10「震撼」

それから、芽衣は、とても忙しかった。


この漁港を守る神となったから、その準備と神としての勉強があった。

夏休みが終わると、模写コンクールの作品を提出した。

一応、スマートフォンのカメラ機能で、撮って、待ち受けにしていた。

少し悲しいことがあれば、待ち受けを見て、勇気を貰っていた。


フェルメールとメーヘレンのことを、ようやく調べた。

とても多くの作品と功績を残している人物だと知った。

題材が作者で、模写のプロが、教えてくれていた。

それは最強だろう。

夏休みの自由研究は、フェルメールとメーヘレンについて調べた結果を、作文にして発表した。

それ以来、美術が好きになり、その中でも絵画をよく見るようになった。


美術家が憑いていた中学生達は、さよならをし、しばらくしてから、憑いていた人を調べると、とても驚いていたことは、ここで報告しておく。




名前、不破芽衣。

年齢、十二歳。

趣味、美術館巡り。

好きな食べ物、焼き魚。

好きな色、深緑。

好きな絵画、真珠の耳飾りの少女。

好きな作家、ヨハネス・フェルメールとハン・ファン・メーヘレン。

備考、かぐや姫の生まれ変わりで、漁港の神様。




災害救助チームには入れないが、災害が起こさないように、防衛出来る力がある。

海が汚れていては綺麗にし、荒れようなら押さえ、時には、泳いで魚たちと交流もあり、魚介類と人間の橋渡しの役割もしていた。

その事により、バランスが取れて、魚を取りすぎることもなく、魚も近寄ってはいけない領域を教えてくれて、良い関係が結ばれていた。


そんな生活の中、芽衣は、高校生になった。

周りのクラスメイト達は、芽衣を神扱いはしなく、同じ人間として見て、接している。

それが、芽衣にとっては、とても嬉しい。


紬は、ようやく、ベストが編めるようになったといって、ドンドンと作品を作って、地域の展示会に出したりしていた時、このベストを地域のお土産として売り出してみないかと連絡が来た。


