箱舟は箱庭に浮かべて

宇宙(非公式)

独白

 同級生を自殺に見立てて殺すことは、案外、案内要らずの簡単な作業でした。とはいえ、こうして話していることですし、そこまでうまくはいかなかったのかもしれません。あの時は興奮していましたし、何より初めての殺人でしたからね。初陣です。僕たちの犯行は警察、そこのたりはサスペンスドラマでしか情報を知り得ませんが、左右とかくプロフェッショナルの方々からしたらどうしても幼稚な物に見えてしまうのでしょう。

 僕たちの犯行は辺鄙なところにある僕の家の敷地内、さらには高い塀に囲まれた庭で行われたので、見つかるまでには時間がかかるかもしれませんね。他には、そうですね。別に、殺したからといって、彼女には恨みがあったわけじゃありません。なんなら仲はいい方だと自覚していますし、一方的に親友だと思っています。向こうもそう思っていたのでしょうか。

 まあ、思っていたらこのような状況にはなっていませんでしたか。悲しい事実ですね。あとは。まあ、この機会ですし、いやなんでもありません。これはすぐ近くまで来ている墓場まで持って行くことにします。話し始めてやめる、なんて非道なことをしてしまいましたが、ご容赦ください。

 どうか僕たちがばれませんように。それでは、亡くなった彼女に向けて追悼と祈祷を。

VALETE.


 そういって、中山傑なかやますぐるは『箱』の蓋を閉じる。『箱』に言葉を託し、中山は再度歩き出す。今日は疲れた。家に帰って、お風呂に入って、それから。中山の心は、すでに何もかもがどうでも良かった。ただ、最期に美味しい卵かけご飯が食べたいと一人思う。イヤホンで耳を閉じた。盲目的に、そして軽快に歩き出した中山の背中は、ぼやけた、特に価値のあるわけでもない、寂しい抽象画のように見えた。

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