第278話 開幕
「っ……!ここが、エリザリーナ様の行う催し事の会場……!」
馬車から降りてその光景を目にした僕は、思わず声を力ませてそう言った。
催し事は、大きな屋敷の大きな庭でするようで。
そこにはたくさんのテーブルが置かれていて、テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。
だけど、それ以上に僕が驚いたのは……
それぞれのテーブルを囲むように立って話している人たちのほとんどが、公爵の人だということだ。
「ど、どうしよう……!」
とても肩身が狭い……そ、そうだ!
「エリナさんのことを探そう……!」
と思い、辺りを見渡してみるけど……
予想以上に人が多くて、誰か一人をすぐに探し出すのは難しそうだ。
とりあえず、こんなところにずっと立っていても誰かの邪魔になってしまうだろうから、僕も他の人たちと同じようにどこかのテーブル前に移動しよう。
相変わらず肩身の狭さを感じながらも足を進めると、僕はテーブル前まで移動してきた。
────その時。
「あれ、ロッドエルくん?」
隣から僕の名前を呼ばれたため、ふと隣を見てみると……僕の隣には。
同じ貴族学校の生徒であり。
剣術大会ではフローレンスさんと剣を交わし、僕の剣を褒めてくれた、綺麗な金髪を伸ばしているノーラ・アシュエルさんの姿があった。
「ア、アシュエルさん!?」
僕がそのことに驚いていると、アシュエルさんが明るい笑顔で言った。
「やっぱり!ロッドエルくんも、エリザリーナ様の催し事に招待されたの?」
「い、一応そう……ですけど、正直僕なんかが居ても良い場所なのかどうか、周りの人たちを見ると少し不安に────」
「ロッドエルくんは剣術大会準優勝、ううん!私の中では優勝だったんだから、エリザリーナ様の催し事に呼ばれるのに相応しいに決まってるよ!」
「そ、そうなんでしょうか……」
私の中では、優勝……?
……よくわからないところはあるけど────
「何にしても、知り合いのアシュエルさんが居てくださって、とても安心しました!声をかけてくださって、ありがとうございます!」
「っ!ロ、ロッドエルくんっ……!!」
僕が思わず笑顔になって伝えると、アシュエルさんは何故か感激した様子で僕の名前を呼んだ。
……そういえば。
「どうして、剣術大会優勝者のフローレンスさんはこの催し事に招待されてないんでしょうか?」
僕やアシュエルさんが招待されているならフローレンスさんも招待されていておかしくないと思うけど、前にフローレンスさんは自分に声はかかっていないと言っていた。
そして、僕が見つけれていないだけかもしれないけど、今のところこの会場にフローレンスさんの姿は見えない。
そのことを不思議に思ってそう聞くと、アシュエルさんが言った。
「エリザリーナ様は慧眼だから、フローレンスなんかよりもアシュエル公爵家の私、ノーラ・アシュエルの方が優秀だって気付いたんじゃないかな?もちろん、ロッドエルくんのことも、優秀だって気付いたんだと思うよ!」
多分、そういうことでは無いと思うんだけど……
でも、何か理由はあるはず────と思っていると。
先ほどまで各々で話をしていたこの会場に居る人たちが急に静かになって、目の前にある屋敷の方を見つめていたため、僕とアシュエルさんもその方向を向くと────
「っ……!」
その二階のテラスには、エリザリーナ様の姿があった。
そして、周りから、老若男女問わず小さな声が聞こえてくる。
「エリザリーナ様だ……」
「何とお美しい……」
「可憐な女性だ……」
「綺麗……」
それぞれが、思わずエリザリーナ様の容姿に目を奪われているといった様子の中。
エリザリーナ様はそんな視線に慣れているのか、特に気にした様子もなくこの会場を見渡し────一瞬僕と目が合うと、僕に微笑みかけてくれた。
そして、全体を見渡し終えると、口を開いて明るい声で言った。
「皆様!本日は私、第二王女エリザリーナの主催する催し事にご参加くださり、ありがとうございます!早速、これより催し事を始めさせて頂こうと思いますので、よろしくお願いします!」
そう言ってエリザリーナ様が僕たちの方に頭を下げたことによって、会場が拍手で埋まったことを合図に────この催し事は、幕を切られた。
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