そのベストは、リバーシブルになっていて、重なっていた。

それだけではなく、脱ぐ時に必ず静電気が走り、髪の毛が爆発したように逆立つ。

本来、静電気を起こさないようにする仕組みを考えるのだが、紬は、パブロ・ルイス・ピカソと岡本太郎の導きに寄って、逆に発想をしたのである。


『絶対に静電気が起きるベスト』


静電気が起きなくする洗剤や、スプレー等を使っても、静電気が起きる。

その為に、衣服以外にも使われることになる。

例として、静電気モーターの起こす燃料である。


ベストのデザインは、ピカソ。

脱いだ時の衝撃構造は、岡本太郎。



漁港で、まぐろの解体ショーをしていた。

そこで使われている刃は、とても切れ味が良く、見慣れない形をしていた。

しかし、その形が、解体する人の手に負担がかからず、とてもなじんでいた情報も聞えてきた。

刃は、紬と同じようにお土産品として、売っていた。

その刃を作った少年は、いつも頭に手ぬぐいをしているが、枚数は二枚であった。



両親は、かぐや姫の生まれ変わりを守る役割を与えられており、芽衣の傍にいるのが仕事だ。


ある時、どこか行きたい場所を訊いた時には、美術館巡りをしたいと言った。

近場から、遠くまでの美術館を巡るため、キャンピングカーを買い、大型の休みには順番に日本中を回ろうと計画していた。

美術館に入ると、芽衣の顔立ちが変わるのを知った。

まるで何かを探している顔で、一つ一つの作品を見ていたが、良く見たのが絵画であった。


とある美術館に来た時である。

美術館に入った瞬間、入場券を買う前に入ろうとする位、ソワソワしていた。

入場券を買い、建物の中に入った瞬間。

スタスタと歩き始め、足を止め、見つめた先にあったものは、真珠の耳飾りの少女だ。

両親は、追いかけて、少し離れた場所で芽衣を見ていた。

凄く真剣になって見ていて、時間が流れていく。


芽衣に話しかけようとして、名前を呼ぶと、涙を一筋流した。

目を一度瞑り、両親の顔を見た後、他の美術館を巡ったように作品を見る。

ショップに行くと、ポストカードがあったので、芽衣は自分の貯めたお金を使って、フェルメール作品を買った。

それを、額に入れて、枕元にズラリと並べて置いてある。

中でも、真珠の耳飾りの少女を真ん中に置き、いつも起きた時、寝る前に挨拶をしている。


その光景を見て知った両親は、一本の電話がかかって来て、芽衣に取り次いだ。



「君、模写コンクールに出した作品、どうやって描いたのだ?」



模写コンクールは、順位は四位だった。

コンクールに出した作品は、戻ってこない。


最後にフェルメールとメーヘレンが書いたのは、自分のサインだった。


あの後、模写コンクールで審査をしていた人が、深緑の下に何か書いてあるのに気づいた。

読めないことはないが、何かはわからなかった。

一応、エックス線や色々な機械を使って、科学的検査をした。

学生が、冗談で書いた物だと思っていたが、あまりにもサインが似ている。

それから、三年研究して、本物と認定された。


「この絵、ありえなくて、とんでもない価値のある作品だぞ。」


確かにそうだろう。


フェルメールとメーヘレンの、時空を超えた共同サインがある模写の絵であり、題材が真珠の耳飾りの少女なのだ。

それはそれは、驚くべき作品だろう。


どちらかがタイムマシンを使って、この世に降り立たなくてはいけない。

いや、どちらかではなく、二人がタイムマシンを使うしかない。

ただ、この世にはタイムマシンはなく、どのようにして、二人のサインを得られたのかは、不思議である。


芽衣は、面倒になったと思い、未成年であることを使い、両親へ電話を替わって貰った。

両親は、上手く話しをしてくれて、作品は返さない規則だが、この作品だけは返却された。


数日後に返されたのは、額に入り、丁重に、厳重に、頑丈な箱に入れられ、注意事項の沢山シールが張られて、送られてきた。

美術品専門の配達業者が、三人も来て、丁重に玄関へと置かれた。


配達業者が帰ると、芽衣は早速カッターナイフで梱包を外して、ゴミ処理は保に任せ、作品を持って、部屋へと行く。

窓を開けて、ベランダへ出て、今来た模写コンクールの作品を、両手で大切に抱き締めながら、空を見上げると、とても美しい夕日を見た。

毎日、夕方になると、ベランダへ出る日課となった。




一方、魂が転生を待っている空間。




管理者が、フェルメールとメーヘレンを、目の前にしていた。


「これより、ヨハネス・フェルメールとハン・ファン・メーヘレンの転生儀式を執り行う。」


周りは、儀式に集中していた。

管理者は、フェルメールとメーヘレンの頭にそれぞれ手を置いた。


「予定されていた転生は、もう少し後なのだが、美術に興味ない少女に興味を持たせ、能力強化を果たし、今回、津波を回避し漁港を救ったことも功績とし、転生を許可する。」

「「ありがとうございます。」」

「管理者、一つお願いがあります。」


お礼を言うと、フェルメールがお願いをしてきた。


「なんだ?」

「不破芽衣と過ごした日々を、前世の記憶として維持させてください。」

「ふむ、そんなにあの人間が気になっているのか?よかろう。そうじゃの。ついでに生前の記憶も持っていくといい。全て持って転生せよ。それ位の功績を果たしてきたのじゃ。ただ、条件がある。」


