12『番外編2』

「さ、管理者様、今日は、これを着て見て。」


その一言で、管理者の一日は始まる。


ここは、全ての記憶が保存されているアカシックレコード。

その管理者はベッドで寝ていた所を、一人の女性が声を掛けて起こした。

朝、昼、夕の感覚はある世界で、管理者は規則正しい生活をしていた。

だが、昨日の夜は、プラネタリウムが出来たと言ってきた男性がいて、是非見て欲しいと管理者を招いていた。


管理者は、プラネタリウムなら、朝でも昼でもいいのでは?と説いたが、夜に見ると身体のサイクルとピッタリあって、雰囲気が違うと言ってきたので、出向いたのである。

その通りで、夜にみるプラネタリウムは、とても雰囲気が良く、夜に包まれて心が穏やかになっていくのを感じた。


そのおかげで、夜は、いつもより少しだけ遅く寝ていた。

だから、本来なら、朝に太陽らしき光がこの地を照らすと、導かれるように起きるのだが、身体が言うことを訊かなかった。


「誰?管理者様を、夜、遅くまで起こしていたの!」

「あっ、昨日、プラネタリウムが出来たでしょ?その設計者じゃないかしら?」

「なら、少しだけ寝かせて差し上げましょ。」


デザイナーが服を作って来て着て見せて欲しかったのだが、同時に来ていた絵本作家と話をしていて、管理者が目覚めるのを待っていた。


管理者は、見た目、少女に見えるが、日本でいうと縄文時代から、この領域に配属されているから、結構な年齢である。


「おはよう。」


管理者は、光が窓辺から入ってくると目を覚ました。

部屋の前に人気を感じて、扉を開けると、用意されていた椅子に座っている女性、二人に声を掛けた。


「おはようございます。管理者様。」

「今、大丈夫ですか?」


女性二人は、管理者の身体を気遣う。

管理者は、「大丈夫です。」と言いたかったが、その返事をしたのは、お腹だった。


「あら?お腹空いているの?」

「丁度、朝貰って来たパンがあるの。ご一緒しません?」


管理者は、とても嬉しかった。

それに賛同して、デザイナーが作ってくれた服を着替えている間に、絵本作家が朝食を用意してくれている。



管理者の住まいについてだが、ギリシアのパルテノン神殿の形をしている。

入口には、大きな門があり、門を入ると左右にぎっしりと詰め込まれた収納があった。

中央には、赤色のカーペットが敷かれており、長い椅子と机がある。

奥へと進むと、階段があり、横には、扉と地下へと行ける階段が左右にあった。

地下は、右が紙で作られている物やデジタル関係の物が収納されている。

左が、湯呑や花瓶などの三次元で触れる関係の物が収納されている。

扉の中は、大きな作品が収納されている。


階段を上ると、扉があり入ると、大きな机に椅子があり、右の壁際にはIHコンロや水道、冷蔵庫などの台所をイメージさせる。

左側には、衣服を収納するクローゼットがあった。

その奥にも、部屋があり、その部屋が管理者の部屋である。


管理者の部屋は、左に窓がある。

左にベッドがあり、ベッドの足方面に、ソファーと机がある。

右には、壁に黒板位の大きさがあるテレビモニターがあり、その下には、数多くの機械があった。

機械は、ブルーレイレコーダーやゲーム機などが収納されている。

奥は、脱衣場と洗面所にお風呂となっていた。



「今日も、かわいいらしい服をありがとうございます。」


管理者はお礼を言うと、デザイナーの女性はとても喜んでいた。


「まるで、絵本に出て来る妖精のようです。」


台所で材料を切る場所を使い、まな板とパン切り包丁を持って、パンを切っていた絵本作家の女性が、着替えを見ていて、感想を言った。


「妖精に失礼だと思いますよ。」


頬を少し赤らめて、目を伏せた管理者を見て、二人の女性は心が温かくなり、癒されていた。


それから、建築関係の人、資料作成の人、絵画の人などが、管理者の元へと来ては、作品を紹介していって、とても満足に帰っていく。


「また、明日もきますからね。」


との声もある程、管理者はこの領域にきている転生を待つ魂達に、好かれていた。

好かれる理由の一つは、作品をすごく褒めてくれるのである。


今日来た、資料作成の人は、建築関係や絵画関係の人と比べると、紙一枚に書かれたお知らせであり、作品と言えるものではなかった。

しかし、管理者は、持ってきた一枚のお知らせを見て、感動していたのである。


「ここのフォント、好きな形だわ。それと、このタイトルに使われている色、どうやって出したの?とても綺麗だわ。」


それが、お世辞ではなく、本心で話をしてくれているのが分かる位に伝えて来るので、もう作成するのに意欲が湧いてくる。



