青春
私の青春は、全て私怨に打ち込んだ。と、思っていた。中山傑、と言う男の子と出会うまでは、そう思っていた。月並みな表現だけれど、だんだんと私の心は彼に向いて行った。
「聞いてもいいかい?」
「何かな」
「何故、先はそんな莫大な金を、平和につぎ込んだんだい?」
そういえば、と思い出すほど忘れてはいなかったけれど、傑くんにこう聞かれたことがあった。真実を話すか否か、逡巡する。
「傑くんだから話すけど、本当は紛争の解決になんて使ってないんだよね」
いつも落ち着いている傑くんといえど、これには表情を動かしていた。どう言うこと。
「私、情報技術に遺産を全て使ったんだ。技術だけなら今の私は世界一」
だんだんとわかってきたのか、傑くんは怪訝そうな顔を解いていく。
「つまり、情報をいじって、紛争を解決したと」
「うん。人が争う理由は全て情報に起因するからね。情報戦という言い方もある」
「でも、なんで情報を極めようとしたのかはまだわからないね」
私は思い返す。父の死の、全てを。
「大嫌いなやつを、死ぬほど困らせるため」
一通り、傑くんとの青春を思い出す。私は『箱』を開ける。『箱』からの連絡の方が匿名性が高い。全ての準備は済んでいる。
あー。傑くん、聞こえてる?これから、私はこの世界から消える。まあ、みんなには迷惑かけちゃうかもね。でも、あいつが苦しむならいいかな。うん、それくらい嫌い。
え、いいの?いやいや、傑くんにまで迷惑をかけるわけにはいかないよ。え?うん。うん。いいかもね、それ!あはは、傑くん天才じゃん。うん。待ってて。
総理大臣である小島は裏金を引き出そうとある場所の鍵を開けようとしたが、開かない。高野は解錠の条件を自分の指紋にすり替えていた。解析により、それがわかった小島は血眼で高野を探すが、高野は見つからない。中山は『箱』からあのメッセージを送る。高野は自分の死を偽装し、名前を変えて中山と新たな人生を歩むことにした。
僕たちの住む世界はどこかずれている。何から、かはわからない。こんなところで過ごすのだ。結局人間は幸せより不幸せの方を多く感じるし、もう嫌だと消えたくなることも多い。だから僕たちは逃げることにした。
私は『ノアの箱舟』の話を思い出した。しかし、私たちの舟は定員が二人だ。これからの人生に思いを馳せる。少し微笑み、高野は『箱』、元い公衆電話ボックスから出る。集合場所は傑くんの家の庭だ。その庭に、私たちは箱舟を浮かべて。すでに私の心は、小島というちっぽけな男のことを覚えていなかった。
箱舟は箱庭に浮かべて 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます