第280話 祝祭の場

◇ルクスside◇

「エ、エリザリーナ様が、婚約……!?」


 エリザリーナ様が衝撃的な発表をした後。

 僕は思わず驚きの声を漏らしてしまったけど、驚いているのは僕だけではなく────


「あのエリザリーナ様が!?」

「婚約をご希望なされる……!?」

「本当なら、歴史に関わる大事だぞ……!」


 この場全体が、一気に騒然とした雰囲気になっていた。

 ……けど。


「婚約を希望するっていう口ぶりからして、まだ婚約するって決まったわけじゃ無いみたいだけど……まさか、あのエリザリーナ様にそんな男性が現れるなんてね」


 隣に居るアシュエルさんは、フローレンスさんと肩が並ぶと言えるほどの生まれや実力を持っているからか。

 驚きはしているようだけど、慌てている様子はなかった。

 僕は口を開いて、そんなアシュエルさんに聞く。


「今まで、エリザリーナ様にそういう男性は居なかったんですよね?」

「うん、エリザリーナ様はその容姿とこの国を調停してるっていう立場もあって今まで何回も縁談の話をもらってたらしいけど、全部断ってたみたい……だけど、今回はさっきも言った通り、希望するって言い方だから、多分相手からじゃなくて、エリザリーナ様の方から婚約したいって思ってるんだと思う」

「エリザリーナ様から……」


 エリザリーナ様は、とても優しくて、明るくて、接しやすくて。

 綺麗で、賢くて、一つの国を調停なんてしているすごい人だ。

 そんな人が婚約をしたいと思う男性なんて、僕には想像もできないけど、一体どんな人なんだろう。

 僕がそう思っていると、エリザリーナ様がちょうど僕が今思っていたことを口にした。


「今の発表を聞いて、皆様が一番最初に気になることは、やはりその相手が誰なのかということだと思いますが────まだ、そのお相手の男性と婚約してもらえると決まったわけでは無いので、それは秘密です!」


 そのエリザリーナ様の言葉を聞いて、会場はまたも騒然とした雰囲気に包まれ────そうになったところで、エリザリーナ様が大きな声で言う。


「ここで!皆様はさらにこう思われたと思います!婚約相手も発表できず、婚約すら決まっていない何もかもが不透明な状態でこんな発表をしても意味があるのかと!」


 しかし!と続けて。


「このことには、大いに意味があるのです!」


 意味……?

 僕がエリザリーナ様の言葉の意味がわからないでいると、エリザリーナ様は続けて身振り手振りをつけながら会場全体を見渡しながら言った。


「皆様もご存知の通り、私を含めたこの国の三人の王女、第一王女レザミリアーナ、第二王女エリザリーナ、第三王女フェリシアーナには、これまで婚約者どころか婚約をしたいと思える相手すら現れませんでした!」


 一応、フェリシアーナ様は僕と婚約したいと仰ってくださったけど。

 僕もフェリシアーナ様も口外はしていないため、公的に見れば今エリザリーナ様が仰られた通りだ。


「ですが、その三人の王女のうちの一人である私に、婚約を希望する男性が現れました!これが何を意味するのか────それは、次代の王の誕生です!」

「っ……!」


 次代の王の、誕生……!

 エリザリーナ様がそう言った瞬間、会場全体に衝撃が走ったことを感じた。

 エリザリーナ様は、さらに続けて。


「もし私が彼の男性と婚約すれば、我が父である現国王が亡くなった後、この国の玉座に君臨するのがその男性になります!つまり今回の催し事は、単に私が婚約を希望する男性が現れたことを発表し、それを祝う場────というだけでなく、次代の王の誕生を祝う場なのです!」


 なので皆様!と、言葉に勢いを付けて。


「この場で今から、私が婚約を希望する男性が現れたこと!そして次代の王の誕生に向けて!盛大に祝ってください!!そして次代の王が誕生した曉には、私も含めた皆様でその王を、私の愛している男性を支え!本国の未来をより明るく照らす手伝いをお願いします!!以上が、今回の催し事を開くに至った経緯です!!ご静聴いただき、ありがとうございました!!」


 エリザリーナ様がそう言って頭を下げた次の瞬間────会場は、凄まじい歓声と拍手によって埋め尽くされた。

 ……接しやすい方だから、普段一緒に話していると思わず忘れてしまいそうになるけど、僕は今、改めて実感した。

 これだけの人たちの心を掴み、動かすことのできる、この国を調停している人。

 ────その人こそが、あの人……第二王女エリザリーナ様。

 そんなエリザリーナ様のお話の内容や凄さに感動した僕は、この場の人たちと一緒に、エリザリーナ様に向けて拍手を送った。

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