管理者は、自分の住まいから降りて、皆の様子を見学した。

とても活気があって、作品を仕上げる熱が凄く感じられる。

この生きる意欲が転生にも大きく左右されるから、今度の転生者を選ぶのに参考になっている。


今度、転生させる者は、もう決まっているから、その主に転生の支度をする用意を伝えに来た。


転生者は、卑弥呼である。

卑弥呼の所へ行くと、パソコンを使っていた。

記載するのが便利といって、卑弥呼は気に入っていた。


「卑弥呼さん、今、よろしいかしら?」

「管理者様、はい、大丈夫です。」


パソコンで作業をしていた卑弥呼は、今の作業を保存して、管理者に身体ごと向けた。

作業をしているパソコンの画面を管理者は見る。


「そろそろ終わりますか?」

「はい。月の情報は、私が見て来た物全て入力出来ました。今は、間違いがないか確認している所です。後は、印刷して本にすれば、私の仕事は完了します。」

「お疲れ様でしたね。」


管理者は、卑弥呼を癒した。


卑弥呼は、ここの領域に来た時には、とても驚いていた。

色々と見ていくと、気に入ったのはパソコンだった。

キーボードに指を沈めるだけで、文字が現れ、色々な言語に変換できるのである。


前管理者から、かぐや姫と入れ替わり、月の資料を集める仕事を頼まれていた。

それが、この領域に来た時に思い出し、気になっていて、どのようにして残そうと思っていた。


それで、今日、気に入ったパソコンで入力した内容の確認をしていた。

明日には印刷して本にしてあり、仕事が完了する。

それを管理者は待って、転生を遅らせていた。

本来なら、卑弥呼はこの領域に来た瞬間に転生出来る状態であった。

だが、やらなければならない仕事があるのを知った管理者は理解したのである。


「では、転生は、明日の午後に行います。それまでに印刷し、本にしてください。」

「前管理者は?」

「今だに、この領域にはお越しになっておりません。きっと、まだ、天国か地獄かを体験している頃かと。」

「そうですか。本当なら直接お渡ししたかったのですが、仕方ありませんね。」

「ここに来ましたら、私が責任を持って渡しますから、安心してください。」

「よろしくお願いします。」


会話をして、管理者は、もう少し領域を見て回って、自分の家へと帰った。

帰ると、台所には数人いた。

全て作品を管理者に見てもらって、家に置いてもらうためである。


「生きたジオラマ作りました。土を本物にして種を蒔くと芽が出ます。」

「合体させることにより、湯呑にも、マグカップにもなる、入れ物作りました。」

「五分アニメ、一人で作りました。是非、寝る前に見てください。」

「枕作りました。試作お願いします。」

「新しい空手の技をあみ出しました。見てください。」

「」

「」


など、本当に多彩な作品を持って来ていた。

それら全て、管理者はときめかせて、見て、ほめて、興味を持って、対応する。


管理者は愛されている。



次の日



本になった月の報告書を、管理者に差し出す卑弥呼。

卑弥呼が使っていたパソコンは、パソコンを作った技術者に預けた。

本を受ける取る管理者。


「確かに受けとりました。」

「よろしくお願いします。」

「ええ、本当に報告お疲れさまでした。さて、転生を行いますが、希望はありますでしょうか?」


卑弥呼は、少し考えて。


「日本に転生したいです。出来れば、月が近い所。」

「月が近い………道路の標識を作っていた人が置いて行った情報によりますと、月まで三キロとあります。本当の月ではないのですが、そこの地域でよろしいでしょうか?」

「面白そうですね。その地域でお願いします。」


管理者は、卑弥呼の頭に手を乗せる。

まるで今までの働きを褒め、頭を撫でるように、優しかった。


「では、生前の記憶も、ここの記憶も、持ってはいけませんが、よい転生を祈っています。」

「はい。現世でも、月に関係することが出来ますように。」


管理者が、卑弥呼から預かった本を片手に持ちながら、頭に置いた手を上にあげた。

その時、卑弥呼の魂が黄色の光になり、現世へ転生していった。





それから、数十年経ち。


「日本の企業が開発した有人ロケットに、静岡県浜松市生まれの日本人の女性が乗り、月へと降り立ちました。」


とのニュースが流れていた。

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模写コンクール 森林木 桜樹 @skrnmk12

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