第4話 丸腰おじさん卒業
(それにしても、たまたま落ちていたココアコカの実を見つけられてラッキーだったぜ)
喉の渇きを癒し、多少腹の足しにもなってくれたココアコカの実。
この木の実はFHOの世界において採取できる地域が限られている特産アイテムの一つだったのだ。
(とすると、俺が今いる場所はカカオコ村の近く。 そんでもってこのジャングルのような地形を加味して考えればカカオコ密林で間違いないはずだ)
カカオコ密林はゲーム開始時から選択できる初心者マップの一つであり、俺を食べようとしたピヨコトリスやその成体であるコケコトリス、集団で獲物を狩る小さな地竜種のデニラプトルと群れのリーダーであるグランラプトルなど初期マップにも関わらず複数の大型モンスターと小型中型のモンスターが入り乱れて生息している。
「……とりあえずコイツで切り抜けるしかないか」
そんな危険地帯を丸腰のまま渡り歩くわけにはいかないので、俺は洞穴近くの木によじ登ると持ち歩くのに丁度いいサイズになるよう目測しながら枝をへし折った。
「ふんっ、と」
(薄々勘づいてはいたが、やっぱり筋力やら握力やらも段違いに上がっていやがる)
ほとんど取っ掛かりのない木の幹をするすると登れたことにしてもそうだが、ゴドーの体になった俺は身体能力も狩人と同等のものになっているようだ。
(それに……)
ちらり、とピヨコトリスに噛みつかれた右腕に視線を向ける。
(俺の予想が正しければ、この身体には課金パワーが宿っている)
◇◆◇
「……? 」
カカオコ密林の探索を開始してからそれなりの時間が経った頃。
敵の接近を警戒し、僅かな物音一つ聞き零さぬようにと研ぎ澄ましていた俺の耳に微かではあるが人の声のようなものが届いた。
(今のは…距離が遠すぎて確証は持てないが人の声か? )
護身用の枝を手にしたとはいえ、今の俺はただのパンイチ野郎。
出来るだけ危険なことに巻き込まれぬようにとここまで不穏な物音がする場所は避けて移動してきたが……。
(だが…どうする)
仮に今の音が人の声だった場合、カカオコ村の住人である可能性がかなり高い。
(カカオコ村の住人と接触できれば、恐らく村まで案内して貰えるだろう)
とはいえ俺が服を着ていないので、かなり警戒されるだろうが。
旅の途中で遭難しただとか適当な理由をつけて、こちらに敵意が無い事を伝えればなんとかなるだろう。
「……行くか」
どのみち、このままなんのあてもなく歩いていても村に辿り着けるかどうか怪しかったのだ。
今は人がいるかもしれない方角に向い、僅かなチャンスに賭けるとしよう。
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