第274話 ルクスを幸せに
「思っているわ」
自分がルクスのことを幸せにできると思っているのか。
というエリザリーナの問いに、全くの迷い無く即答するシアナ。
その答えを聞いたエリザリーナは、先ほど同様真剣な面持ちで言った。
「ここでちょっとでも迷うようなら、ルクスと結ばれたいなんて口にする資格すら無かったけど……」
続けて、シアナの目を見て。
「一応、そこはしっかりしてるみたいだね」
「当然でしょう?」
聞かれるまでも無いというように言ったシアナは、さらに口を開いて言う。
「私はルクスくんを幸せに、そしてルクスくんと幸せになるためだけに生きているのだから……その私がルクスくんを幸せにできるかどうかと問われて、迷う余地なんて一つも無いわ」
力強く言い切るシアナ。
この言葉が今この場で取り繕ったものや虚勢で無いことは、人を見る目に自信のあるエリザリーナには考えるまでも無くわかったことだろう。
今の質問に対する回答は、今のシアナの言葉で満足したのか、再度口を開いて言った。
「じゃあ、次はちょっと聞き方を変えるけど、私よりもルクスのことを幸せにできると思う?」
「えぇ、思うわ」
先ほどと同じように即答するシアナ、だったが。
「────本当に?」
先ほどとは違い、エリザリーナは訝しんだ様子で聞き返してくる。
「……どういう意味かしら」
シアナもその言葉の意図を探るよう聞き返すと、エリザリーナはそれに答えた。
「ルクスは私にとっても予測できない存在だけど、それでもある程度なら、私はルクスのしたいこと、して欲しいことを言われるまでもなく叶えてあげられる自信がある……場合によっては、ルクスの幸せのために、この国を調停してる立場を利用することも」
「……」
だけど、と続けて。
「フェリシアーナにそれはできない……この国を調停してるのは、私だから────その上で改めて聞くけど、本当に私よりもフェリシアーナの方が、ルクスのことを幸せにできると思う?」
普段のふざけた様相が幻であるかのように、真剣な面持ちで聞いてくるエリザリーナ。
それだけ、エリザリーナはルクスの幸せを本気で考えていて、同時に自分の方がルクスを幸せにできると考えているということ。
ルクスの幸せに関する議論で、いつものようにふざけた態度を取っていないのは、シアナとしては少しエリザリーナを見直す点であり、エリザリーナの言うことにも一理ある。
だが────それと、どちらがルクスを幸せにできるかどうかは別の話。
「……確かに、エリザリーナ姉様ならその頭と巧みな話術に加えて、この国を調停してる立場を利用して、ルクスくんを幸せにするために上手く立ち回れるのかもしれないわ」
けれど、とシアナは続けて。
「私の方が、ルクスくんのことを絶対に幸せにしてあげられるわ────何故なら、私の方がルクスくんのことを愛しているからよ」
シアナは幼少の頃ルクスに出会ってから今に至るまで、ずっとルクスのことを愛し続けてきた。
直接会って関われる機会は、幼少の頃からメイドとしてロッドエル伯爵家に入るまで無かったが……
それでも。
その時間の重みと、ルクスを想いながらしてきたこと、ルクスによって感情が動かされたこと、純粋な愛情。
それらどれを取っても、シアナは自らがエリザリーナに負けていることなどあり得ないと思っている。
その言葉を聞いたエリザリーナは、少し間を空けてから言った。
「私の方がルクスのことを愛してるっていうのは私も同じ意見────だから、これ以上は話しても意味無さそうだね」
「そのようね」
そこで話を終えると、二人はシアナの部屋から出て、二人で一緒にルクスの部屋へ戻ることにした。
もはや、これで本当に、二人の対立を避けることはできなくなり。
────今後、二人のルクスを巡る対立は……さらに、激化していくことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます