4「体験」

次の日


朝、スマートフォンの機能の中でアラームがあり、その音で起きた芽衣。

音を止めて、スマートフォンを操作して、ベッドから起き上がり、背伸びをする。

ラジオ体操に行く時間までは、後一時間ある。

起きたてのまま、脱衣場にある洗面所まで行く。

洗面所で、顔を洗い、髪を溶かすと、また部屋へと行く。

ヘアピンを頭に着けようとした時、昨日のことは夢じゃないかと思った。


「おはよう。フェルメールさん、メーヘレンさん。」


ヘアピンから声が来た。


「おはようございます、芽衣。」

「芽衣、今日は、これからどうするんだ?」


やはり、夢ではなかった。


「今日の予定は、まず、ラジオ体操をします。朝食を摂ってから、宿題をやります。午後からは、絵を描こうかと思いますので、ご指導お願いします。」


芽衣は、この二人が私の美術能力の強化をしに来たのは知っていた。

強化が出来るとなると、この二人は美術について、とても詳しい人だと思ったから、先生と認識するのが良いと思った。


『ご指導だって。』

『そんなこと出来るかな。』


フェルメールとメーヘレンは、少し微笑んだ。

芽衣は、言った通り、ラジオ体操して、朝ごはんを食べて、両親を玄関まで見送った後、施錠し、午前中の宿題に取り掛かった。

今日は、国語の文章理解と、社会の日本の県と県庁所在地の場所が終了した。


「さて、昼ご飯にしますか。」


背伸びをして、居間へと行く。

居間へ行くと、炊飯器にご飯があるのを確認する。

エプロンをして、冷蔵庫の中から、材料を出す。


「芽衣が作るのか?」


メーヘレンが訊く。


「はい、私が作ります。両親は仕事でいない時は、自分の食事位は自分で作りますよ。両親は、休日でも仕事だから、小学生の時は昼ご飯を用意してくれていたけど、もう中学生ですし、それに、私は、災害派遣チームの栄養・食生活を支援する人になりたいのです。料理出来ないと。といっても、油を大量に使う揚げ物は、まだ、両親から許可が得られないから、食べたいと思ったら、買い物に行かないとね。」


芽衣が説明をすると、将来設計をしているのに驚いた。

この現世では、このような考えの子どもが多いのかと思ったが、芽衣みたいに考えて、行動している子どもは少ないと思う。

進路を気にするには、高校受験が控えている中学三年生、いや、中学二年生の後期位で子どもが意識する年齢だろう。


きっと、悩んでいる子どもは多くいるだろう。

その為に、美術家達がこの現世へと派遣されたのだ。


料理をしている時でも、フェルメールとメーヘレンは、芽衣のことやこの町のこととか、色々な話をしていた。

芽衣にとっては、いつも静かな所での調理だったから、この様に誰かと話ながら作るのは楽しかった。


昼ご飯を食べて、少しだけ落ち着いた後、自分の部屋へ行く。

絵を描く準備の為に、鉛筆、絵具、クレヨン、色鉛筆と準備をした。

絵具とクレヨンと色鉛筆が、使用出来るかを確認する。

クレヨンと色鉛筆は使用出来るけど、絵具は固まっていた。


「絵具固まっている。」

「本当だね。」

「こうなった絵具って、使って大丈夫なのかな?」


フェルメールとメーヘレンは、復活させる方法を知っていたが、あえて。


「あー、使用出来ないよ。」

「こうなっては、綺麗な色が出せないな。」


使用できないと言った。


「そうなの?買いに行かないと。」


芽衣は、二人の助言を素直に聞いて、足りない色を紙に書き出し、出かける準備をした。

家の中を一度、異常がないか確認して、スマートフォンを操作し、マンションの扉から出て、鍵をかけて出かけた。


『やったな。メーヘレン、この時代の画材見られるよ。』

『そうですね。どんなのが売っているんだろうな。』


芽衣が向かった先は、色んな店が入っている建物だ。

その中にある、昨日説明した百円均一に寄った。

この店は、物に寄るが、ある程度の物が一つ百円で買える。

この日は、店舗改装することで、とても安く二つ百円で売っていた。

その事で、色々な物がセットで売られ、まとめて買うとお値打ちだった。


その間も、芽衣だけに聞こえる声の大きさで、フェルメールとメーヘレンは、話をしていた。

楽しがっている二人の声を訊くと、芽衣は楽しかった。


芽衣は、いくら安いからと言っても、自分が欲しい物以外は買う気がなかったが、二人が楽しんでいるのを感じると、予備という言葉を使い、真珠の耳飾りの少女に使う色を一つ多く購入した。


