第3話 再会

 結婚式当日。


 俺の人生における初めての結婚式だった。俺は母親と一緒に結婚式に参加していた。


「あれ、光?」


 昔懐かしい声がした。


 その声を聞いた瞬間俺は、胸が弾む感覚を覚え、喜びの情動のまま、その声の方向へ振り返ると、彼女がいた。


 彼女は、ツヤツヤとした長い黒髪を靡かせていて、変わらぬ端正な顔立ちだった。


 一瞬、初対面かのように思える見違えた嬌艶きょうえんさと端麗さをその姿に覚えた後、見覚えのある昔から変わらない子供っぽい快活な表情を見せた。


陽姉はるねえ、久しぶり」


 彼女に会えた感動で、俺は声を震わせた。


「ほんと、久しぶり!大きくなったねえ〜?」

「か、揶揄うのはやめてよ。こう見えてももう大人なんだから」

「何歳になったんだっけ?」

「21だよ。もう結婚できる歳」

「そっかそっか。光ももうそんな歳かー。いい相手はいるの?」

「いるよ」

「えー!いいねえ!もし、その子と結婚するなら私も結婚式に呼んでね」

「まぁ、、呼べたら呼ぶね」

「絶対だよ!!」

 目の前の陽姉が好きなんだから呼べるわけないよ。

 俺はそう心の中で呟いた。


 ◇


 陽姉は、入場の準備で後ろへ下がっていった。


 俺にとってはさっき陽姉と話した時間が、夢のようだった。周りの人間や陽姉からしてみれば、久しぶりに会った親戚と交わす平凡な会話の時間に過ぎなかっただろうが。


 でも、そんな時間はもう終わりだ。


 俺が、を使って、陽姉の特別な存在になってやる。



 式の準備は順調に進み、牧師による会式の辞が行われた後、新郎が入場した。


 俺の人生の中で二人目の恋敵だった。


 その新郎の名は、星野ほしの 煌大こうだいというらしい。


 眼鏡をかけていて、頭が良さそうなインテリイケメンだ。恋敵1と比べるとお堅い印象を受けるが、どちらもイケメンなのには変わりない。つまり、陽姉が紛れもない面食いだということが確定した。


 そして、盛大な拍手に包まれながら、陽姉が入場してきた。


 純白のウエディングドレスを身にまとったその姿は、清楚で優美だった。


 ただただ、綺麗だと思った。


 神父の前に、新郎と新婦が向かい合う。さぁ、これからやっと《本当の結婚式》の始まりだ。


「ちょっと待った!!!!」


 俺は、某テレビ番組の告白シーンで割り込むかのように俺は大声をあげた。


 誓いのキスまでは待てなかった。


 周りがザワザワとしていた。


「この、恋敵狩り制度を使って、陽姉に、太田 陽奈に結婚前提のお付き合いを申し入れます!!」


 この制度ができた時に配られた恋敵狩り権利証明書を見せながら堂々と言った。


「な、なんなんだアイツは」


 新郎は驚いた引き攣り顔でそう言った。


「光?それ、、私へってこと?」

「うん。陽姉が同意してくれたら、無条件で俺の彼女ってことになる。答えを聞かせて欲しい」


 もう逃げも隠れも出来ない。する必要は無い。


 こんなことをしてダメだったら、絶縁されるだろう。でもこの際、その方が諦めがつくからそれでいい。


 この沈黙だけが、俺を苛んでいるのだ。


「そ、その……」

「うん」

「いつからなの?私のことを好きだったのって」

「ずっと昔から。なんで好きになったかも覚えてない程遠い昔から」

「そう、、だよね」

「俺は陽姉しか考えられなかった。だからこれまでも、一度も女と付き合ったことは無い。彼女いない歴=年齢なんだ。陽姉のことが忘れられなかったんだ。だから、ハッキリとした答えが欲しい。ダメでも、やっと諦めがつくから」

「分かった─────......」

「ごめんなさい。煌大さん。私、光くんの申し入れ、受けます」

「は?」

「陽姉行こう!」


 陽姉の手を引っ張った。


「うん!」


 陽姉は、それに満面の笑みで答えて、駆け出した。


 新郎は呆然としてから、膝から崩れ落ちていた。


 俺にとってはもうどうでもいいことだが、少しだけざまあないなと思った。もう、陽姉はお前のものでなく、俺のものなんだ。


「陽姉なんでOKしてくれたの?」

「それは、、光が、真剣で、あの人より、私を好きって言うのが伝わってきたし。何よりもその目が強くて、それに惹かれたから、、かな」


 陽姉は照れながらそう言った。


 目が強い。俺は一重だからそんなに目力が強い方では無いが、一世一代を掛けた告白に、目がガンギマリしていたのかもしれない。



 結婚式を抜け出して、互いの両親からも愛想を尽かされた陽姉と俺は、二人だけの誰にも囚われない愛の生活が始まった。


 手始めに向かった場所は、デズニーランドだった。


「陽姉、チュロス食べない?」

「いいね、私はイチゴ味のチュロスにする」

「俺は、普通のシナモンチュロスかな」


 チュロスを買って、ベンチに座り、一緒に食べる。


「あ、、砂糖口にいっぱいついてるよ」

 そう言って、俺の口角あたりについた砂糖の塊を指でとって、食べた。


 ふふっと陽姉が小悪魔っぽく笑う姿は、初めて見る一人の女の子としての姿であり、俺は胸がときめいた。


 デズニーランドで思い出を作ったあと、今度は温泉巡りとか海とか山登りもいいねーと、もう次の出かけるプランを話し合っていた。


 ◇


「オーライ、オーライ!!」

「お、なんか月山くん最近元気だね?いいことでもあった?」

「そりゃあありましたよ!へへ」

「おぉ、何があったの?」

「彼女が出来ました」

「おーそれは良かったな?彼女さんのためにもこれまで以上仕事に励まないとな!」

「えぇ、頑張ります!」


 仕事でも、精が出て、明るくなった気がする。陽姉のおかげであることは間違えなかった。


 何よりも変わったのは、


「ただいまー」

「おかえり、光」


 家に帰ると、陽姉がいることだ。


「あっ、、!!」

「ふふ、どう?思い切ってバッサリ切ってみたんだ」

 陽姉はあの綺麗な長い髪を切って、ショートカットになっていた。

「あの人といた時は、ずっと長い髪だったし、光ると付き合えたから、気分を変えたいなって」

「めっちゃいい。最高に似合ってるよ」

「ふふっ、ありがとう」


 この幸せが、ずっと続けばいいなと思った。

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