箱の中にデスゲームのクリア賞品が入ってる

一陽吉

大きな箱か小さな箱か

『全ミッション、クリアおめでとうございます! なんと今回は二名様がクリア! 本来ならお一人様が最後の選択をするのですが、そこはお二人で話し合ってどちらか一つを選び、中の物をお持ち帰りください!』


 天井も壁も床も真っ白で体育館なみに広い部屋に響きわたるアナウンスの声。


 私と変わらない年頃の子だと思うけど、この元気な声は今日、何回聞いたことか。


 そして、目の前には立方体の形をした箱が二つある。


 一つは一辺の長さが五十センチくらいで構成された大きな箱と、十センチくらいで構成された小さな箱があり、そのどちらかを選んで中の賞品を持ち帰えることができるようね。


「だとよ、ナジュ。どうする」


 そう声をかけてきたのはコウタ。

 二十代半ばくらいで、筋肉むきむきの大男。


 ここまでほぼ力づくで攻略してきた、脳筋の代表みたいなやつ。


 見た目はさっぱりした好青年だけど、とにかく力で解決しようとする性格で、暴力を振るうことに抵抗がない。


 だから、格闘技経験もない非力な私を殺すことだってできる。


「あんたが先に選んでいいわ。私は残りをもらうから」


「お? いいのか?」


 白々しく反応するコウタ。


 ここで私が選択権を主張しようものなら、一撃で顔面を潰すだろう。

 それよりは選ばせて、残りをもらった方が得策だ。


「そんじゃ俺は大きい方な」


 にこにこしながらコウタは大きい箱の前に立った。

 それにならうように私も小さな箱の前に立つ。


 欲張れば相手を倒して二つ得ることもできるだろうけど、アナウンスでは一つをお持ち帰りくださいと言っていた。


 その発言はミッション内のルールと同様で、そむけば不可避で絶対死の矢が飛んでくる。


 だからコウタもそれに従わざるをえない。


「開けるぜ」


「……」


 黒塗りで金色に縁どられた木製の箱はフタをかぶせて使うタイプのもの。


 二人でいっせいにそのフタを持ち上げてわきに置き、中の物を取り出す。


「これは、台座か?」


「私のはカードみたい」


 コウタのは直径五十センチくらいで厚さが五センチほどある、金でできたような円形の物で、装飾もあるその形から、たしかに何か像をのせる台座のように思えた。


 そして私のは形や質感、重さからみてもクレカなんかと変わりなく、文字やICチップがあれば買い物ができそうだ。


「この紙、説明書みてえだな。なになに、念じれば金の像が無限に創造できる!? まじか!!」


 さっそく床に置いて試してみるコウタ。


 すると、台座から粘土が盛り上がるようにして等身大のコウタ像がつくられた。


 あっという間にできるのは凄いけど、金色でボディビルダーみたいなポーズをとっているのは、正直、気持ち悪い。


「これが無限にできるってわけか。最高だな!」


 大喜びのコウタはほっといて、こっちの性能や効果も確認しないとね。


 えっと、振れば無限に好きな硬貨が出せる?


 こうかしら?


 二回振ってみると、カードから五百円玉と百円玉が落ちて、床に独特の音を響かせた。


 なるほど。


 たしかにそのとおりだわ。


「なんだおまえ、ずいぶんしけてるな」


 私が硬貨を拾う姿を見ながら馬鹿ばかにして言うコウタ。


 でも別に、くやしいともうらやましいとも思わない。


 はっきり言えばミッションクリアのボーナスで累計五百万稼いでいるから、それだけで充分だもの。


 これはもはやおまけ。


 左腕の切り傷も痛むし、あとは生きて帰れればそれでいい。


『それぞれ受け取られましたね? それでは今回のマジックゲームは終了です! そちらのドアからお帰りください! なお、この空間は五分後に完全消滅します! お早めに! では!』


 アナウンスが終わると、すぐそばに一般的なかんじの木製ドアが現れた。


 どこぞの未来道具みたいだけど、このゲームの主催者が魔法使いだから、そっちに由来してのものね。


 やることやって、もらうものをもらったんだから、さっさと帰ろう。


「お、おい! ナジュ! ちょっと待ってくれ!」


 振り向くと、コウタが金の像を抱えながら歩いていた。


 さすがの力自慢も重くてゆっくりとしか進めないようね。


 しかも変なポーズのせいで持ちにくく、よけいに力が入らないみたい。


「このままだと、時間に出れねえ。そっちの台座がわを持ってバランスを取ってくれ。それだけでもだいぶ違う」


 たしかに、女の私でもそこを持ち上げれば違ってくるだろう。


 だけど──。


「なんで私がそんなことをするの? それはあんたの物でしょう。あんたでなんとかしなさい。私は早く帰りたいの」


 冷たく答え、ドアノブに手をかける。


 助けたところで、その分のお金をくれるわけでもないし、全部、自分がやったこと。


 それに、自分でなんとかしてきたからこそ、ここまで生き残ってきたんでしょ。


「て、てめえ、ふざけんな!」


 金の像を投げ捨て、私に殴りかかるコウタ。


 でも残念。


 私の方が早い。


 バタンとドアが閉じ、外に出る。


 木の板が折れる音がしたけど、コウタ、勢いにまかせてドアを壊したようね。


 あらら、出られるのかしら。


 まあいいわ。


 どうなろうと知ったこっちゃないし。


 ──ふうう。


 太陽がまぶしい。


 時間はもう朝だもんね。


 しかもここって、うちの近くにある公園じゃない。


 さすが魔法使いね。


 ……。


 解放されたと思ったら何か飲みたいわ。


 そこの自販機でコーヒーでも飲もうかしら。


 このカードを使ってね。

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