まだ、二人が騒いでいるから、見るだけならと言い、安い百円均一の店ではなく、本格的な画材屋にも立ち寄る。

すると、二人は、途端に静かになった。

空気が違う雰囲気で、何故か懐かしさがあると言っていた。


芽衣は価値が分からないが、この雰囲気は確かに身が引き締まる。

だが、ふと見た筆の値段を見て、一気に現実へと戻された芽衣は、店を出た。


「結構、あの雰囲気良かったな。」

「時々、来たいな。」


話をする二人に。


「私は、遠慮したいな。」


落ち着く為に、折角来たし、ショッピングを楽しむ。

色々な店を見ている。


『フェルメール様、あれ。』

『ああ、丁度良いかも。』


話をして、芽衣を誘う。


「芽衣、あの店に寄ってみて。」


フェルメールが芽衣に声を掛けて、芽衣は行動する。

そこは、指輪やイヤリングが売っている場所だった。

といっても、高価な所ではなく、中学生でも買える値段の店だ。

その中に、真珠の耳飾りの少女がしている様なイヤリングがあった。

とても大きいガラス玉だが、それでも見た目、似ていた。


「これ、着けてみてよ。」


フェルメールが、芽衣にお願いした。

芽衣は、この店は試着が出来るのを確認すると、言われるようにして着ける。


「重。」


感想だった。


「何これ、こんなに重いの?見た目と持った感じは、重さが感じなかったけど、耳たぶに着けると、こんなに重いって、ああ、耳たぶが少し下に伸びている。」


すると、真珠の耳飾りの少女が頭に浮かんだ。


「えっ、あの少女って、こんな重たいの着けているの?しかも、顔って平然としていたよ。すごいわ。」


芽衣は、とても身に着けていられないと思い、元の通りに戻してから、店を後にした。

その時、頭のターバンも気になった。


「もう一軒見てから帰るね。」


予定を言い、帽子屋へと行く。

色々な帽子があったが、ターバンも売っていた。

真珠の耳飾りの少女がしている物はなかったが、似た物を装着してみると、これも重かったし、頭が締め付けられるようだった。

フワフワしていると思っていたヒラヒラした部分は、重力によって下へと引き寄せられていた。

それを、全て支えるには、頭に固定をしなくてはいけなく、これはもう、大変だ。

ターバンを綺麗に戻して、店を出る。


真珠の耳飾りの少女の精神的と肉体的な頑丈さを知った芽衣は、家へと帰ると、早速、真珠の耳飾りの少女の写真を見た。


「あなた、すごい子だったんだね。」


興味を持ったらしく、食い入るように見ていた。

美術品をじっくり見ることも、絵を描く物には必要だから、興味を持ってくれて良かったと、二人は思った。


「それで、描き方なんだけど、下書きを鉛筆でしようと思うの。でも、その描き方が分からなくて。」


鉛筆を普段持っている持ち方ではなく、一度、鉛筆を置いて持ち上げた形で持つ様にと言うと、芽衣は、一度持って見る。

フェルメールが、優しく教える。


下書きの基礎を教えると、楽に描いていいと感じた。


「絵を描くのって、こんなに楽しんだね。」


芽衣は、真珠の耳飾りの少女の、目や頭、中心などの位置を決める線を描いた所で、疲れてしまい、今日はここまでとした。

すると、芽衣のスマートフォンが鳴った。

表示されているのは、母だった。


「はい、芽衣です。お母さん?……うん………わかったわ。大丈夫。………お母さんもお父さんも気を付けて。……はい、わかっているわ。ありがとう。」


話をして、通話を切断する。


「どうしたの?」


フェルメールが訊くと。


「お父さんとお母さん、同じ仕事しているんだけど、今日帰れないって。だから、夕ご飯自分で作るようにだって。」

「それは、それは、寂しくないの?」

