第277話 催し事当日

◇シアナside◇

「あなたに聞いたことを、ルクスくんに確認してみたけれど……どうやら、本当にルクスくんはエリザリーナ姉様が今日催すという催し事に招待されたようね」


 ────昨日の夜、シアナが買い出しに行っていた時。

 ルクスの部屋でルクスとエリザリーナの間で交わされていた会話を、バイオレットは聞いており。

 エリザリーナが帰った後で、バイオレットはその会話の要点をシアナに伝えた。

 そして、翌日の朝となった今……その真偽を、シアナがルクスに確認したところ。

 会話だけでなく、直接招待状もこの目で見たため、シアナは本当にルクスがエリザリーナの主催する催し事に招待されたのだと判断したということだ。


「ルクスくんと結ばれるために行うことなら、当然ルクスくんも巻き込んでくるとは思っていたけれど……」

「催し事の前日という、こちらにとって好奇と思われた日程を逆に利用され、こちらが不意を突かれる形となってしまいましたね」

「えぇ……」


 仮に、エリザリーナがルクスのことを招待したのが数日前であったなら……

 シアナが第三王女の権限を使って、エリザリーナの催し事よりも重要だと思えるような事を作り、ルクスのことをそちらに誘導すれば良いだけ。

 だったが、前日……今となっては当日になってしまったため、裏で細工をしてルクスを催し事に参加させないのは極めて難しく。

 かと言って、メイドのシアナとして「本日エリザリーナ様が行われるという催し事には、参加しないでください!」と言うのも不自然であるため、ルクスのことを催し事に参加させないのは、不可能と言っても良い状況だった。


「こうなると、私たちにできることはかなり限られてくるわね」


 そう前置きを置くと、シアナはバイオレットに向けて言った。


「ひとまず、今日一日は私とあなたの二人でルクスくんに付いて、何が起きてもルクスくんを守れるようにするわよ」

「かしこまりました」


 エリザリーナは、ラーゲ一派のような存在と違って、ルクスを嫌っているわけではない。

 どころか、むしろ好いているため、物理的な危害を加えたりはしないだろう……が。


「────特に、エリザリーナ姉様がルクスくんのことを宿にでも連れ込もうとしていたら、即刻処罰するわ」


 愛故に、物理的な危害とは別の形でルクスを侵害してこようとしてくる可能性はある、とシアナは考えており。

 実際、昨日はもしシアナもバイオレットも屋敷に居なければ、エリザリーナがルクスとどんなことをしていた可能性もあった。

 そんな昨日の今日であるため、そのことを強調すると、バイオレットは少し間を空けてから言った。


「処罰、は今後のことも考えるとあまり賢い手では無いかと思われますが……もしそういったことになった場合は、私が身柄の拘束をさせて頂こうと思います」

「ルクスくんを宿に連れ込もうとするなんて、本当ならすぐにでも斬り伏せたいところだけれど……仕方ないわね」


 そこでやり取りを終えると、そろそろルクスが屋敷から出ると言っていた時間になったため、シアナは自室を出てルクスの見送りに向かった。



◇ルクスside◇

 昨日エリナさんから頂いた、第二王女エリザリーナ様が主催で行うという催し事の招待状に書かれていた時間が近づいて来たため。

 僕がその催し事の行われる会場に向かうべく、屋敷の前にある馬車前までやって来ると────僕のことを出迎えに来てくれたシアナが、僕に話しかけてきた。


「ご主人様、本日はエリザリーナ様が主催される催し事にご参加なされるということですが……催し事が終わったら、すぐに帰って来られるのですか?」

「うん、もちろんだよ……あまり遅くなって、シアナのことを心配させたく無いからね」

「っ……!お気遣いいただきありがとうございます、ご主人様……!では、行ってらっしゃいませ!」


 短いやり取りの末に、頭を下げていつも通り元気にそう言ってくれたシアナのことを微笑ましく思いながら……

 目の前にある馬車に乗ると、エリザリーナ様の主催する催し事の行われる会場へと向かった。

 僕はあくまでも一参加者で、エリザリーナ様とお話しできる機会なんてあるかわからないけど……それでも。

 あのエリザリーナ様とまたお会いできるかもしれないと思うと、今からとても楽しみだった。

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