第3話 初めての取引

金がない。というか金があってもたぶん払えない。

死ぬ前に持っていた向こうの通貨は宝石に変わっていた。

それに宿代の支払いは恐らく商取引に該当するだろう。


(・・・どうすんだこれ?宿屋もだが食事や道具の補充などあらゆる支払いができないってことだよな?・・・物々交換?宿代や食事代の支払いを?食事はともかく宿泊は物じゃないよな。家自体を交換して貰うことはできるかもしれないが、今の持ち物じゃ流石に足りないだろう。)


考えれば考えるほど今後に不安が募っていくが、現状通貨を得る方法がない以上できることを試してみるしかないか。

そう考えて食堂兼宿屋となっている建物に入る。


「いらっしゃい。外のお客さんとは珍しいな」


中に入ると主人と思われる男が声を掛けてくる。


「あ、あぁ。食事と宿を頼みたいんですが」

「1泊20リム、食事付きなら30リムだ」

「あ~その、支払いなんだがこれでお願いできますか?」


そう言いつつ、小粒の宝石を出してみる。


「いや、そんな物出されてもな」

「そ、そうですか。俺は商人なんですが、さっき門番の人にこの村では薬が不足気味だと聞きました。そこで、この薬では宿代の代わりにはならないでしょうか?」


そういって今度は何種類かの薬を出してみる。


「いや、薬が不足気味なのは確かなんだが・・・やはり現金で払ってもらわないと困るな」


先ほどの宝石よりかなり興味は引けたようだがやはり結果はダメだった。

物での支払いを拒否しているのか、スキルの影響で拒否されているのか判断が難しいが、間があったことから考えると後者の可能性の方が高そうな気がする。

仕方がないので、別の方法を試してみることにする。


「分かりました。。変なことを聞いてすみません。これは詫びとして取っておいてください」


そう言って主人の目線から欲していたと思われる薬を渡す。


「え?いいのか?いやでも流石に悪いような・・・」

「いえいえ。当てができたらまた来ます」


そう言ってそのまま宿屋を後にした。

もちろん意味もなくタダで薬を渡したわけではない。

主人に先に利益を齎すことで好感度を上げておき、相手の好意で1泊泊めて貰えないかと考えたのだ。最悪食堂の隅を借りれるだけでも外で野宿よりはマシだろう。

何だか商売の裏道や抜け道を探しているようで多少の罪悪感があるが身の安全には代えられない。

まぁ、これについてはすぐ戻るわけにもいかないので一旦保留にして道具屋に向かうことにした。


「いらっしゃい」


店に入ると店主に声を掛けられる。

商品は農具や大工道具が多いようだ。ぱっと見では目当ての品は見つからなかった。


「道具袋とランタンあと何か武器になるようなものとテントはないでしょうか?」


道具袋は1つでは容量不足になると思われるためだ。武器などもそうだが、今の商品は主に薬なのだ。これが農作物などになった場合、大した量は持てなくなる。これも今後の課題だな。


「うちは村で扱うようなものが主なんだけどね。残念ながらテントは無いよ。あとは・・・ちょっと待ってな」


そう言って店主は裏に回った。少しすると商品を持って戻ってくる。


「悪いがどれもこの1点しかないよ。買いに来る客なんて滅多にいないからね」


近づいて商品を見せてもらう。武器として持ってきたのは短剣だった。

いずれも品質に問題はなさそうだ。


「ランタンのオイルは?」

「1日分ならここで入れてやるよ。予備が欲しければ雑貨屋に行ってくれ」

「なるほど。代金はいくらになりますか?」

「袋が60リム、ランタンが80リム、短剣は100リムだ」


ランタンの方は少し高い気がするが、この辺だとガラスは希少なのかもしれない。必要なものだし仕方ないか。


「なるほど。これで取引できますか?」


そういって宿屋で見せたのと同様に宝石を出してみる。


「う~ん・・・まぁ、いいかね」


店主は渋い顔でそう返してきた。

良かった。物々交換を持ちかけること自体に違和感は持たれてなさそうだ。

だが、それなら渋い顔をしているのは?・・・そうか。宝石はこの村では使い道がない。宝石自体が好きな人でもなければ換金の手間が掛かるだけだろう。

つまり需要が低いから嫌がられているのか。

だが、その割には価値は割と適正に評価されている気がする。

今出した宝石は標準的な価値では320リムほどのものだった。


「いや、すみません。こちらの薬のほうが良いでしょうか?」


試しに先ほどと同様にいくつかの薬を出してみる。


「へぇ、あんた商人だったのかい。そうだね・・・これとこれでなら交換で良いよ」


そう言って店主が手にしたのは価値にして120リム程度のものだった。

待て待て、確かに需要はあるんだろうが、倍の価値で取引が成立するのは都合が良すぎないか?

