第13話 襲撃

野営地での夕食も終わり、今日も就寝しようとテントに入ったところで

連れてきていたロシェッテから声を掛けられる。


『人間が近づいてきてるわ。それも気配を隠してる。気を付けて』

「まさか夜襲?わ、分かった。ロシェッテは動けそうか?」

『えぇ、あなたのおかげでだいぶ良くなったわ。歩く程度なら問題なく、無理すればしばらくは走れると思う』

「そうならないことを願いたいけどな」


テントを出てクロヴさんのもとへ向かう。とはいえ、素人の俺が先に気づくのはおかしいからどう話したらいいか。クロヴさんが気付いているといいのだが・・・そう考えていると、クロヴさんもこちらへ向かってきていた。


「あ、クロヴさん、なんか妙な胸騒ぎがして出てきたんですけど、周囲の様子は変わりないですか?」

「勘は良いようだな、どうやら敵のようだ。気配の隠し方からただの夜盗でもないと思う。アンタは荷台に居てくれるか。護衛対象には固まっていて貰った方が守りやすい」

「分かりました。お願いします」


クロヴさんも気づいていたようだ。彼の指示に従い荷台に乗り込んで周囲の様子を伺う。すると、身近でゴトっと木箱が音を立てた。

俺が荷台に飛び乗った時の振動で中で荷崩れでもしたのだろうかと思ったのだが、そこにロシェッテが声を掛けてくる。


『この状況でその子、木箱に隠したままでいいの?狙われてるのその子なんじゃない?』

「その子?」

「え?もしかして知らずに運んでるの?私はそういう仕事なのかと思って気にしてなかったけど」


待て待て!ということは、もしかして依頼の積み荷って人間なのか?ハロルドさんのことだからまさか誘拐とかではないと思うが、だとするといったい何の目的でそんなことを?

いやいや、今はそれよりこの状況をどうするかだ。

もし逃げる必要があるのなら木箱に入ったままだと致命的になりかねない。

だが、まだ戦っても居ないしクロヴさん達が問題なく対処できるのなら中身を確認する必要はないだろう。

湧き上がってくる好奇心に蓋をしてまずはクロヴさんと襲撃者の方を確認する。

全身黒ずくめの姿をした襲撃者が落ち着いた声で要求を告げる。


「積み荷を渡せ。大人しく渡せば殺しはしない」

「そんな決まり文句で護衛がはい、そうですかと引くとでも思うのか?」

「死ぬぞ」

「護衛対象放って逃げ出すよりましだ」


会話はそこまでだった。喋っていた襲撃者の背後からナイフがクロヴ目掛けて投擲される。予想していたのかクロヴは構えていた剣で跳んできたナイフを弾き、そのまま襲撃者に向かって斬りかかった。

襲撃者もナイフを抜きクロヴの攻撃を受け流す。もう一人は援護に徹するつもりなのかまた隙を見てナイフを投擲してくる。


「ゼロは目標を確保しろ!」


襲撃者の一人がそういうと三人目の影が馬車に向かってきた。クロヴへの動揺を誘う目的もあったのだろうが、彼は気にした様子もなく相対した二人の相手に専念していた。

慌てたのは俺の方だった。襲撃者がクロヴさんを無視してこちらに来ることを予想できてなかったため、咄嗟のことに対応できなかったのだ。

俺は慌てて手近なものを投げつけながら叫んだ。


「うわっ!?く、くるな!」

「悪いが死んで貰う」


投げつけたそれらを気にした風もなく捌きながら近づいてきた影は俺に向かってナイフを振り被った。

ダメか・・・と思ったその時、襲撃者が急に腕を引っ張られたように背後に落ちる。姿を消していたロシェッテが襲撃者の腕を蹴り飛ばしたのだ。


「な・・・に・・・?いったい何が起きた?」

「あら、私の援護は不要だったかしら?」


何が起きたか分からず地面に落ちた襲撃者に、女の声が聞こえたかと思うと近づいた何者かが当身を食らわせ襲撃者はそのまま気絶した。


「あ、あなたは?」

「クロヴから聞いてるでしょ?私がもう一人の護衛よ。っとおしゃべりはあとね。こっちは大丈夫そうだし、彼の援護をしてくるわ」


そういうと彼女は倒した襲撃者の手足を縛るとクロヴの援護に向かっていった。


「はぁ~ロシェッテ、助かったよ」

『どういたしまして。もう一人は味方だったのね。流石に二人相手に守り切るのは難しいかと思ったけど良かったわ』

「そっちも気づいていたのか。そうだな。俺はほとんど戦えないからこういう時には役立たずだ」

『だからこそ護衛を雇ってるんだし、気にしなくていいんじゃない?』

「まぁ、そうかもな。情けないのはどうしようもないけど」


そうこうしていると二人がこちらに戻ってきた。戦っていた二人は不利を悟って逃げたようだ。


「悪い、逃がした。引き際が良い。結構な手練れだな」

「そうね。不意打ちしたけど、見事に躱されたわ」

「とりあえず、こいつを起こして色々吐かせるか」


そう言ってクロヴが襲撃者を掴み上げると異変に気付く。

襲撃者は口から泡を吹いてそのまま息絶えた。


「しまった。毒を予め口に含んでいたのか。退路がないのを悟った瞬間に死を選ぶとはかなり危険な連中だな」

「そうね。まさかそこまでするとは予想できなかったわ」

「まぁ、死んじまったものは仕方ない。今夜はせいぜい増援が来ないことを祈って警戒するしかないな」

「それじゃ、こっちの話は一旦お終いにするとして・・・」


そういうと彼女がこちらに振り向きながら言葉をつづけた。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はセシルよ。よろしくね」

「もう知ってるかもだが、俺はアキツグだ。さっきは助けてくれてありがとう」

「仕事だからね。気にしないで。それより、どうする?」

「どうするっていうのは?」

「もちろん積み荷の話よ。私達も積み荷が特別であること程度は聞いているけど、あの襲撃者達の技量、覚悟からするとかなりヤバい依頼かもしれないわ。

通常は違法だと明確に分からない限り契約を厳守するものだけど、既に襲われている状況を鑑みると中身を確認する権利はあるかもしれない。あなたはハロルドさんから何か聞いてないの?」

「いえ、積み荷の詳細については何も。スパイに奪われると大変なことになるとしか。あと万が一の場合には、カルヘルドのとある場所に連れて逃げてくれと言われたくらいですね」

「カルヘルドかぁ。確かに何者かに狙われている以上、サムール村よりはカルヘルドの方が安全は確保しやすいかもね」

「あぁ。それに敵も俺たちがサムール村を目指しているのは既に分かっているだろう。罠が仕掛けられているかもしれない」

「それらを踏まえた上で、まずは中身を見るか否か。どうする?」


また先ほどの質問が投げかけられるが、正直判断に迷う。

これからの行動を考えれば確認するべきだと思うが、中身を知ってしまうと更なる泥沼に浸かりそうな気もする。などとしばらく考え込んでいると、後ろから知らない声が聞こえた。


「知らないままじゃ今後の行動計画も立てにくいでしょう。私も木箱に隠れ続けるのも疲れちゃったし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る