第276話 不可思議

 王城に帰宅したエリザリーナは、自分が王城に居るとフェリシアーナたちに思い込ませるために配備していた兵士たちを帰らせた。

 そして、今日はもう公務を終えているため真っ直ぐ自らの部屋に戻るべく、王城の廊下を歩いていると……


「あ、レザミリアーナお姉様〜!」


 前方からレザミリアーナが歩いて来たため、エリザリーナは駆け寄って声をかける。

 すると、レザミリアーナは足を止め、エリザリーナの方を向いて言った。


「エリザリーナ、帰っていたのか」

「うん!ついさっきね!」


 それから、レザミリアーナは少し間を空けて。


「そういえば、お前は明日に何か催し事を開く予定らしいが……今日この時間まで遅くなったこと、そして先ほどまでこの王城内に兵士を通常よりも多く、そして不自然な形で配備していたことはその催し事と関係があるのか?」

「そんなところかな〜」

「そうか……そして、今まで大勢を集めた催し事など自ら開くような性格では無かったお前が、自ら催し事を開こうと考えたのは────やはり、お前が婚約したいと思う男性が理由か?」

「あれ、私に婚約したい男が居るってことも知ってるんだ〜」


 どうして知っているのか。

 理由に予想はついているが、いつもの調子でそう言うと、レザミリアーナは頷いて言った。


「あぁ、お父様が私に婚約者についての話をして来たときに聞いた」


 予想通りの返答。

 だが、レザミリアーナにそのことがバレているところで特に何も懸念すべき事は無い。


「そうなんだ〜!じゃあ私も答えてあげるけど、正解だよ!今回私がこんな催し事を開いたのは、私が婚約したいと思う男の子と結ばれるため」

「そうか……それにしても、不可思議なものだな」

「不可思議?」


 続けて、レザミリアーナは王城の窓から見える、月の光に照らされた街並みに視線を移して。


「今まで、男性……それも、婚約したいと思える男性など全く見つかる気配も無かった私たちが、同時期にそんな男性と出会ったことだ」

「確かにそうだね〜!ていうか、本当に今でもあのレザミリアーナお姉様が好きになった男が居るなんて、私全然想像できないんだけど!」


 これは、エリザリーナの本心から出た言葉だ。

 もし仮に、今この場で、レザミリアーナの口から「実は嘘だ」と言われても素直に信じられる。

 というのは、今までレザミリアーナからその男性に対する強い想いを聞かされているため大袈裟かもしれないが……

 そのぐらい。

 エリザリーナには、レザミリアーナが誰か一人の男性に恋愛感情を抱くということが想像できなかった。

 そんなエリザリーナの言葉を聞いたレザミリアーナは、エリザリーナの方に視線を戻すと、少し口角を上げて言う。


「エリザリーナがそう思うのも無理は無い……私自身、まだ男性に恋心を抱いている自分というものに、慣れていない節もある────が、彼を愛していること……これだけは、確かなものとして私の中に存在している」


 そう発言したレザミリアーナの言葉には、まさしく愛が込められており。

 その愛は、以前レザミリアーナがエリザリーナの前でその相手の男性について語った時よりも、エリザリーナには強くなっているように感じられた。

 そして、エリザリーナは優しい表情で言う。


「そういうことなら、レザミリアーナお姉様の気持ちが実るように、私は応援してるよ」

「あぁ、私も、お前の恋路を応援している……何か困り事があれば、いつでも相談してくれ」

「うん!レザミリアーナお姉様もね!」


 それから、二人は互いのことを優しい表情で見合ったが……

 少ししてから、レザミリアーナが、エリザリーナの顔から下に視線を逸らして言った。


「ところで……正装では無いにも関わらず、胸元の開けたその服は何だ?」

「あぁ、実はさっきまで、私が婚約したいっていう男の子に会いに行ってたから、こういう格好してるんだよね」

「婚約したい、男性に……しかし、そんな胸元の開けた服を着ていては、軽薄だと思われ印象が悪くなってしまうのではないか?」

「わかってないね〜!男に異性として見て欲しいとか、可愛い!綺麗!とかって思って欲しいなら、こういうこともしていかないと!」

「そういう、ものなのか……?」

「そういうものなの!レザミリアーナお姉様もスタイル良いし、良い感じになると思うよ!せっかくだから、今からちょっと服選んであげる!」

「ま、待て、私は────」


 それから、動揺した様子のレザミリアーナの背中を押すと、エリザリーナはレザミリアーナのことを衣装室へ連れて行き……

 しばらくの間、レザミリアーナに様々な服を着てもらった。

 レザミリアーナは、終始頬を赤く染めながら「こんな服を、彼の前で着ることなど……」と恥ずかしそうにしていたが。

 相手の男性との関係を本気で進めたいと思っているのか、様々な服を着ることをやめなかった。

 そして、そんな姉妹での時間を過ごし、やがて眠りにつくと……いよいよ。

 ────エリザリーナが主催で行う催し事の当日となった。



 この物語の連載を始めてから九ヶ月が経過しました!

 九ヶ月の間に、この第276話までお読みくださりありがとうございます!

 ここまで物語を読み、いいねや☆、応援コメントをくってくださるなど、あなたがこの物語を応援してくださったことに本当に感謝しています!

 この第276話までお読みくださっているあなたの、この物語に抱いている気持ちをいいねや応援コメント、感想レビューなどで教えていただけると幸いです!

 今後も楽しくこの物語を描かせていただこうと思いますので、あなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

 今後も応援よろしくお願いします!

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