第14話 積み荷の正体
その声に思わず振り向くと、そこには美しい金髪を夜風に靡かせて気持ちよさげに佇む美少女の姿があった。
思わず見惚れていると、背後でざざっ!と地面を擦るような音がする。見るとセシルさんとクロヴさんが跪いている。
え?え?知り合い?もしかしてそんなに高貴な人なのか?と、咄嗟に真似をして跪こうとしたところで、当の本人がそれを止めた。
「そういうのは良いわ。ここは王宮じゃないし、今は身分を隠さないとでしょ?話し方とかも普段通りで良いから」
「しょ、承知しました、エルミア様」
「もう、話聞いてた?私のことはミアとでも呼んで。様もいらないから」
「いや、流石にそれは・・・」
王宮?エルミア様?まさか貴族どころか王族なのか?いや、まだ宮廷魔術師とかの宮廷勤めの臣下の可能性もあるけど、この子くらいの年齢でそんな階級に上がれるとも考えにくい。とするとやっぱり・・・
「私がいいって言ってるんだからいいの。人前でだけなんて面倒なことしてぼろが出たらそれこそ元も子もないでしょ。まずは生き残ることを考えないと」
「分かり、いや分かった。それじゃ目的地まではミアと呼ばせて貰う」
「それでいいわ。あなた達もいいわね?」
「えぇ、わかったわ」
「あ、あぁ分かった」
二人は状況を鑑みて意識を切り替えたようだ。俺はまだ王族というものに対する認識自体が薄い戸惑っているだけだったのだが、一先ず二人に合わせて普通に接するように返事をした。
「よろしい。それじゃまずはあなた達の名前も教えて貰える?大体隠れて聞いてはいたけど一応ね」
「クロヴだ。よろしく頼む」
「セシルよ。よろしく」
「アキツグです。よろしく」
「皆よろしくね。さて、都合上話を仕切っちゃって申し訳ないけど、後はどこへ向かうかについて。サムールかカルヘルドかだけど、私はカルヘルドへ向かったほうが良いと思うわ」
「理由を聞いても?」
「さっきあなたが言った通りサムール村の方には罠が張られている可能性が高いからよ。村人が人質になっている可能性もないとは言い切れないわね」
「村人が人質にって・・・もし、本当にそうなっていたら、それを無視していくことになるんじゃ」
「そうなるわね。今夜の襲撃規模から考えて恐らく向こうはこちらが本隊とは考えてなかった。ハロルドさんの囮作戦が効いたようね。でも、逃げた二人が報告すればこちらに疑いが向く可能性が高いわ。裏に護衛が居たことがバレたからね」
「すみません。もう少し慎重に動くべきでした」
セシルさんが申し訳なさそうに謝る。
「いえ、見えてはなかったけどあれは正しい判断だったと思うわ。姿を隠したままあの襲撃者の妨害をするのは難しいでしょう。全員捕まえれば問題なかったけど、そこは襲撃者の引き際が良かったみたいだしね」
「あぁ、その点からもこちらが本隊かもしれないことの報告を優先した可能性が高いな」
「そうね。話を戻すけど、敵がこちらを本隊と考えたなら村人を人質に取るくらいしても不思議はないわ。でも、私は捕まるわけにはいかないの。
だからサムール村にも囮になって貰うしかないわ。向こうもプロだから意味もなく殺しはしないでしょう。村の人達は何も知らないしね」
確かに姿を見られたりしない限り安易に殺したりはしないと思うが、何か知ってるかもしれない村長は危険かもしれない。そこも分かったうえで敢えて言ってないんだろうな・・・
「仮にサムール村が無事でそこの冒険者を集めて守りを固めたとしても、敵が本気になったら対処できるかは怪しいしね。元々は見つからずに潜伏する先としてサムール村が選ばれたわけだし。ということで、カルヘルドへ向かうべきだと思うけど、どう?」
「確かに。どちらかで考えた場合、カルヘルドの方がリスクは少ないな。誰かほかに気になることはあるか?」
「えぇっと、何故ミアがこんなところに居るのかとか何で狙われてるのかっていうのはやっぱり聞かないほうが良いのか?」
「とある密命でロンデールへ向かっている途中にね。あいつらに襲われたのよ。どうも情報が漏れていたみたいでね。待ち伏せされていたわ。それでも護衛が私を街まで逃がしてはくれたんだけど、付いてきた護衛も重傷で動けなくてね。調べて貰ったら、あの場に残った護衛達は全滅していたわ。襲撃者も相当な人数が死んでいたみたいだけど」
そういうと少しの間ミアは悼むように俯いていたが、話をつづけた。
「それで街に隠れていても増援が来るより見つかって捕まる可能性の方が高いと判断して、ハロルドさんに相談してこういう依頼を出して貰ったの。連絡は既にしているから、カルヘルドまで行けばたぶん近衛兵と合流できると思う。元々はそれまでサムール村で身を隠すつもりだったんだけどね。
私を狙っている理由までは分からないわ。単に私を人質に何らかの要求をするつもりなのかもしれないけど。
こんなことに巻き込んでしまったあなた達には申し訳ないと思っているわ」
そこまで言って彼女は俺たちに向かって謝罪した。
「頭をお上げください。国民が王族を守るのは当然のことです」
「いいえ、これは国の問題よ。本来ならあなた達を巻き込むべきではなかった。でも、他に取れる方法がなかったのも事実。だから、もうしばらく私に力を貸してほしい。その代わり解決したら相応のお礼はするつもりよ」
「もちろんです。お任せください」
「まぁ、冒険者稼業に危険はつきものだしね。王女のお墨付きなら報酬は期待できそうね」
何だか気合の入っているクロヴさんと冒険者らしい損得勘定でセシルさんはそう答えた。
俺はというと正直話の規模の大きさに付いていけてなかったのだが、選択を迫られて考える。命を懸ける覚悟などできているわけもないが、かといってミアを見捨てられるのかと言えば答えはNOだ。
「俺は正直戦闘では何の役にも立てないけど、できることは手伝うよ」
「皆ありがとう。改めてよろしくお願いするわ」
そうして俺たちは急遽目的地をカルヘルドに変更することになった。
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