第287話 本当に伝えたかったこと

「みんなが、幸せになれる、国……」


 エリザリーナ様に差し出された手を見て、エリザリーナ様の言葉を複勝するように呟く。

 ……今まで僕は、自分のの人たちが将来幸せに暮らしていけることだけを考えてきた。

 そのために、勉強を頑張ったり、剣の鍛錬を積んだりしてきた。

 もちろん、それがこの国のためになるという考えはあったし、できればこの国自体にも貢献していきたいと考えていたけど……

 少なくとも、僕がここまで直接的に、みんなが幸せになれるを作ろうと言われることなんて全く想像もしていなかった。


「……僕が王様になることで、本当にこの国の人たちは幸せになれるんですか?」


 そもそもの疑問を投げかけると、エリザリーナ様はすぐに頷いて。


「うん、ルクスが王様になってくれるなら、この国は間違いなく有史以来の繁栄を見せるよ……それだけは、絶対に約束してあげられる」


 僕自身はとてもそうは思えないけど、エリザリーナ様はご本人でも仰られていた通りとても賢い方だ。

 きっと、僕には見えない景色が、この人には見えているんだろう。

 それでも……僕は、今まで自らの領地を繁栄させたいと思ってきたから、国の繁栄と言われても現実感が無くて。

 思わず、その手を取るべきか悩んでしま────と思っていると。


「な〜んてね!」

「……え?」


 エリザリーナ様は、差し出していた右手を自らの後ろに戻した。


「エ、エリザリーナ様……?」


 僕がそのエリザリーナ様の行動に困惑していると、エリザリーナ様は体を前のめりにして言った。


「ルクス、今ので悩んでたらダメだよ?婚約は、他のみんなが幸せになれるかどうかじゃなくて、自分が幸せになるためにするものなんだから、まずは自分の気持ちを優先して考えないと!」

「っ……!」

「ちょっと意地悪だったかもしれないけど、そのことはちゃんとルクスにわかって欲しかったの」


 ……確かに、そうだ。

 もちろん、みんなが幸せになれるというのはとても大切なことだけど、婚約をする上で一番大切なのは気持ち。

 その気持ちを度外視して、僕のことを好きだと仰ってくださっているエリザリーナ様の手を取ることほど、失礼なことはない。

 僕が、エリザリーナ様のおかげでそのことを再認識できていると。

 エリザリーナ様は、続けて。


「それで、私はルクスがそのことを理解してくれた上で、純粋に私の愛に応えて欲しいの……それで、私の愛に応えてくれたルクスのことをいっぱい愛してあげて、愛し合って、幸せにしてあげて、私もルクスと一緒に幸せになりたい────これが、私が今日本当に伝えたかったことだよ」


 そう言うと────


「っ!?」


 エリザリーナ様は、僕のことを優しく抱きしめてきた。

 その瞬間、とても良い香りが香ってくる。


「エ、エリザリ────」

「今すぐに答えを出すのは難しいと思うから、今はまだルクスに抱きしめ返してもらうことはできないと思うけど……いつか、私はルクスにも愛を持って私のことを抱きしめ返して欲しくて、ルクスと抱きしめ合いたい────大好きだよ、ルクス」


 とても愛情の込められた声で仰ってくださったエリザリーナ様。

 ……あのエリザリーナ様に、抱きしめられている。

 だけでなく、他にも香りとか、色々な感触とかを感じていたり。

 フローレンスさんとフェリシアーナ様に続いて、エリザリーナ様との婚約についても今後考えていかないといけないということで、本来であればもっと緊張したり頭の中が大変になったりしているはず────だけど。


「……」


 エリザリーナ様の愛情の温かさに、今の僕は……他のことを全て忘れて、ただただそのエリザリーナ様の温かさだけを感じていた。

 ────エリザリーナ様が僕のことを本当に大好きで居てくれているんだということが、その温もりからよく伝わってきた。



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