5「親子」

「芽衣さん。」


芽衣は、目を覚ました。

目を覚ましたってよりは、目を開けたと表現するのが正しい。

そこには、真珠の耳飾りの少女の姿の真壁令子がいた。


「えっ、令子ちゃん?」

「そう名付けてくれたんだね。ありがとう。」

「勝手にごめんね。」

「いいよ、好きなように呼んで、それでね。これ夢なんだけど、夢の中だけでもお話してくれる?」

「うん。」


この空間の雰囲気は、深緑の空間だ。

上も下も右も左も、遠くを眺めていても、深緑が続いていた。

芽衣と令子はというと、浮かんでいて、まるで宇宙のことが載っている図鑑に、宇宙飛行士が写真で見たことがあるように、宙に浮いていた。

ただ、自分の身体を自由に動かせなくて、その場に留まっているのが精一杯である。


「わわ…。留まれない。」


すると、令子が手を差し出してくれて、その手を取るとやっと自分の身体が留まれるようになった。

でも、手を離すと、どこかへ行ってしまいそうになるので、令子は芽衣の手を離さなく、話をし始める。


芽衣と令子は、まずは自己紹介を始めた。

といっても、令子の情報は芽衣が設定したものだから、芽衣だけした。


「私の好きなの、焼き魚なの。この地域は、漁港だから、海産物が多いの。だから、自然と海産物が好きになるのよね。」

「焼き魚の中で好きな魚って、何?」

「鮭と鯖で迷う。」

「ははは…芽衣ちゃんって、面白い。私の好きな食べ物、しじみの味噌汁にしてくれたのも、楽しいよ。」


そのように好きなことの話をすると、どこかで音が聞こえる。


「時間ね。また、夜に。」


令子が言い手を離すと、芽衣は目を覚ました。

目を覚ますと、令子を抱きしめて寝ていたのを確認した。


「おはよう。令子ちゃん。」


すると、絵の令子が何かと微笑んだ気がした。

嬉しくなり、令子を丁寧に机に置くと、スマートフォンを操作して、背伸びをして、昨日と同じような一日をした。


また、両親が仕事で帰ってこないので、朝と昼と夜は、自分で作る。

買い物は一応、保からクレジットカードを持たされている。

生活に必要な物を買うようにと言われていた。

家にある物でも作れるのだが、からあげが食べたくなったのと、冷蔵庫を見るといつもある食材が少なくなっているのを確認した。

買い物をする為に、今日は、午前十時まで勉強して、それから出かける。


その情報を伝えると、フェルメールとメーヘレンは、いくら子どもが外に一人で出歩いても平和な国とは言え、二日間も子どもを一人にさせる親に嫌気がさしていた。

仕事と子どもと、どっちが大切なのか。

もはや、この三日間で、フェルメールとメーヘレンは、芽衣に情が移っていた。


「芽衣、親に怒ってもいいんだぞ。」


メーヘレンは、芽衣に言うと。


「育児放棄とか思っている?安心して。仕事は大切だし、今は、一人だと助かるの。」

「は?どう助かるって言うのか。子どもを二日間も一人にさせるのは。」

「まあ、常識的に考えてそうかもしれないけど、言いにくいんだけど言うよ。」


フェルメールとメーヘレンは、言いにくい言葉を訊いた。


「今、フェルメールさんとメーヘレンさんは、このヘアピンに宿っているのよね。」

「そうだ。」

「それに話しかけている図って、周りから見てどう思うの?」


その言葉を聞いて、想像して見ると、納得した。


「一人でボソボソ言っている危ない人って思われるよ。このマンションは、防音になっているけど、防音されていない建物だったら、確実に警察へ通報されていたわね。両親がいない中、中学生が誰かを連れ込んでいるとか、精神がおかしくなって独り言が多くなったとか、それで両親が疑われて大変なことが起きるよ。別に私、異常じゃないのにね。」


芽衣の言葉で、自分達がいるのが枷になっているのかと思った。


「あっ、枷になっているとか思った?そんな事、思わないでよね。貴方達が来る来ないにしろ、両親がこの二日間、いないのは変わらないです。そこで、フェルメールさんとメーヘレンさんが来てくれたので、楽しいのですよ。それに、対策は立ててあるので安心して下さい。」


芽衣は、いつ対策を立てている位、考えていたのか。


「芽衣、そこまでの考えはどこで?」

「えっ、フェルメールさんとメーヘレンさんが、私の所に来た時に既に。」

「そんな様子見られなかったけど。」

「見せなかったからね。頭で考えていること、知られたい?」


芽衣は、スマートフォンの機能を、説明し始めた。


「このスマートフォン、これからはスマフォって言うね。スマフォには、いくつかの機能が入れられるわ。文字で会話出来たり、顔を見せて電話出来たり、それに、居場所も分かるのよ。」


その機能を二人が見る。

そこには、両親の場所が映し出された。

今は、研究所で二人が並んでいる。


「この機能は、家族で共有できるの。今、どこにいるか。何時に家に帰ってきたか。それに、これは私だけではなく、両親の居場所も分かるわ。だから、お互いにこの機能を通じて、どういう行動をしているのか、把握できるのよ。それに、言葉も文字でだけど送れるから、起きた時にはおはようとか、でかける時にはどこに出かけるとか、報告できるから、大丈夫よ。」


