第2話 きっかけ
◆
俺が中学生になりたての頃だ。その時、
気軽に喋りあっていたのに、声を掛けるのですら、意識して気を使ってしまうほどだった。
陽姉は、俺のそんな思いも露知らず、変わらぬ溌剌とした態度で、明るく話しかけてくる。
そんな態度は、性格は、昔から全然変わらなくて、見た目と性格のそのギャップが僕の心をギュッと掴んだ。
俺と陽姉は、その頃になると、昔のように公園ではしゃぐように遊んだり、色んな悪さをしたりすることは無くなって、その代わりに買い物に出かけたり、飲食店で話したりしていた。
「光は彼女とか居ないの?」
「い、いないよ……」
「じゃあ好きな人は?」
「い、いるけど……学校には、いない」
この時の俺は、思春期ながら、陽姉に想いを伝えるか迷っていた。そんな中、急にきた恋愛話に、この質問に、濁しながらこう答えるしかなかった。これでも俺の精一杯の勇気を振り絞ったつもりだった。でも本当は目の前の人間が好きと言いたかった。
「ふーんそうなんだ」
「陽姉は、いるの?す、好きな人」
「私はね、いないよ」
「そうなんだ」
俺はこの時、心底ほっとした。でも、陽姉は言葉を続けていた。
「でも⎯⎯⎯、付き合っている人ならいるかな」
「えっ……」
俺は、信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。その真実を拒絶したのだ。
これが俺にとって最初で最後の失恋だった。
それを聞いた後、俺はその拒絶を陽姉に悟られないように精一杯、上手く取り繕った。
取り繕えたのは、心の中にどこか、そうなってもおかしくないという思いがあったからだ。俺はその奥手で、踏み出せない。その間に、魅力的な陽姉のことだから、恋人の1人や2人作るだろうという。
俺はその時から、
狂っていなければ、その後の俺の奇行は起こさないはずだからだ。
冬休みが終わり、陽姉と親戚と別れた後、俺は陽姉の恋人が、どんな奴かを確かめるために、陽姉に内緒で後をつけた。
要はストーキングというやつだ。
陽姉の学校は、親戚や親が話し合っているから名前は知っていた。
俺は、中学をサボり、陽姉の高校へと向かった。
校門では怪しまれないように、バレない位置でずっと待っていた。
すると、陽姉は、現れて、俺よりも何センチも大きい高身長のイケメンと一緒に歩いていた。
俺は、もうそこで、ストーキングを辞めた。項垂れた。
本当に、いたんだ、とそう実感した。
やはり、俺の中で、この目で確かめるまでは、信じたくないと、この事実を拒絶していた。
しかし、直視したことでもう、紛れもない事実だと認めた。
諦められない恋を、捨てようとした瞬間だった。
◆
でも結局、捨てられずにこの歳まできた。
あの時の俺は、幼すぎた。自信もなかったし、思春期真っ只中で、素直になることは難しかった。一番は、陽姉を、自分のものにしようとする勇気がなかったことだ。
今、それがあるかというのは、甚だ疑問である。
でも、そんな勇気なんてもう必要ないのかもしれない。
今このニュースで知った法律。
自分の好きな人を、その人の合意さえあれば無条件に、相手から奪えるという権利。
これさえあれば、勇気を出さずとも、きっかけが作れる。
もし、、陽姉から合意が貰えなくても、この権利を使ったという俺の想いは伝わるはずだ。
最悪、この恋が叶わなくても、伝えられればいい。
あとは、陽姉とどう会うかだった。
昔のような親戚の集まりは、今は無い。もう、俺と陽姉を繋ぐ縁は何も無い......
そう思った時、電話が鳴った。
母からだった。
「もしもし、母さんどうしたの?」
「あんた、招待状届いた?」
「招待状?」
「そう。
「えっ、、結婚式するの?」
「ええ、この時期にそうする予定って話してたの聞かなかった?とりあえずあんたも誘ってるみたいだから、確認しておきなさいよ?」
「あ、あぁ」
神様というものは、どうやら、波乱万丈なストーリーが好みらしい。
俺と陽姉の、、運命を繋ぐ糸は途切れていなかった。
そして俺は5年ぶりに結婚式で、陽姉と再会することになる。
それはただの親戚が久しぶりに会って互いの近況を語り合うような、意味の無い再会ではなくて、お互いのこれからを変えるような、意味のある再会だ。
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