第284話 第二王女のプロポーズ

◇ルクスside◇

 エリザリーナ様が、ずっと僕に伝えたかったこと……?

 ……それがどんなことなのか。

 全く見当がつかないけど、エリザリーナ様が僕に伝えたいことがあると仰ってくださるなら。


「わかりました、お聞きします」


 僕がそう答えると────


「ありがとう、ルクス」


 エリザリーナ様は、優しい表情でそう言った。

 そして、続けて口を開いて。


「だけど、それを伝える前に、ちょっとだけ私の昔話みたいなことしても良いかな?」

「エリザリーナ様の、昔話ですか!?是非お聞きしたいです!!」

「そんなに面白い話じゃ無いから、あんまり期待しないでね?」


 小さく笑いながら言ったエリザリーナ様は、過去を懐かしむような目で続ける。


「ルクスも知ってると思うけど、私って昔からすごく賢かったんだよね」


 そのエリザリーナ様の言葉に、僕は静かに頷く。

 エリザリーナ様がすごく賢いお方だという話は、僕がエリザリーナ様にお会いする前から知っていたことで、この国ではとても有名な話だ。


「子供の頃から、周りの大人はもちろん、過去類を見ないほど優秀だって騒がれてきた私たち三人の姉妹の中でも、純粋な頭の良さだけだったら私が一番だったと思う」


 フェリシアーナ様やレザミリアーナ様と直接お会いして、お話しさせていただいたことがあるからこそ。

 あのお二人よりも純粋な頭の良さだけなら賢いという言葉の持つ意味が、よく伝わってくる。


「で、そんな私は、私が生まれた頃は貴族同士の争いとかで無駄に荒れてた国内の状態を、話術とか心理誘導とかを勉強して、もちろん例外とかはあるけど……それでも、ほとんど調停することができたの」

「……何度お聞きしても、すごいお話ですね」

「ありがと!……でも、その代償は大きかったよ」

「……代償、ですか?」


 僕が聞き返すと、エリザリーナ様は頷いて。


「うん……私が一通りこの国の調私を終えた頃には、大半の人間の心を読むどころか、心理誘導もほとんど完璧にできるようになってた────想像できるかな?相手が何を言ってもそれは全部予測の範囲内で、相手の心を自由に誘導できて、王族の生まれで賢くて容姿も良かったから、全てが自分の思い通り……そんな世界」

「言葉の意味は理解できますけど……僕なんかには、とても鮮明に想像することはできません────ただ、その世界は……とても、寂しそうです」


 僕がそう言うと、エリザリーナ様は小さく目を見開いてから言った。


「そっか……私は退屈だって思ってたけど、寂しかったのかな……うん、そうだね、私はきっと長い間寂しかったんだよ」


 だから、と続けて。


「私は物語に出てくる王子様みたいな男の子と出会えるのを、ただ心の中で願ってた────そんなある時……私の目の前に、予測不能な男の子が現れたの」

「予測不能な、男の子……」


 僕がそう呟くと、エリザリーナ様は優しい表情で僕の方を見て。


「うん、その男の子は私がどれだけ話術を駆使しても、心理誘導を利用しても、容姿を駆使して自分を可愛く見せたりしても全然私の思い通りにはなってくれない……しかも、私には眩しいぐらいに純真で、優しくて、カッコいい男の子────その男の子と出会ってから、私はもう、物語に出てくる王子様みたいな男の子と出会いたいなんて思わなくなった」


 エリザリーナ様は、さらに続けて優しく微笑んで。


「────私は、そんな王子様よりも素敵なその男の子と出会えたから」


 僕が思わず聞き入ってしまっていると、エリザリーナ様は切り替えるように目を閉じて言った。


「長々と話しちゃったけど、これで私の昔話はおしまい……だから今から、私がルクスに伝えたいことを伝えるね」


 そう言ったエリザリーナ様は、再度目を開くと。

 頬を赤く染めて愛情の込められた笑顔になると、自らの胸元に手を当てて、今までに無いほど温かい眼差しを僕に向けながら言った。


「私にとって初めて予測不能で、初めて大好きになった男の子────ルクス・ロッドエルくん……私と、婚約してくれないかな?」



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