第5話 ヒーローと不審者は紙一重
「ナナポ、今からでも遅くありません。 捜索の件はお父様たちに任せて家に戻りましょう」
「ダメだよレイナお姉ちゃん。 狩人さんを乗せた飛空艇が墜落したのは昨日の晩だよ! このまま放っておいたらきっと大変な事になっちゃうよ」
「ですが……」
昔から心配性なあたしのお姉ちゃん。
朝になって二人でこっそり村を出た時からからずっとこの調子で、何度も何度も家に帰ろうって言ってくるけど自分だって本当は狩人さんのことが心配で昨日の晩は寝付けなかったくせに。
カカオコ村の長で、村唯一の狩人だったお父さんが大怪我を負った一月ほど前、村から運び竜を飛ばして狩人協会に新たな狩人さんの派遣をお願いしたんだ。
(お父さんの怪我はだいぶ良くなってきたけど……もういい年だし)
我が家で唯一純粋な人間種であるお父さん。
竜人の血が流れるお母さんやあたしたち姉妹と違って五十代の後半にもなればいろいろと体にガタがきちゃうお年頃なのだ。
(新しい狩人さんが来れば、お父さんの負担を減らしてあげられるはずだったのに…)
なんの前触れもなくおこった昨日の大嵐で、カカオコ村へ向かっていた飛空艇。
協会から派遣された狩人さんが乗っていた飛空艇が墜落しちゃったんだ。
(お願い。 無事でいてよね……狩人さん)
「ナナポ、ちゃんとお姉ちゃんの話を聞きなさい。 ナナポ」
「しっ……! 静かに。 今の聞こえた……? 」
「……? 何ですか、急に」
微かに聞こえたグルグルって音。
朝からなにも食べてないから、一瞬自分のお腹が鳴ったのかな? って思ったけど。
「グル…グルルル……」
(違う……! これ、唸り声だ! )
「お姉ちゃん! あっ――
「ナナポ! 危ないっ! 」
(え……? )
おかしいな。
あたしがお姉ちゃんに、危ないっていおうと思ったんだけど……。
(遅かったみたい)
景色がぐるりぐるりと回転し、気付いた時には地面に叩きつけられていた。
(いっ……! )
痛い。
痛い痛い痛い!
後から熱を持って、ジンジンと脇腹に広がる鈍い痛み。
「ナナポ! 」
「レイナ……お姉ちゃん…っ」
涙でじんわりと滲んでいく視界に昔お父さんが教えてくれた危険な肉食獣、デニパンサーの姿が映った。
「このっ! ナナポから離れなさい! 」
(ダメ……逃げて、お姉ちゃんっ)
自分だって怖い筈なのに。
お姉ちゃんはあたしを庇うようにデニパンサーの前に立ちふさがった。
「グガァッ!!! 」
「っ……! 」
(ダメぇぇぇぇぇぇっ! )
雄叫びを上げ、デニパンサーがお姉ちゃんに襲い掛かる。
ナイフのように鋭い爪がお姉ちゃんの体を切り裂こうとした、その瞬間。
森のざわめきが聞こえたんだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!! お触りは禁止だッ! オラァァァァァッ!!! 」
ズンッ、って。
空気が震えるようなフルスイング。
ただの木の棒でデニパンサーを殴り飛ばし、あたしたちを助けてくれたヒーローは。
なぜかパンツ一丁だった。
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