゃせっかくだからロシェって呼んじゃダメかな?」
「ん?ロシェッテ?あ、ロシェか。愛称で呼びたいってことな」
『人の名前で遊ばないでくれる?もちろん構わないわよ。私もミアって呼ぶわ』
「いいってさ。自分もミアと呼ぶからって」
「やった!改めてよろしくね。ロシェ」
『えぇ、よろしくミア』
エルミアはロシェッテを抱き上げると優しくなでた。ロシェッテも気持ちよさそうにしてそれを受け入れていた。言葉が分からなくてもこんな風に仲良くはなれるんだなと二人の様子を眺めていてふと気づく。
「あれ?そういえばロシェッテはミアの言葉分かるのか?」
『そうみたいね。恐らくはあなたと知識を交換した影響じゃないかしら。私は手当のお礼に交換したつもりだったけど、もしかしたらその時に人語を受け取ったのかも?どうして理解できているのかが曖昧だから明言はできないけど。あ、あなたも私のことはロシェで良いわよ。こっちのほうが良びやすいでしょ』
そういえば、あの時はいきなりのことで自分が何を交換で渡したのか考えてなかったが、等価なものといえばそうなるかもしれない。
自分の中から失われるわけではないので基本的には困らないが、何らかの秘密を勝手に交換されたら怖いな。まぁ、俺のスキルだし俺に不都合なことはないと信じたい。
「えっ?ロシェは私の言葉が分かるの?」
「どうやらそうらしい。昔から理解できてたわけじゃないみたいだから、俺のスキルの影響かもしれないけど」
「うぅ~!なんかずるい!」
「おいおい、声が大きいぞ。幸い周りに人は居なさそうだが、もうちょっと抑えてくれ。あとアキツグ、そろそろ御者を交代してくれるか?」
「あ、はい。分かりました」
エルミアがつい上げてしまった大声にクロヴさんの注意が飛んできた。
これでお開きだなと二人を見ると、エルミアはやっちゃったとしょんぼりした様子で俯いてロシェに慰められていた。
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