茶番

 高野咲希がめっきり高校に登校しなくなってしまった。彼女のクラスでの人気は高く、本気で心配するクラスメイトも少なくない。高野は元貴族、といったところか。高野の母は小さい頃に交通事故で亡くなっており、高野の父は元々大きな会社の社長だった。が、病で亡くなり、遺産は全て娘の高野咲希に受け継がれた。その遺産を、すべて慈善事業や紛争の解決に注ぎ込んだと言うのだから、立派なものだ。いや、立派すぎたのかもしれない。高野は異常だった。何千億とある己の資産を、全て難民やそれらの困窮した人々につぎ込んだのだ。自分なら考えられない。小島隆こじまたかしはそう思った。しかし実際のところ、高野は高校生にしてノーベル平和賞を受賞している。一躍時の人だ。

 ここまでが、みんな知っている事実。ここからは、小島が昨日把握した真実だ。高野咲希は、すでに。それも、他殺で。昨日、誰かからの独白が届いた。要約すると、高野咲希は、自分が、自分の家の庭で殺した。自殺に見せかけて。と、言えど。犯人の目星はついていた。望遠鏡の準備もできている。高野咲希が登校しなくなったのと完全に同時に不登校になった、中山傑だ。

 しかし、中山と高野は側から見れば仲はかなり良かったと思うし、そもそも高野ほどの善人が殺されるほど恨まれるとも考えづらい。しかし、この一ヶ月間調査したところ、アリバイやロープについた指紋のから、犯人は中山しかあり得なかった。

 小島は許せなかった。あの高野を殺すなんて。絶対に中山を捕まえなくてはならない。高野が殺されるなんて、そんな茶番があっていいはずがないのだ。

 同志に言葉を伝えるため、小島は『箱』の蓋を開けた。


 明日の夜に俺の家に集まって欲しい、大事な話があるんだ。持ちろん自衛できるくらいにはしておいて。何かがあってもおかしくはないからね。なにしろ、高野は国際的なヒーローだ。そういう組織が絡んでいてもおかしくはない。


 そう言う組織、とは我ながら馬鹿馬鹿しいなと思いつつ、俺は『箱』を閉じた。

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