第2話 こんなスキルでどうしろと?

「う、うぅん」


目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。

神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。


まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。

次に持ち物なども確認してみる。

服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。

持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。

どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。

ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。


あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。

スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。

早速スキルの内容を確認してみる。


--------------------------------

スキル:わらしべ超者Lv1

自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。


交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。

スキル効果により金銭での取引、交換はできない。


--------------------------------


・・・・・・は?

信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。

金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか?

いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。

この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。

それになんだ交換レートは好感度により変動するって!

いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ?

スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。


とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。

何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。

手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。

そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。

幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。

スキルはともかく村の近くに送ってくれたのはあの観音様に感謝だな。

そう思いつつ村の方へ歩いていく。道中薬の材料になる草花も森の側にいくつか生えていたので摘んでいくことにした。


「お、これも良さそうだな」


こういうものの知識があったのはありがたい。需要さえあれば元手ゼロで稼げ・・・もとい取引できるからな。

そう思い摘んでいると、森の奥でカサリと音がした。

嫌な予感がしてそちら見るとそこにはウサギの様なものが居た。

様というのはそのウサギの額には立派な角が付いていたからだ。

一角ウサギ。この世界ではポピュラーな動物だ。危険度は低い。

但しその危険度はある程度戦闘技術を持つ者での基準だ。

つまり今の俺には十分危険な相手ということになる。

思わず固まっていた俺とそいつの目が合った。

するとそのウサギは獲物を見つけたように姿勢を低くした。


(ヤバい!)


咄嗟に右に飛ぶとその横を飛び掛かってきたウサギが通り過ぎて行った。

慌てて立ち上がり、ウサギが再度姿勢を整える前に街道に戻ると村の方へ向かって走る。

まだ後ろからウサギが追いかけてきているのが足音で分かる。


「た、助けてくれー!」


村の前に立っていた門番のような男にそう叫びながらまた右に飛ぶ。

少し前に後ろの足音が聞こえなくなったのだ。

案の定飛び掛かってきたウサギが脇を通り抜けていき門番の男の手前辺りで落ちた。

男は俺の声で気づいていたようで、慌てることもなく持っていた槍で着地したウサギを見事に仕留めた。優秀な人のようだ。助かった。

立ち上がって男のほうまで行きまずは礼を言う。


「助けて頂きありがとうございました」

「あぁ、そんな畏まらなくていいよ。それよりあんた護衛もなしに旅をしてきたのか?一角ウサギくらい自分で対処できないなら一人旅は危険だぞ」

「いやぁ、返す言葉もない。一応対策は用意していたんだが咄嗟のことで慌ててしまって」


一応嘘ではない。鞄の中には目つぶしに使えそうな粉末がある。だが、あの時すぐに取り出せるような状態ではなかった。


「そうだったのか。それは災難だったな。こっちは今日の飯が豪華になりそうでラッキーだったが」


一角ウサギの肉は美味いらしい。それに角は薬の材料になるということで危険度の割に素材が優秀で低ランク冒険者にとっては美味しい獲物だった。


「はは。それは良かった。ところでこちらは何という村ですか?」

「なんだここの名前も知らずに来たのか?ここはリブネントだ。」


男は少し怪訝そうな顔をしながらも教えてくれた。


「リブネントですか。いや実は、道中で少し事情があって道を変えてしまったもので」

「なるほど。襲われたのがこの近くで良かったな。この辺は危険な生物もほとんどいないし」


咄嗟のごまかしだが納得して貰えたようだ。

不審に思われるのは承知だが聞いておかなければならなかった。村内でも話題に出るかもしれないし、次の村か町でもどこから来たか聞かれる可能性があったからな。


「そうですね。優秀な門番さんにも助けて貰えましたし」

「よせやい。まぁ、うちの村には商人が来ることも少ないからあんたの品物によっては重宝されるかもな」

「そうなんですか。今は薬が多いんですが需要はありそうですか?」

「薬なら売れるだろうな。しばらく薬を扱ってた商人が来てなくて最近は不足気味になっているからな。」

「そうか。それなら役に立てそうです。村のこともう少し聞いても良いですか?」

「あぁ、構わないぞ」


そうして門番の男から色々聞くことができた。

村には小さいが道具屋と食料品を含む雑貨屋、後は食堂兼宿屋があるらしい。残念ながら武器屋はなかったが、道具屋でナイフか杖程度ならあるだろうとのこと。

村の周辺は畑が殆どであとは俺がきた森があるくらいという話だった。

異世界で碌な準備もなくいきなり野宿は避けたかったので宿屋があるのはありがたい。


「なるほど。色々と助かりました。これ、よければ使ってください。一角ウサギの肉に合うと思うので」

「あぁ気にすんなって・・・ん?まさかこれソランの実か?高級品じゃないかほんとにいいのか?」

「あぁ、助けて貰った上に色々教えてもらいましたから。そのお礼です」

「そうか、じゃぁ遠慮なく。あとで妻にも話しとくよ。良さそうな商人が来てるってな」

「ありがとう。それじゃ」


そうして門番の男と別れ、食堂兼宿屋へ向かう途中でふと気づいた。

・・・金がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る