芽衣が、スマートフォンを操作している時が、多々あったが、それは両親に連絡をしていたのかと認識した。


現世は、本当に便利になったと思った。

フェルメールは、十五人の子どもがいた。

もし、この現代の技術があったら、十五人の子どもにこの機能を持たせ、自由に動きまわせたら、どんな動きをするだろうと想像すると、とても楽しかった。

メーヘレンも、同じように思っていたから、とても興味があった。


「だから、安全を考えるなら大丈夫です。こうやってスマフォを持たせて貰っているし、住む場所も与えられている。お金もクレジットカードを預かっている。私を信用してくれているからこそ、安心して仕事が出来ていると思うの。でも…そうね。甘えてみてもいいかもね。」


芽衣は、フェルメールとメーヘレンの気持ちも受け取り、少しだけ両親に甘えようとして、メッセージに「早く帰って来て」と一言打ち込んだ。


昼ご飯を作って食べて、昼からはフェルメールとメーヘレンに指導されながら、絵を描く。

夕方になり、風呂を洗って湯を張り、さて、夕ご飯をどうするかと思った時、家の扉は開いた。

両親だ。


いきなり、両親は、芽衣に抱き着いて来た。


「ごめんね。寂しかったでしょ?」

「本当に、二日間、一人にしてしまった。ごめんな。」


その姿を見たフェルメールとメーヘレンは、芽衣が言葉を送れば駆けつけて来てくれるのと、ちゃんと愛情があると安心した。


今日の夕食は、出来合いの物を両親が買って来ていた。

その中には、芽衣が好きな焼き魚があった。


「芽衣、この二日間、不思議なことは起きなかった?」

「えっ別に起きてないよ。普通に、起きて、食べて、宿題して、買い物に行って、何も不思議なことはないよ。あっ、百円均一で絵具を買ったわ。」

「お金は?」

「自分で払ったわ。」

「そういう勉強に必要な物は、クレジットカードで買っていいのよ。レシートあるなら、後で出してね。渡すわ。」

「うん。」


愛が、生活とお金の心配をすると、保が。


「友達を呼んで宿題してもいいんだぞ。」

「うん。でも、一人だと集中出来るの。」

「友達は?」

「スマフォのメールで話をしている。あっ、ちゃんと一対一で話をする為にショートメールだけを使っているよ。他の機能は入れてないです。」

「みんなでグループ作って話すのもいいけど、それは大人になってから、仕事でいい。今は、一対一で、友達一人一人を大切にして、話すのがいい。」

「お父さん、いつも言っているよね。一対一で話せない人とは友達とは言えないって。それにグループで話すなら、スマフォじゃなくて実際に会って話せって。」

「文字だけの言葉だと、顔の変化も気づけなくて、グループに入っているのに、独りぼっちにさせてしまうこともあるからな。」

「うん。」


フェルメールとメーヘレンは、その話を聞いていると、父も母も芽衣を守っている教育をしていると感じた。

芽衣は、これからも一人になるかもしれないが、それでも、芽衣を思っている両親がいるし、今は、私達がいる。

傍にいるうちは、芽衣を一人にさせないと、二人は決めた。


その時である。

食事が終わった時、父のスマートフォンに連絡が入った。

仕事場からだった。

一時間待って欲しいといい、急いでご飯を食べて、片付けをした後、芽衣を思いっきり両親は抱きしめた。

すると、芽衣は、両親に一言。


「着替えていくといいよ。」

「えっ、臭い?」

「臭わないけど、昨日の朝に着ていた服でしょ?服は洗って置くから、安心して。」


芽衣の言う通りに、保も愛も着替えた後、もう一度、芽衣を抱きしめた。


「また、仕事でごめんね。」

「いいよ。今日も、こうやって来てくれて嬉しかった。」

「本当に辛かったら、電話してきていいからな。」

「うん。わかったわ。」


言葉を交わして、両親を見送った。

玄関を施錠して、お風呂に入り、お風呂の残り湯で洗濯をし干して、家を見回り、再度、扉と窓の施錠をして、部屋へ戻ると、芽衣はベッドに倒れ込んだ。


芽衣は、枕の横にある令子を見ると、本当に美人だと思った。


「この子って、現実にいて、モデルだったのかな?」

「絵画って、見本があって描いているっていいますからね。」

「だったら、この装備で、この体制を崩さないって、どんな体幹をしているんだろう?」


ベッドに腰をかけて、芽衣は、自分で同じ姿勢となった。


「これ、今は、大丈夫かと思うけど、ズッとだと右首が痛くなるね。それに、前体験した装備の重量だから、結構負担がかかっていると思うよ。普段のモデルさんも、こんな風に体幹とか精神とか強いのかな?だとしたら、このモデルになった人、すごいよ。」


その言葉を聞いて、フェルメールは、複雑な顔をさせていた。

しかし、不思議だ。

ここまでの事をしておきながら、芽衣は、真珠の耳飾りの少女の作者を調べない。

調べれば、今、話をしている人物だと知れるのに。

すると、メーヘレンが考えをフェルメールに話した。


『きっと、我々のことを話してはいけないルールが効いていて、知られない為に調べさせないのでは?』

『なるほど。』


管理者は、憑く人の情報を、憑かれる人の認識を真っ白な状態で、どこまで能力の強化を出来るのか、試していると思われる。


「では、今日ももう八時だから寝るね。お休み、フェルメールさん、メーヘレンさん。」

「おやすみ、芽衣。」

「また、明日も教えてやるよ。」


芽衣は、令子を抱きながら寝た。

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