フェルメールとメーヘレンは、喉を一つ鳴らす。


「お主等は、双子の兄弟として転生させる。国は何処がいい?やはり、日本か?」

「いえ、オランダを希望します。」

「なるほど、日本の漁港は沢山あるぞ。その中から、不破芽衣がいる場所を見つけるのは困難となろう。それでもいいのか?」


フェルメールとメーヘレンは、一度顔を合わせ、管理者に顔を向き直し。


「「はい。」」


管理者が、二人の顔を見ると、とても楽しそうに見える。

メーヘレンは、一冊の本を管理者の前に置く。

本は、広辞苑位の厚さだ。


「この本は、もう転生をしている伊能忠敬が、この地に残していった日本の地図であります。漁港も書いてあり、何度も読み返しました。この情報を頼りに探したいと思います。」

「ふむ。それは心強い情報じゃの。伊能忠敬は、今、ドローンや最新鋭の測定器、それと自分の足を使い、ハザードマップを作製していると訊く。伊能忠敬が作成するハザードマップは、とても詳しく、地盤や草木の生え方、コケにサンゴ礁などの自然から得られる情報もあり、異常がある所は頑丈にしたり、柵を設けたり、色々な方法を導き出している。先程起こった地震でも、伊能忠敬が注意をして対処したおかげで助かった地域もあった。その伊能忠敬が作成した情報ならば、きっと、不破芽衣を探せるじゃろう。」

「はい。」


流石に、本は持っていけない。

そうこの地で作成した作品は、全て管理者の物である。

この本もそうなのだ。


転生した後に、生前の記憶にこの場所での記憶がないのだが、一瞬、閃く時があり、成功している人もいる。

閃く時は、管理人がその作品を触ったり、見たり、使ったりした時だ。

管理人を通じて、この場所での作品が、思い出すのである。

それを、天啓と言われる。


きっと、今、伊能忠敬は、何かの天啓を受けて、違う方法のハザードマップが閃いている頃だろう。


ちなみにだが、この伊能忠敬が、またこの地に来た時には、自分の魂が歩んできた記憶が全て蘇るのであるからして、また、この本を取る可能性もあるのだ。

全ての魂がそうだから、また、自分の作品に出会えるのである。


そう、最初からの全てにおける情報が詰まった記憶の場所、アカシックレコードと言われている場所が、ここだ。


管理者は、再度、フェルメールとメーヘレンを見ると、最上級の笑顔を向けられ。


「では、良い転生を。」


手を挙げると、美術家達に見送られながら、黒と白の光となり、地上へと向かった。






その後の話、地上の美術界では、一つの震撼があった。


第二のフェルメールと言われる位の兄弟画家が現れ、描く絵画全てが、人の目を引き付けるものであった。

新聞、テレビ、ネットも話題になり、二人が描く動画も色々な動画サイトで公開されていた。

下描きを兄がやり、色塗りを弟がやり、背景を二人で仕上げるといった技法で、背景には必ず、竹と海があった。

その竹は深緑が生えていて、海の色はフェルメールブルーと似ていて、優しい色をしていた。

兄弟の年齢も注目されて、今は、十二歳である。

始めに絵画を描いて、認識し始められたのは、六歳の頃。


親から貰ったお金と絵画で得たお金は、十八歳になったら日本に行く為に、大切に貯めている。

画材代もあったが、普通に一般的に使用されている絵具を使って、お金がかからないようにしていた。

日本の漁港数を調べると、二千八百以上あるのである。

それらを全て周り、不破芽衣を探すのだ。

お金はいくらあってもいい位だ。


それと、日本語がとても上手に話せていたし、書く、読むも出来ていた。

両親の話からすると、いつの間にか日本語を習得していたという。

兄弟二人で話をする時には、日本語で話をしているから、両親も内容を分かりたくて、日本語を勉強中だ。


絵を描きながら、二人は、日本にいる不破芽衣に会えるのは、六年後を楽しみに夕焼けに染まる空を見て、微笑んだ。


その時、芽衣には、耳たぶが何か熱を帯びたと思ったと同時に、フェルメールとメーヘレンの声が、聞こえた気がした。


夕焼けの太陽が、月へと変わり、優しく地上を包み込む光を発していた。



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