「寂しいけど、今は、フェルメールさんとメーヘレンさんがいるから、大丈夫。」

「ご両親のお仕事って?」

「研究者なのだけど、あまり成果が出ていないらしいの。」

「何の研究をしているの?」

「情報漏れるのを防ぐ為に教えてくれないの。身体、心配だな。」


二人と話ながら、早速、台所へと行く。

昼はチャーハンを作ったのだが、夜は少し胃に優しい物がいいし、夏だとっても冷たい物だと、寝ている間にお腹が冷える。


「汗を流しながら、食べるのも良いよね。」


芽衣は、うどんを作った。

うどんといっても、冷凍の水なし、鍋で作るタイプので、具も入っているから、栄養バランス的には良いし、鍋のまま食べるので洗い物も少なくて済む。

鍋の取っ手を持って、熱々のうどんを身体に入れると、一気に汗が出て来る。

身体を温める為に、チューブ状のショウガも少し入れているから、尚更だ。


額から流れる汗が、頬を伝い、顎へと達して落ちる。

それを無視して、ゆっくりと食べ、本当なら汁は塩分の取りすぎになるから飲まないのだが、これだけ汗が出ていると欲しくなるから、全部飲んでしまった。


鍋を鍋敷きの上に置いて、一息つく。


「はー、おいしかった。」


用意していた水を、一気に飲むと、身体の汗が少し引いてくる。


「さて、鍋洗ってしまって、お風呂に行こう。」


お風呂は、朝、保が洗う仕事になっているから、夜はお湯を入れるだけでいい。

家での役割は、保は掃除、愛は食事、そして芽衣は、防犯だ。

いない時は、出来る人がやる。

だから、芽衣は、家を出る時には、家全ての部屋を確認してから、出るのである。


お風呂から出ると、ベッドに横になって、早速、真珠の耳飾りの少女を見る。


「この子、年、どれ位なんだろう?私と同じかな?」

「さー、どうなんでしょうね。」


フェルメールは、分からない振りをした。

この現世に下りる時の条件で、生前のことは話してはいけない。

この作品を作ったのが、自分であることも、この絵のモデルが誰なのかも教えてはいけなかった。

メーヘレンも同じだから、知っていても言えない。


「この子、本当にいる子で私の目の前にいたら、友達になれるかな?」

「芽衣なら、きっとなれると思いますよ。」

「そうだといいな。うん、勝手に設定決めよう。」


芽衣は、ベッドから出て、机に紙を用意して、椅子に座る。

紙に、真珠の耳飾りの少女の設定を書き始めた。


「少女っていう位だから、義務教育の間。うん、私と同じ年にしよう。」


ぶつぶつ言いながら、設定を書き始める。


真珠の耳飾りの少女の設定が出来た。


設定は、真珠の耳飾りの少女。

名前、真壁令子。

年齢、十二歳。

趣味、自撮り。

好きな食べ物、しじみの味噌汁。

好きな色、深緑。


「真珠の耳飾りの少女だと長いから、これからは令子ちゃんって呼ぶよ。」


その設定を見ると、フェルメールもメーヘレンも、驚いていた。


好きな色「深緑」の項である。


見た目、真珠の耳飾りの少女のバックにある色は、黒色。

だけど、少し緑も使っている。

本当に分からない程度に、緑を使っているから、気づく人は少ない。

それこそ、調べなければ分からない程度だ。

芽衣には、緑が見えたのかと思った。


フェルメールは、メーヘレンと一緒に、芽衣を鍛えるのが楽しくなっていた。


「さて、もう、八時だ。寝よう。」


一度、寝る前にトイレに行くついでに、窓やドアに施錠をしてあるか確認した。そして、スマートフォンを操作して、ベッドに横なりながら、令子を見つめて、眠りについた。

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