第1話~30話
旅の始まり
第1話 突然の選択肢
目が覚めると一面が真っ白な世界だった。
「なんだここは?俺は何でこんなところに?」
明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。
目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。
自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。
大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。
分からないのは直近の記憶だけのようだ。
「そこの人間」
そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。
「誰だ?」
「こっちだ」
声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。
そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。
「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」
「お前を呼んだのは私だ」
「し、しゃべった!?」
再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。
誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。
「納得したか。では、本題に入ろう」
「本題?」
「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」
「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」
「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」
車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。
「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」
「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」
「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」
「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」
「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」
唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。
「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」
「輪廻の均衡ってなんだ?」
「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡を保つようにしている。お前も選ばれた者の一人だ。」
説明を聞いても良く分からないが、たぶん生と死のバランスを取ろうとしているとかそういうことなのだろうか。
何にしろその話が本当なら俺には別の世界で生きるチャンスがあるらしい。
「なるほど。その異世界っていうのはどういうところなんだ?」
「お前の世界とは全く異なる成長を遂げた世界だ。科学技術ではなく魔法やスキルの力で発展している。」
「ま、魔法?」
またすごい単語が出てきた。いい大人ならとても信じられないだろう。
最近の一部の若者の間ではそういう話が流行っているらしいが俺は詳しくなかった。
「魔法やスキルって、その世界は安全なのか?」
「難しい話だな。お前の住んでいた日本という国を基準にすれば安全ではないだろう。その世界では街道を外れれば魔物に襲われることもあるようだ」
「魔物って、、熊とかライオンみたいなものか?いやいや、とてもじゃないけどそんなのと戦うなんてできないぞ」
「人里に現れる可能性は低いだろう。交通事故などに合う可能性とさほど変わらないと思うが」
そんなことはないと言いかけて思わず口を噤む。自分自身がその交通事故で死んでいるのである。
「それに町や村には門番や冒険者なども居る。旅をするなら護衛を雇うのも良いだろう。世界に適応させるため、お前の元の世界での知識、経験が異世界のものに変換されるので、有用な能力を身に着けられる可能性もあるだろう。」
「知識や経験を変換?それってどうなるんだ?」
「分りやすいもので言えば言語だ。異世界では言語が異なるがお前が送られる地域の標準語に変換される。複数の言語に精通していれば他の地域の言語も理解できるだろう。」
なるほど。確かに言葉が分からないのは致命的だ。ということは知識としてあるものは異世界で同様のものに置き換わると考えて良さそうか。
「一応聞くけど、向こうの世界の金銭価値とかも分かるようになるんだよな?」
「同様だ。お前が送られる地域を基準として日本の知識がその地域の知識に置き換わるはずだ」
「分かった。あとその世界って旅商人とかはいるのか?」
「あぁ、存在している」
良かった。それなら俺の職業知識も生かせそうだ。
「心は決まったか?」
俺の考えを見透かしたかのように観音菩薩が聞いてきた。
「その前にあと一つだけ聞いても良いか?」
「なんだ?」
「あんた、いや貴方は神様なんですか?」
今まで混乱したまま流れで色々聞いてしまったが、よく考えるとすごく失礼な対応をしてしまっていたかもしれない。
「お前達の世界の考えからすると近い存在かもしれないな。態度についてなら気にすることはない。突然死んだと聞かされたのだ。無理もないことだろう」
「やっぱり心が読めるんですか?混乱していたとはいえ申し訳ありませんでした」
「構わない。ではどうする?」
「異世界へ行きます」
「分かった。最後に、ここでの記憶はしばらくすると忘れるだろう。生きる上では不要なものだからな。では、さらばだ」
次の瞬間、俺の意識を失った。
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