第285話 大好き

「……え?」


 今……目の前にいらっしゃるお方。

 この国の第二王女エリザリーナ様は、僕に対してなんと仰ったんだ?

 初めて、予測不能で。

 初めて、大好きになった男の子。

 ────ルクス・ロッドエルくん……私と、婚約してくれないかな?


「っ!?」


 一度聞いただけでは言葉がすんなりと耳に入らなかったけど。

 頭の中で、今一度その言葉を思い返すことで、僕はその言葉の意味を理解する事ができて。

 少し間を空けた今になって、衝撃が走ってきた。

 そして、その衝撃を言葉にするよう口を開いて言う。


「ぼ、僕とエリザリーナ様が、婚約!?というのは、どういう意味なんでしょうか!?それとも、僕が理解できていないだけで、そのお言葉には、何か別の大きな意味や意図のようなものが隠されているんでしょうか……?」


 そうでもないと、あのエリザリーナ様の口から僕と婚約なんていう言葉が出てくるはずがない。

 そう考えて聞いてみるも。

 エリザリーナ様は変わらず、僕に愛情の込められた笑顔と温かい眼差しを向けながら。


「ううん、そのままの意味だよ……私はルクスのことが大好き、大好きで大好きで堪らないの」

「だ、大、好……!?」

「うん、大好きだよ、ルクス」

「っ……!」


 あ、あのエリザリーナ様が、僕のことをだ……大好、大好き?

 フローレンスさんやフェリシアーナ様にも、愛のお言葉を頂くことはあったけど……

 大好きなんて言い方をされたのは初めてだったため、僕は恥ずかしくなって思わず顔に熱を帯びさせてしまう。

 そして、顔に熱を帯びさせながらも、僕にはまだまだ疑問があったため口を開いて言う。


「ま……待ってください、先ほど、エリザリーナ様は僕にこ……婚約のお言葉を送ってくださる際、初めて予測不能な男の子、と仰っていましたよね」

「そうだね、あと、初めて大好きになった男の子とも言ったよ」

「そ……!」


 何度言われても、こんなに綺麗な人から大好きと言われることなんて慣れず……

 僕は思わず言葉を詰まらせてしまったけど、続けて口を開いて言った。


「その予測不能な男の子というのが、先ほどエリザリーナ様からお話し頂いた男の人と同一人物なんだとしたら、先ほどの話の男の人は、僕だったということなんですか?」

「その通りだよ」


 微笑んで答えるエリザリーナ様。

 ……頭の中が、信じられないほどに混乱しているけど、僕はそんな中でもどうにか言葉を捻り出して言う。


「でも、僕は、貴族学校で行われた学力試験や剣術大会ではともに二位で、それ以外は特に何か目立った実績があるわけでも無いので、とてもじゃないですけどエリザリーナ様の予測不能な人なんて存在ではありません」


 むしろ、そういう意味で言えば、エリザリーナ様のご姉妹であるフェリシアーナ様やレザミリアーナ様。

 他には、フローレンスさんとかの方が相応しいはずだ。

 そう思った僕だったけど、エリザリーナ様は首を横に振って優しい声色で言う。


「私が予測不能って言ったのは、そういう目に見えるものじゃなくて、心とか精神性とかそういう部分で────私は、ルクスのそういうところが大好きなの」

「っ……!」


 あのエリザリーナ様が僕のことを好きだなんて、あるはずがないと思って色々と言ってしまったけど……

 このエリザリーナ様の愛情の込められた笑顔と、温かい眼差しが偽りであるはずがない。

 僕は、ようやく少し落ち着くと、口を開いて言った。


「ごめんなさい、エリザリーナ様……一度エリザリーナ様が僕と婚約したいと仰ってくださっているのに、何度もそのお言葉の真意を問うようなことを言ってしまいました」

「第二王女からいきなりこんなこと言われたら、取り乱して当たり前だよ……だから、ルクスは何も悪くないよ」

「あ、ありがとうございます……」


 エリザリーナ様のお優しさに感謝の言葉を伝える。

 ようやく、本当に少しだけ、落ち着きを取り戻せてきた。

 そして、ようやくエリザリーナ様のお言葉をしっかりと頭に入れることができた。

 あのエリザリーナ様が、僕と────と思いかけた時。

 僕は、あることを思い出したため、そのことを口にする。


「っ!?ま、待ってください!!エリザリーナ様が婚約したい相手が僕ということは、今日の催し事で仰られていたというのは……」

「あぁ、うん!」


 続けて、エリザリーナ様は僕の左手を自らの両手で優しく握ると、迷いの無い声で言った。


「私は、ルクスのことを、この国のにしたいって思ってるの!」



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