第6話 五竜の加護
(体が軽い。 まるでガキの頃に戻ったみたいだぜ)
木々の間を縫うようにして走る俺は、久々に体を動かす喜びを感じていた。
鬼ごっこにかくれんぼ、どろ警にドッジボール。
休み時間ともなれば外へ飛び出し、ハチャメチャに動き回っていた子供時代の記憶が蘇る。
「っと」
(また聞こえてきたな)
はじめは距離が離れ過ぎていたせいで、聞こえてきた音が人の声かどうかもあやしかったが。
こうして距離を詰めていくにつれ、音の正体が女性二人の話声だとハッキリしてきた。
(だがなんだ…? 様子がおかしいぞ)
この位置からではまだ状況が確認できないが、聞こえてくる二人の声色からどうにも緊迫した状況のように感じてくる。
「……急ごう」
この先に危険が待ち受けていようともう迷いはない。
ここまで走ってきて疑問は確信に変わった。
今の俺はFHOにおける公式チートモード、課金コースでのみ発動できる”五竜の加護”が全て発生している状態なのだ。
防御力に関係なく敵から受けるダメージを大幅に軽減し、一定数値以下のダメージは完全に無効化する<黒竜の加護>。
モンスターの直接攻撃以外では死亡しなくなり、体力が減り続けるあらゆる状態異常に掛かってもHP1で耐え切れる<白竜の加護>。
常時攻撃力が1.2倍になり素手状態の攻撃力が固定で100まで上昇する<赤竜の加護>。
ダッシュや回避によるスタミナ消費が大幅に軽減され、一定時間通常のダッシュよりも早い神速が発動できるようになる<蒼竜の加護>。
体力が自動で徐々に回復するようになり、状態異常の自然治癒速度も速くなる<緑竜の加護>。
俺はFHOのサービス終了に合わせて始龍ディアドラシルが実装されると聞いた時、新規で課金コースへの加入ができなくなる半年前よりも以前にこれら全ての加護もとい課金コースに加入し、サービス終了に伴う払戻し対応も受けることなく決戦に備えていたのだ。
(ピヨコトリスを無傷で撃退出来たことや、いくら走っても息切れする気配すらないことを考えれば俺がこの世界でも五竜の加護を受けたままである可能性がかなり高い)
「ってことはつまり、使えるんだろう? 」
蒼竜の加護、その真髄を。
「さあ、飛ばしてこうぜッ! 」
(神速、発動!! )
地面を蹴ると同時、森が騒めいた。
風も音も置き去りにして、とめどなく加速していく。
周囲の風景が色のついた線のように歪み、後ろへと流れていくさまが可笑しくて口角が上がるのを感じた。
(走るって、こんなに気持ちいいんだな)
◇◆◇
「ダメぇぇぇぇぇぇっ! 」
ただの思い込み、幻聴かもしれない。
でも確かに聞こえた、心の叫び。
(っ、あれは! )
素早い動きと鋭利な爪で獲物を追い詰めるデニパンサー、奴が少女たちを襲う姿が視界に映った。
「っ……! 」
恐らく負傷しているのだろう。
地面に倒れたまま動かない娘を庇うようにして、デニパンサーの前に立ちふさがった一人の少女。
(間に合えッ! )
雄叫びと共に、跳躍するデニパンサー。
奴と少女の間に割って入るようにして滑り込んだ俺は、加速の勢いをそのままに握りしめた木の棒を思い切り振りかぶった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!! お触りは禁止だッ! オラァァァァァッ!!! 」
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