第270話 暴発

◇エリザリーナside◇

 突然第二王女エリザリーナの主催する催し事に参加しないかと誘われたルクスが固まっているのを見たエリザリーナは、ルクスの緊張を解す目的で言った。


「もちろん、その場でルクスに何かをして欲しいって求めるわけじゃないよ?ルクスはただ、その場に来てくれるだけで良いの」

「そう、なんですか?」

「うん」


 緊張しながらもエリザリーナの言葉を飲み込んで聞き返してきたルクスに、エリザリーナは優しく頷く。

 ────私が主催してる催し事だからって、ルクスがそこまで緊張する事ないのに……本当真面目、だけどそういうところも可愛いんだよね〜!

 なんて気楽なことを思っていると、気楽なエリザリーナとは反対に。

 気重なルクスは、口を開いて心配そうな面持ちで言った。


「でも、僕なんかがあの第二王女エリザリーナ様の催し事、それも公爵の方々とかも大勢居る場所に行ったら迷惑に思う人も居るんじゃないですか……?」

「大丈夫だよ!その催し事に参加できるのは招待状をもらった人だけで、もしその人たちに文句を付けるなら、それはエリザリーナ様に文句を付けるのと同じ意味だからね」


 そんなことをする貴族は居ない、と付け加える。

 ────ていうか、もしルクスが居ることで迷惑なんて言ったり思ったりする奴が居たとしても、処理すれば良いだけだしね。

 何としても、明日の催し事にルクスに参加してもらいたいエリザリーナがそう説得すると、ルクスは少し安堵した表情になって言う。


「そういうことなら、参加させて頂こうと思います」

「本当に!?」

「はい、せっかくエリナさんがこうして誘ってくださいましたし……エリザリーナ様とは少し縁があるので、どんな催し事をお開きになるのか少し興味があるんです」

「……ルクスは、エリザリーナ様のことをどう思ってるの?」


 あまりこんなことを聞くことのできる機会も無いため、純粋にルクスが自らのことをどう思っているのか気になったエリザリーナがそう聞くと、ルクスは間を空けずに言った。


「この大きな国一つを調停できるほどの大きな優しさを持っている人だと思っています」

「っ……!」


 ────ダメダメダメ、ダメだよルクス!ルクスの部屋で、二人きりの状況で、ルクスの口からそんなこと言われちゃったら……!

 だが、そんなエリザリーナの気持ちどころか、そもそも目の前に居るのが当のエリザリーナであることすら知らないルクスは、続けて口を開いて言う。


「とても王族の人だとは思えないほど関わりやすくて、最近だとたまたまお会いした時に勉強を教えてくださったりもして……本当に、あの人が国内を治めている国に生まれることができて、幸せだと思いました」

「っ……!?」


 ────私が治める国に生まれることができて、幸せ……?そんな……そんな風に、思ってくれてたんだ。

 今までも、ルクスが自分の調停を優しさだと評してくれたことはあったが、まさかそこまで思ってくれていたとは考えていなかったエリザリーナは、素直に驚いた。

 大体の貴族や平民も含め、国内に平和がもたらされていたとしても、それを慣れ親しんだ当たり前のものだと考えている。

 そもそも、考えることすらしないと言っても良いかもしれない。

 そのため、基本的には国内に平和をもたらしている人物……どころか、国内の平和にすら感謝したり、幸せだと心から感じられている人間はほとんど居ない。

 が、ルクスはそうではない。

 国内の平和、その先に居るエリザリーナのことまでをもしっかりと見ている。

 その上での、エリザリーナが治めている国に生まれることができて幸せだと思っているという発言。

 ────ルクスは、本当に私のことを、見てくれてる……ルクス……ルクス……ルクス……


「あはは、何だか自分語りのようになってしまって、すみません」


 包み隠さずエリザリーナに抱いている気持ちを話したからか、どこか恥ずかしそうに苦笑するルクス。

 ────明日まで待たないとダメなのに、ダメなのに、ダメなのに……

 心臓の鼓動が速くなる。

 ……もう。

 ────大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!


「……エリナさん?」

「……」


 エリザリーナは、ソファから立ち上がると────後ろにあるルクスのベッドに座り、頬を赤らめながら言った。


「ねぇ、ルクス……私ちょっと体が熱いみたいだから、こっちに来て私のこと見てくれないかな?」


 ────もう、エリザリーナには、この気持ちの暴発を抑えることができない。

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