第279話 発表
◇シアナside◇
────数刻前。
ルクスがエリザリーナの行う催し事の会場に着いた頃。
シアナとバイオレットも、その会場を見渡すことのできる場所に身を潜めていた。
「人を集めているとは思っていたけれど、こんなに大勢集めていたなんてね……わかったいたことだけれど、こうして実際に見てみると壮観だわ」
「そうですね……このことも調べはついていましたが、一見したところ、この場に居るのは公爵や侯爵の方がほとんどのようです」
公爵や侯爵でない貴族も少しは居るが、その数は公爵や侯爵の数に比べればごく少数。
「……本当に、こんなに貴族を集めて、エリザリーナ姉様は一体何をするつもりなのかしら」
直前に催し事の会場を見ても尚、その目的が全くわからない。
そんなことを考えていると────
「っ……!」
テーブル前に移動したルクスと、ちょうどその場に居た金髪の少女、アシュエルが話し始めた。
「あの女……確か、剣術大会準決勝第一試合でフローレンスと剣を交えていた剣術大会準々優勝者で、アシュエル公爵家の令嬢、ノーラ・アシュエルだったわね」
「はい」
「あんなに笑顔で、ルクスくんと楽しそうに……」
今すぐにでも独占欲が溢れて飛び出してしまいそうになるシアナだったが……
招待状を渡されていないシアナが今会場に飛び出せばどうなってしまうかわからず、ロッドエル伯爵家のメイドがそんなことをしたとなればルクスにも迷惑をかけてしまうため、どうにかその独占欲を自制する。
そして、ルクスとアシュエルが二人で話しているところを見たシアナは、その光景を見るだけで何もできないことに苛立ちを覚えながら言った。
「……あなた、前にアシュエルはルクスくんに恋愛感情を抱いてる訳じゃなくて、純粋な応援者と認識して良いと思うと言っていなかったかしら」
「はい、現段階の所感として以前にそうお伝えさせていただき、今でもアシュエルさんはロッドエル様に恋愛感情を抱いているのではなく、純粋な応援者として、そして学友として認識しております」
「私から見れば、大分怪しく見えるけれど?」
「それは、お嬢様が今、ロッドエル様とお話しをしたくてもできないという状況下にいらっしゃり、アシュエル様に嫉妬なされ────」
「もう良いわ!そんなことよりも、今はエリザリーナ様のことよ!あなたも、そんな下らないことを考えている暇があったら、少しでもこの場の動向に気を配りなさい!」
「かしこまりました」
図星を突かれたことを隠すように言ったシアナの言葉に対し。
バイオレットは長年の付き合いでこんなことは慣れているため、特に動揺した様子もなく、言われた通りに場の動向に目を向ける。
それから少しした頃。
先ほどまで騒がしかった会場が、静まり返ったかと思えば────
「お嬢様」
「……えぇ」
会場の目の前にある大きな屋敷。
その二階のテラスから、エリザリーナが姿を見せた。
そして、エリザリーナは会場全体を見渡すと、口を開いて明るい声で言う。
「皆様!本日は私、第二王女エリザリーナの主催する催し事にご参加くださり、ありがとうございます!早速、これより催し事を始めさせて頂こうと思いますので、よろしくお願いします!」
そう言ってエリザリーナが頭を下げると、会場中は拍手で埋まった。
これが、この催し事の始まりの合図。
────エリザリーナ姉様……これから何をするつもりなのか、見せてもらうわよ。
とシアナが思っていると……
頭を上げたエリザリーナが、大きな声で言った。
「今日まで、この催し事で何をするのかは伏せてきましたが、実は!今日は皆様に、一つの大きな発表をさせて頂こうと思っています!」
「……発表?」
思わず、口から疑問の声を漏らしてしまうシアナ。
「引っ張っても仕方無いので、早速その発表をさせていただきます!」
「一体、何を────っ!」
────まさか……!
シアナが、今からエリザリーナが発表することに見当がついたのも束の間。
エリザリーナは、続けて大きな声で、大々的に言った。
「私、第二王女エリザリーナは、婚約を希望する男性が現れたことを、ここに発表致します!!」
その言葉を聞いたシアナは、その視界の先にエリザリーナのことを捉えて、怒りを露わにした声を上げた。
「やってくれたわね、エリザリーナ姉様……!」
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