第275話 決定事項

◇ルクスside◇

 しばらくの間。

 僕が大人しく、一人の部屋で紅茶を飲んで二人が戻って来るのを待っていると────


「お待たせ〜!ルクス!」

「お待たせ致しました!ご主人様!」


 二人が僕の部屋に戻って来て、明るい声色でそう言った。


「僕は全然大丈夫です、それより……二人は、楽しく過ごすことができましたか?」

「うん!話が弾んで、ちょっと深い話もしたりして、すっごく楽しかったよ!」

「……そうですね」


 そのエリナさんの言葉に、相槌を打つシアナ。

 深い話……そんなことができるぐらい、仲直りできたんだ!

 僕はそのことに安堵すると、ソファから立ち上がって言った。


「そういうことなら、是非今から三人で食堂に行って、前みたいに一緒に食事をしましょう!」

「はい!ご主人様!」

「賛成〜!だけど、今日いきなりだったのに、私も貰っちゃって良いの?」

「もちろんです!是非たくさん食べて行ってください!」

「っ!ありがとう!ルクス!」


 それから、僕たち三人は、一緒に廊下を歩くと食堂に向かった。

 そして、食堂に到着すると、僕たちは以前エリナさんがこの屋敷に来た時と同様一緒にご飯を食べ始める。

 相変わらず、性格は全然違う二人だけど……

 味の好みや食事の所作とかがとても似ていて、楽しく感想を言い合っていたりもして、本当に距離感が近いように見えた。


「……」


 僕に優しくしてくれる優しい人たちが、僕の目の前で楽しそうにしてくれている時間。

 こんな時間がいつまでも続いて欲しいと、僕は心の中で強く思った。



◇エリザリーナside◇

 三人での食事を終えた後。

 そろそろ遅い時間になってきたため、帰るエリザリーナ。

 もとい、ルクスからしてみればエリナのことを、ルクスとシアナの二人が、屋敷の前まで見送りに来ていた。


「もうお別れなんて寂しいけど、時間も遅いし仕方無いよね〜」

「そうですね……でも、またいつでも────っ!」


 ルクスは何かに気が付いたように小さく声を上げると、続けて言った。


「それこそ、明日だって会えるかもしれません!」


 ────明日……私がエリザリーナとして主催する催し事の場で、ってことかな。

 確かに、その場でならエリザリーナとルクスは会うことができる。

 むしろ、会わなければ明日エリザリーナがその催し事を行うが無くなってしまうため、会うことは決定事項とも言える。

 だが、その時にルクスと会うのはエリナとしてではなく、エリザリーナとしてであるため、エリナとしてルクスと会うことはできない。

 そう考えると、今目の前で笑顔になっているルクスのことを見て、少し思うところがあった……が。

 そんなことを言うわけにもいかないため、ルクスに合わせる形で口を開いて言う。


「そうだね、もし明日も会ったら、その時はよろしくね」

「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」

「……じゃあね、ルクス!それに、シアナちゃんも!」

「はい、エリナ様」


 その後。

 エリザリーナは馬車に乗ると、馬車を王城に向けて走らせる。


「……エリナ、ね」


 エリナという仮初の姿は、まだ取り払うことはできない。

 エリザリーナとしてルクスと結ばれる、その時までは。

 そして、その時は、なのかもしれない。

 ────ルクスと、結ばれる……


「……ルクス、私もう、ずっとルクスのことばっかり考えてるよ」


 ルクスと離れて馬車に乗っても。

 眠りについても。

 目が覚めても。

 食事をしていても。

 公務をしていても。

 ────ずっと、ルクスのことが、頭から離れない。


「大好きな、ルクスのことが……」


 口角を上げ、頬を赤く染めて呟くと。

 それからも、エリザリーナは変わらずルクスのことを考え続けながら、王城に帰宅した────エリザリーナのルクスへの愛は、止まる所を知らない。

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