封印
板谷空炉
封印
手紙をパソコンで書いて印刷し、段ボールの奥底に封印し、ガムテープで閉じた。
手紙の宛先は、未来の自分。
本当は燃やしてしまいたかった。燃やしたら風と一緒に舞っていき、未来に届くかもしれないと、心の何処かで思っていたからだ。
けれど、何故か勿体無い気がした。
自分は、自己満で手紙を書くことが多い。
ある時は今回のように未来の自分、ある時は片想いの相手、ある時は幾千年後の世界へ。
いずれにしても、誰にも届かない手紙を書いて満足している。傍から見たら変な人だろう。
……いや、何をしているのか。
未来の自分への手紙なら、便箋にペンで書いて封を閉じろ。パソコンで下書きならまだ良いけれど、今までずっと最後には便箋に書いていただろう。
その方が、心も楽になったのを思い出した。
ガムテープを取り、段ボールの奥底から手紙を取り出した。
封筒を開け、見てみる。
Wordのよくある明朝体で印刷されたその文字は、見やすいけれど何処か自分の書いたものではない雰囲気があった。
そして、未来の自分へ書いたものだからこそ、とても滑稽に思えてきた。
手紙を粉々にする勢いで破り、ゴミ箱に投げ捨てた。
爽快だった。
パソコンを起動させ、未来の自分に宛てたWord文章も削除した。
最早何も感じなかった。
専用の箱から便箋と封筒を取り出し、筆入れを漁り緑色のインクのボールペンを使うことにした。
机に向かい便箋を置き、ボールペンを持つ。
スマホで動画アプリを開き、イヤホンを付け、一つの音楽をリピートにしたうえで再生した。
そして数分後には、あらゆる感情が留まるところを知らないように、まだ何も書いていない便箋に涙が滲んでいた。
つらかったね。
と、便箋に本音を書いた。
そこからはペンは止まらず、気付いた時には便箋は三枚以上になっていた。
誰にも届かない手紙。
誰にも読ませない手紙。
書いていて、何と気持ちの良いものだろうか。
その手紙の内容が明らかになるのは、また別のお話。
封印 板谷空炉 @Scallops_Itaya
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