9「仕上」
「つかぬことを聞きますが、貴方達は、私の娘とどういう関係で?」
フェルメールとメーヘレンは、青ざめた。
「えーと、その。」
説明できないと思っていると、芽衣が。
「絵の先生よ。今、美術部で課題だされていてね。困っていた所を助けてくれたの。」
話すと、それに乗るように、フェルメールが。
「ええ、今度コンクールがあるってことで、悩んでいらっしゃったみたいで、少し手助けをしていたのですよ。」
「そうそう、それも、後、少しで終わりますので、その絵が完成次第、娘さんには近づきませんから、その。」
『『真壁令子、何とかしろ。』』
願うと、令子は、芽衣の耳から光を発した。
その光は、まるで竹を光らせていたように優しい光だ。
フェルメールとメーヘレンが関わったことだけを、この場の人間から記憶を消した。
そして、フェルメールとメーヘレンは、ヘアピンに宿った。
「あれ、なんでこんなに眉間にシワを寄せているのだ?」
保は思い、眉間を指で擦る。
愛も、なぜ、警戒をしていたのか、わからなかった。
それよりも、娘がかぐや姫の生まれ変わりで、月に連れ去られる所を、保と愛が止めて、芽衣も抵抗した。
説得で、連れて帰るのを諦め、芽衣はこの地で過ごせると、記憶が書き換えられた。
地域の人も、そのように変更された。
ただ、ご神体が芽衣になったのは、変更されなかった。
芽衣がかぐや姫の生まれ変わりなのは、間違いがなかった。
ご神体は、生まれ変わり以外が触ると、やけどする。
芽衣は、やけどしなかったからだ。
その日は、とても疲れた為、芽衣は家に帰って休んだ。
保と愛は、研究所、地域保存委員会へ出向いていた。
地域保存委員会は、この地域の伝統を保存して、次の世代にと伝えていく仕事だ。
これは県から依頼されていて、観光地にする為に、道路の整備や泊まる所を増やし、食べ物や飲み物の試作、この地域で獲れる魚を中心としたお土産品も考えていた。
保と愛は、調理師の免許を持っていて、仕事は、飲食の試作担当であった。
だが、芽衣が、この地域の神になったので、その親である保と愛は、自分達の振る舞いも含めて、相談をする為である。
一人にしていいのかと思ったが、何故か安全だと感じていた。
芽衣は、ベッドに寝た。
すると、そこには令子がいた。
「令子、いや、貴方はかぐや姫だよね?」
芽衣は、令子名前をいうと、着物に長い黒髪へ変化した。
その姿は、とても美しい。
当時の男性が、交際を申し込むのもわかる。
「危険を知らせてくれていたんだね。」
「ええ、真珠の耳飾りの少女の姿を借りました。話しやすいと思って。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございます。私は、この地球で育ててくれた両親をとても好きなの。だけど、迎えが来ると知ると、地球を離れたくなかった。だから、当時私によく似た人に、かぐや姫の能力を授けて、偽物だとわからないようにしたのです。そして、私の願いを叶えた男性と結婚しました。」
かぐや姫は、少しだけ昔話をした。
「私の代わりを引き受けてくれた子は、親を知らなく、私の屋敷前で倒れていましたの。私の育ての両親は、その子もとても可愛がって、私も妹同然に可愛がったわ。だけど、周りから、その子が嫌われるといけないので、私の付き人として役割を与えていた。でも、私は、妹として心では思っていたわ。」
少し、懐かしそうな顔をする。
「私が帰らなくてはいけなくなった時、私が帰りたくないと思っているのを、妹は知っていて、身代わりになると言ってくれた。私は、反対したわ。でも、妹は『私がこの家に捨てられたのは、きっと、この為だと思うのです。』と言い放った時、自然と私は自分の力を妹に授けていたの。それからは、芽衣さんもわかっていることよ。」
「そうだったのですね。」
妹の前世は、卑弥呼である。
今は、卑弥呼という人物がいないと言われているが、転生をしていたからだ。
卑弥呼には弟がいたが、卑弥呼と弟はとても良く似ていた。
おまじないをしていると卑弥呼は、言葉を訊いたという。
『近い内に弟に仕事を任せ、姿を消すように。』
卑弥呼は、自分の領域には弟しか置かなかった。
弟に話をし、仕事を弟に任せた。
そして、ある時、卑弥呼は皆が寝静まった時、こっそりと自分の領域から出て、姿を消した。
その後は、どのようにして転生をしたのかは分からないが、そのままの姿で転生していることから、誰かの導きがあったのではないかと推測される。
その誰かが、記憶を操作し、かぐや姫の元へと送ったと思われる。
それから、弟は、自分が卑弥呼に変わり務めていたが、人に成り切るにも限界があり、卑弥呼が亡くなり自分が葬ったと知らせた。
転生した後の卑弥呼は、記憶を失っていたが、卑弥呼の不思議な力は宿っていて、かぐや姫を説得するタイミングも良く、月から迎えに来て時間がない時に発揮した。
かぐや姫は、自然と力を授けてしまっていたといっていたが、それは卑弥呼の力によるものだった。
おまじないで、人に説得できる力があるのだから、かぐや姫一人位は朝飯前である。
そのかぐや姫は、芽衣の手を取り。
「でも、そのことで、芽衣さんにご迷惑をおかけしまったようで。」
「気にしないでください。こうやって、私も地球に留まれましたから。」
芽衣は、自分の耳についている真珠の耳飾りを、かぐや姫に返そうと動作すると。
「これは、芽衣さんが持っていて。」
「いいの?」
「うん。きっと、芽衣さんには、必要な繋がりになるから。」
目を合わせると、クスリと笑う。
すると、上を見るかぐや姫。
「芽衣さんには、やることがあるでしょ?」
「ええ。」
「では、寝ている暇はありませんわ。さあ、目を覚まして。」
かぐや姫は、芽衣の右手を握る。
「きっと、うまく描けますわ。」
「がんばるよ。」
フェルメールとメーヘレンが、声をかけていた。
その声に導かれるように、目を覚ます。
「管理者から連絡が来て、今日いっぱいで、帰らなくてはいけなくなった。」
「その前に、この絵、仕上げるぞ。」
芽衣は、筆を取った。
背景を描き始める前に、フェルメールとメーヘレンは、芽衣の手にすり寄り、真壁令子…いや、かぐや姫に実体なれないかと祈る。
すると、直ぐになれた。
漁港で見たのだが、再度確認すると、芽衣は驚いていた。
肉体を確認すると、真っ白な背景に鉛筆で何かを書き始める。
その上から、深緑色の絵具を塗るようにいった。
それも、濃く深くである。
背景が描き終わると、フェルメールとメーヘレンの体が、透けていた。
「これでさよならだ。」
「この一カ月、楽しかったよ。」
芽衣は、笑うと、姿勢を良くした。
「この一カ月、ご指導ありがとうございました。フェルメール先生、メーヘレン先生。お早い転生、期待しています。」
芽衣は両手を差し出す。
その手に、それぞれ握手をすると、フェルメールとメーヘレンは消えた。
透けていたが、芽衣の手にはぬくもりがあった。
芽衣は、もう声が聞こえないヘアピンを両手に握りしめて、静かに泣いた。
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