それほどに需要による交換レートの比重が大きいのだろうか。まさか初対面で好感度が高いわけもないし・・・。

だが良い方法に気づけた。こちらからは複数提示して相手の望むものを交換対象にして貰えばかなり有利に交換が成立できる。


「どうかしたかい?」


思わず考え込んでいると店主から怪訝な顔をされてしまった。


「いえ、なんでも。あとできれば何か仕入れたいのですが、この村に特産品の様なものはないでしょうか?」

「特産品かい?いやぁ、そんな特別なものはないねぇ。しいて言えば雑貨屋の店主が趣味でやってる木彫り細工くらいかね」

「木彫り細工?」

「あぁ。結構良い出来でロンデールの町から偶に買い付けに来る商人がいるくらいだ」

「それはすごいですね。ちなみにロンデールって町はどっちの方角にあるんですか?」

「ロンデールかい?街道を北へ向かって分かれ道を東に行った先だよ」


町の情報まで手に入ったのはラッキーだった。特産品もあるみたいだし、良さそうなものがあれば買い付けてロンデールに行くのもいいかもしれない。


「分かりました。ありがとう。」


買ったものを道具袋に纏めて店を出る。

良い情報も貰ったし次は雑貨屋に行ってみるか。


「いらっしゃい。初めてのお客さんだね」

「えぇ、ランタンのオイルの予備と木彫り細工というのを見せて欲しいんですが」

「あら、うちに木彫り細工を置いているなんてよく知ってたね」

「さっき宿屋に行ってそこの主人に聞きました」

「あぁ、ランブルさんにね。オイル瓶なら2日用と4日用があるよ。木彫り細工なら向こうの棚に置いてるから自由に見てくれ」

「ありがとう」


言われた通り棚の方へ向かうと大小様々な木彫り細工が置いてあった。

ベッドやいすのような家具のミニチュアやリスやクマのような動物を模したものなど。

俺には審美眼などないがそれでもその細工は精巧なものに見えた。


「あなたの細工物をロンデールの商人が時々仕入れに来ると聞いたんですが、その時はどんなものが良く買われているんですか?」

「ん?もしかしてあんたも商人かい?あぁまぁ、確かに好事家には見えないか。そうだね、その人はよく家具のミニチュアを買っていくよ。贔屓にしている貴族様が気に入ったらしくてね」


なるほど。売り先が決まっているわけか。俺にはそんな伝手はないし参考にはならないな。だが、これだけのものなら町で売れる可能性は十分あると思う。

そう考えなるべく荷物にならなそうな小動物の細工物をいくつかと日持ちしそうな食糧を選んで店主に聞いた。


「2日分のオイルとこの細工物、あと食糧で合わせていくらになりますか?」

「え~っと、全部で400リムだね。端数はおまけしておくよ」


思ったよりもだいぶ安い。うまく町で売り先さえ見つけられば、かなりの利益が見込めそうだ。

道具屋の時と同様に複数の品を見せて希望するものを選んでもらい280リム分くらいの薬や日用品で取引を済ませることができた。

と、店を出た辺りで変化に気づく。

スキルのレベルが上がったらしい。早速確認してみる。


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スキル:わらしべ超者Lv2

自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。

自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。 


交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。

スキル効果により金銭での取引、交換はできない。


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各種サービス?またずいぶん大雑把な説明だな。。

普通に考えると接客業だろうか?

飲食や医療のような・・・待てよ?もしかして宿泊も含まれるか?

・・・うん。そんな気がする。

はっきり説明がないのがもどかしいがとりあえず試して損はない。

そう結論付けて再度宿屋に戻ることにした。

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