第4話 暗雲

 陽姉との、楽しい日々は続いていた。


 俺達は昔の思い出をなぞるかのように、子供の頃、二人で遊んだ場所に訪れた。


「懐かしいなーよくこのジャングルジムとか滑り台とかあとはこのお山とかのぼってたよね」

「うん。たまに悪さもしたけどね」

「あー、覚えてるんだ。あの時の私、結構な悪ガキだったね」

「ほんとだよ。あれ見つかってたらド叱られてたよ」

「あとは、あの跡地だっけ」

「うん。あそこでかくれんぼしてたよ。普通に今思うと、危ないもの置かれてたしやばかったけどね」

「子供の頃はそういうのわかんないからなー」

「あとは、あの場所かな。人生においては」


 そう言って、俺らはある場所へと向かった。


 ◇

「うわぁなっつかし〜」

「変わらないね。雰囲気は」

 ある場所とは、田舎のここら辺で一番大きなショッピングモールのゲーセンだった。


 昔から、少し寂れた古臭いゲームセンターだったけど、それは今も変わらなかった。


「このメダルゲーム、まだあるんだね」

「ボールを穴に落として、同じところにボールが落ちたら全部ボール無くなっちゃうやつね」

「そうそう。これ面白かったなあ」

「俺、これでメダル稼ぎまくってた覚えがある。コツ掴めば、いけるんだよ」

「久しぶりにやってみる?」

「う、うん」


 一番少額のメダルを購入して、俺は昔懐かしいボールを落とすメダルゲームを始めた。


「この左右に動くバーのちょうどいいタイミングを覚えれば行ける!ここ!」

「おお!」


 ボールが、釘の間をすり抜けて落ちていく。

 俺が入れようと思った穴の直前で、釘のせいでボールが方向転換し、隣のもうボールがある穴へ入ってしまう。


「あぁっ、しくったぁ」

「やっぱり久しぶりだから感覚にぶってる?」

「意外と子供の頃の方がこういうのは上手いのかもな」

「そうかもね、、私、大人になってやっと子供の頃の良さに気づいたよ。子供の頃は早く大人になりたいって思ってたのに」


 陽姉は、感慨深そうにそう言った。


「まあそういうもんかもしれないし、俺も陽姉と再会するまではそう思ってた。でも、出会うことが出来てら昔を思い出して、俺、今子供の頃のような気分でいるような気がする。大人になっても、子供の心を持てば楽しくなるんじゃない?俺、今めっちゃ楽しいし」

「ふふっ、、光、変わらないね。確かにそうだ!私も、メダルゲーム、やろっかな!」

「そうそう、その意気だよ」


 俺と陽姉は、追加の大量のメダルを購入して遊び始めた。

 メダルゲームに真剣に取り組む陽姉の姿は、俺に色んなことを教えてくれた頼りがいのある昔の陽姉そのままで、俺のよく知る陽姉が帰ってきたと思った。


 ◇


  今日もガソリンスタンドの仕事を終えて、陽姉の待つ家へ帰ってきた。


「おかえり〜」

「あれ?また、髪型変えた?」

「うん。このヘアスタイルが占いでいいって言ってたから」

「へぇ〜そうなんだ」

「あれ、光、占いとか信じないタイプ?」

「俺は信じないかなあ」

「そうなんだ。まぁでも、男の人はそういう人多いよねー」

「うん。だけど、めっちゃ似合ってるしいいと思う」

「ふふっありがとう」

「俺的には、昔の陽姉の印象からショートカットのイメージ強いけどギャップあっていいね」

「昔は、いつもその髪型だったからね。今は、色んな髪型にする。私って結構、飽き性なのかな」

「陽姉は飽き性っていうより、色んなことを果敢に挑戦したいだけなんじゃない?」

「あーっ、それは言えてるかも!」「でももし、私が飽き性で、男にも飽きる性格で、浮気したらどうする?」

「えっ─────......」

「ちょっ、冗談だから、真面目に受け取らないでよ、光」

 陽姉は俺のマジな反応に、吹き出してそう言った。

 昔から、陽姉は俺をこうやってよくからかってくる。俺の反応を見るのが大好きなのだ。俺はそれをして欲しいとは思ってない。恥ずかしいから。でもま、それは俺がマジな反応を見せるから悪いんだけど。


「話は変わるけど、結構私たちも行きたい場所行ったよね。あとは他に行きたい場所ある?」

「実はどうしても行きたい場所があるんだ」

「えっどこどこ?」

「俺が夏休み、親戚合わせて家族みんなで旅行行く時に、熱出して行けなかったテーマパーク覚えてる?あそこに行きたい」

「あーあの、テーマパーク?近いしいいじゃん。でも、そんな近いところでいいの?」

「うん。あの時行けなかったのめっちゃ残念で、行きたかったから、、その、、残念だったのは陽姉と初めて行く旅行だったからっていうのはある」

「っ......なるほどね……じゃあ、そこ行こっか」

 俺はあの時の絶望を今でも覚えていた。何日も前から陽姉と旅行に行けると舞い上がりすぎて夜も眠れず、その結果風邪をひいて行けなくなった。本来行けるはずだったその時間を取り戻しに行くのだ。


 ◇


「じゃあ、行ってくるよ」

「うん行ってらっしゃい」


 私は、いつものように笑顔で光を送り出した。


 昨日の光はそれにしても可愛かったな。今でもあの時行けなかった旅行を覚えてて、いけなかった悔しさが残ってて、私との旅行をそれだけ楽しみにしてたんだ。


 それを考えただけでゾクッとする。悪い意味のゾクッとじゃなくて、ゾクッとするほどむず痒くて嬉しい気持ちだ。


 それにしても、、昨日のあの、『浮気したらどうする?』の反応、めっちゃ可愛かったなぁ。


 私が、。光のことは昔からずっと好きだったんだから。


 このスマホに、ずっと光の居場所が表示されてるぐらいなんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る