第283話 ずっと
◇シアナside◇
「……ルクスくんが、エリザリーナ姉様と二人で歩き出したわよ」
「そのようですね」
エリザリーナが、婚約を希望する男性が現れたこと。
そして、この場が次代の王の誕生を前がけて祝う場でもあることを発表した後も、会場を見張り続けていたシアナとバイオレットがそう言葉を交わす。
「当然今からあの二人の後を追うけれど、もしエリザリーナ姉様が本当にルクスくんのことを宿に連れ込もうとでもしたら、その時は事前に話した通りエリザリーナ姉様のことを斬り伏せ────」
「事前に話していたのは身柄を拘束するという話です」
シアナの言葉を遮って言ったバイオレットは、続けて。
「もしお嬢様が本気でそのような行動を取られようとした場合、私はエリザリーナ様のことではなくお嬢様の身を拘束しなければいけなくなりますので、どうかお控えください」
「……はぁ、わかったわよ」
納得はしていないという様子だったが、一応は頷いたシアナ。
バイオレットからすれば、シアナからその反応を得られれば特に満足なのか、シアナのその反応に対して特に不満は抱いていない様子だ。
その後、二人はエリザリーナの主催した催し事の会場から出て、足を進めるルクスとエリザリーナの後を姿が見つからないように追う。
途中まではそれも順調だった……が。
「っ……」
やがて、街を見渡せる開けた場所にやって来ると、周りには建物どころか身を隠せる木なども無くなった。
ルクスとエリザリーナは少し先を行ったところで足を止めたようだったが、ここからでは二人の話しを聞くことができない。
「おそらく、私たちがロッドエル様についている可能性も計算して、絶対に会話を盗み聞きされないようにこの地を選んだのでしょう」
「……相変わらず、どこまでも苛立たせて来るわね」
かと言って、ルクスに危害が加えられるような気配でも無い限りは、ここから飛び出していくわけにもいかない。
ここから飛び出せば、そもそもどうしてシアナがこんなところに居るのかということを、ルクスに説明しなければいけなくなるからだ。
これが王族主催の催し事であれば、フェリシアーナから招待状をもらったと自演で嘘を吐くこともできるが……
今回はエリザリーナ主催であるため、エリザリーナ本人にシアナのことを招待した覚えはないと言われてしまえば、それだけでシアナがその場において不審な存在となってしまう。
「ルクスくん……」
もはや、シアナとバイオレットの二人には、万が一に備えてここでルクスのことを静かに見守ることしかできなかった。
◇エリザリーナside◇
「うん!ここかな!」
王城も含めた街全体を見渡せる場所まで来たエリザリーナは、足を止めるとそこから見える景色を見渡しながら明るく言った。
すると、同じくエリザリーナの後ろをついてきていたルクスも足を止めて。
先ほどまでは緊張している面持ちをしていたルクスだったが、ここから見える景色を見たことで緊張が薄らいだのか。
少しだけ、表情を緩めて言った。
「街全体が見渡せて、とても良い景色ですね」
そんなルクスの言葉に頷いて、エリザリーナは口を開いて言う。
「ね〜!私もここからの景色好きなんだ〜!」
このまま、ルクスとこの景色についての感想を楽しく語り合う。
それだけでも、エリザリーナにとっては間違いなくとても楽しい思い出の時間になる。
そして、エリザリーナは楽しい思い出というのも重要なものだと考えている……が。
今日のエリザリーナは、ルクスとの楽しい思い出を作りに来たわけではない。
今日のエリザリーナは、ルクスと幸せな未来を生きるために、この場までやって来ている。
「……」
そのため、視線を景色からルクスの方に移して言った。
「ねぇ、ルクス……ルクスのことをここに呼んだのは、話したいことがあるからってさっき言ったよね?」
「はい、仰られていました」
エリザリーナの言葉を聞いたルクスは、景色から視線を外してエリザリーナの方に目を送ってそう返事をした。
すると、エリザリーナは補足するように言う。
「正確には、話したいことっていうよりも、今日はルクスに伝えたいことがあったんだよね」
「僕に伝えたいこと……ですか?」
何も包み隠さず困惑の色を顔に出して聞いてきたルクスに対し頷くと、エリザリーナは優しく微笑んで言った。
「うん、聞いてくれるかな?私がずっと、ずっとずっと────ルクスに伝えたかったことを」
◇
いつもこの物語を読み、いいねや応援コメントなどをくださり本当にありがとうございます!
是非、今後もこの物語をお楽しみいただけると幸いです!
◇
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