6話 日曜日

 久々の日曜日。と言っても、たったの一週間しか待っていないのだ。

 僕は簡単にTシャツと、Yシャツを着て、デニムパンツを履いて、お気に入りのスニーカーで外に出る。

 久々に家具を買いに行こうと思ったのだ。

 車に乗り込むとエンジンをかける。

 最近の車はブレーキを踏んでからじゃないとエンジンがかからない。面倒な……と最初は思ったが、踏み間違い事故なんかがなくなっていいと最近は受け入れられた。

 駐車場から出ると、最初の交差点を左に曲がるためにウインカーを点けて一時停止、信号が青になると左右と歩行者がいないかを確認して走る。

 すぐにかの有名なハトリ、日本での家具&インテリアショップの大手とも言えるその店が見えてくる。

 残念ながら本店ではないが、この辺りでは一番品数がある。

 本当なら職場近くのハトリの方がいいのだが、ハトリの方まで行くと気分が落ちてしまいそうでやめておくことにしている。

 そんな訳で、僕は今はハトリの中に入り、まず造花の観葉植物のコーナーでたっぷりと癒される。風水的には偽物はダメらしいが、僕はそうは思わない。偽物だろうがなんだろうが、癒される人もいるのだから。

「この小さなサボテンコーナーいいなぁ。1個くらい、買っちゃおうか……」

 そう呟きながら、ガラスの中の造花のサボテンを見る。ちっちゃくて、ツンツンしていて可愛い。

 いけない、こんな風に可愛いものばかり買うから、男らしくないなんて思われるんだ。

 でも、その男らしいとか男らしくないって、今の時代にそぐわないよな。だったら、関係ないか。

 そう思った僕はカゴにサボテンを1個入れた。ガラス瓶の縁へ沿うようにして巻かれた白地に青のチェックのリボンがまた好きな感じだ。

 僕は観葉植物のコーナーを見て回ってから、今度はライトのコーナーを見ることにした。

 ベッド近くに置くライトを探していたのだ。小さなものは、小さなテーブルでも買ってその上に置こう。そう思いながらライトを見ていく。いろいろな形、ライトの色、個性の光るライトが多かった。その中で、僕が気に入ったのは海の水面を思わせる光を天井に映すLEDライトだった。実用性はあまりないが、僕はそういうものが好きだから、気に入ったのものを見つけられてよかった。そのライトもカゴに入れて、もう一つ、今日の一番見たかったもののところへと向かっていく。

 僕が見たかったのはテーブルコーナー。

 実はソファの前に置いてあるのは、ローテーブルの中でも高さが低いため、使いにくかった。

 だから、もう少しだけ高いローテーブルを買おうと思って、今日ここに来たのだ。

 でも、いざローテーブルのコーナーに来てみたものの、しっくり来るものがなかった。あっても、予算を大幅に上回ってしまい、とても手が出ない。

 カゴの中を見て、これだけ買って帰るかと思って下りのエスカレーターに乗ろうとしたその時、パソコンデスクのコーナーが偶然目に入った。

 そういえば、ローテーブルでパソコンを使うのもちょっと疲れるんだよなと思いながら、見てみることにした。

 見ていると、気に入ったパソコンデスクを見つけてしまい、部屋に置いたらどんな感じか想像が膨らんでしまって、気づけばカゴに入れていたものと椅子も一緒にパソコンデスクを買ってしまっていた。配送は来週になるらしい。楽しみだ。

 ウッド調の目にも優しい色で、一目見て気に入ってしまったパソコンデスクが届くのを今から楽しみにするなんて、少し子どもっぽいだろうか。いや、そんなことはない。誰でも新しいものには興味を持つ。特に気に入ったものは。

 実は僕の部屋は、ベッド以外はがらんとしていて、パソコンデスクくらいは余裕で入る。

 賃貸だし、いつかは出ていくからと買わなかったという理由があったのだが、少しくらい部屋作りをして楽しんでも罰は当たらないだろうと思って思い切って自分の部屋にもう少し物を入れてみようと思ったのだった。

 小物なんかは可愛らしいものがあるけれど、大きなものはリビングのテーブルとソファーくらい。

 ああ、今から楽しみだ。

 そんなことを思いながら、車のハンドルを握って、家に帰った。


 さあ、今日の外での活動は終わりだ。僕はパソコンを開く。大好きな、ゲームでもしよう。そんなことを思いながらローテーブルの上にパソコンを置いて、ゲームを始める。

 窓から夕陽の光が差し込んで、時間の経過を感じさせた。

 夢中になってゲームをしていると、いつの間にか、カーテンの先からは光は入ってこなくて、夜になったことを知る。

 僕はゲームをやめて、キッチンに行き、カプレーゼを作った。そしてアヒージョと、フランスパンを切って皿に盛り付ける。サラダは買っておいたものを冷蔵庫から取り出して皿に出して、テーブルに並べたら晩ご飯の出来上がりだ。

「いただきます」

 そう言ってから、飲み物を持って来ることを忘れていたことに気づく。

 僕は最近ハマっているとうもろこしのひげ茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出し、椅子に座ってまずお茶を飲む。

 ポタージュのような香り、口の中にほんのり広がる甘さを感じて喉を潤す。

 そしてそれを合図に、食事を始めた。


 食事の後に食器を洗い、あとは風呂に入って布団に潜った。

 明日から、また仕事だ。

 憂鬱な気持ち、ワクワクするような気持ちがほんの少し。

 なんだ。あれだけあれは僕の作品ではないなんて思っていたのに、それでも受賞したことは嬉しかったのか。

 今更ながら、自分の本当の気持ちを知る。

 笑えばよかったのか。泣けばよかったのか。そもそもその感情に、どんな名前をつけてやればよかったのか。

 正直、複雑な気持ちだった。

 こんな気持ちを抱えて、僕は明日からも仕事をするのかと思うと……どう、その気持ちを処理したらいいのかわからなかった。

 だから、見なかった振りをする。

 気づいていい感情、想い。そんなものばかりじゃない。この世は、綺麗で、綺麗すぎるから、余計に汚くて複雑なんだ。

 ごちゃごちゃの僕の心を、誰か、どうか救ってくれ。

 そんな思ってもみないことを軽く心の中で呟く。思わず自嘲の笑みが浮かんだ。

 布団を頭まですっぽりと被り、何度か呼吸をする。

 意識が少しずつ闇に溶けていく。

 ふと、女性の声がした気がしたけれど、それは気のせいか夢だろう。

 明日の分の元気を作るために、僕は早く寝なくちゃいけないんだ。

 幻聴のようなものに構っている暇はない。

――おやすみなさい。

 やっぱり、僕の声と誰かの声が重なっているような、そんな気がした。

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