第269話 ルクスの紅茶
◇ルクスside◇
「エリナさん、こちらのソファにどうぞ」
「うん!」
ベッドから立ち上がったエリナさんのことをいつまでも立たせておくわけにはいかないと思った僕がそう促すと、エリナさんは元気に頷いてからそのソファに座った。
僕は、そんなエリナさんのことを見てから、ティーポットとティーカップを二つ取り出して言う。
「今から、二人分の紅茶を淹れますね」
「え!?ルクスが紅茶淹れてくれるの!?」
「はい、でも、エリナさんは普段から高いものを食べられているということなので、もし僕の淹れた紅茶がお口に合わなかったら遠慮なく────」
「ううん、飲む飲む!ルクスの淹れてくれた紅茶飲みたい!!」
「……わかりました」
普段、シアナが紅茶を淹れてくれているのを誰よりも近くで。
そして、何度も見ているとはいえ、そもそも今までの人生で紅茶を淹れてきた回数というのが少ないから間違いなく上手ではない。
でも、エリナさんがここまで積極的に僕の紅茶を飲みたいと言ってくれているんだから、その期待を裏切りたくない!
そう強く思った僕は、茶葉を取り出すと、早速慎重な手つきで紅茶を淹れていく。
すると────
「ルクスの紅茶淹れ姿カッコいい……!あ、ちゃんと手でカップ押さえてる……!可愛い……!!普段向けてくれる優しい表情も良いけど、やっぱりルクスはああいう真剣に頑張ってる感じの表情も────」
「エリナさん……?どうかしましたか?」
僕には聞こえないほど小さな声で何かを呟いているエリナさんの声が聞こえてきたため、僕は一度手を止めてそう聞くと、エリナさんは慌てた様子で首を横に振って言った。
「う、ううん!ルクスがカッコ良す────ルクスが紅茶淹れてる姿見るの初めてだったから、ちょっと新鮮だっただけ!」
「なるほど……あんまり淹れていないので、もし不格好だったらすみません」
「不恰好なんてことないよ!むしろ、すっごく格好良いと思う!」
「っ……!あ、ありがとうございます……」
格好良いなんて直接言われると少し恥ずかしいけど、褒めてくれたことに違いはないため感謝を伝えると、僕は紅茶を淹れるのを再開する。
そして、どうにか二人分の紅茶を淹れ終えることができると、僕は一つをエリナさんの方に差し出した。
「どうぞ」
「ありがと〜!」
明るく言ってくれるエリナさんのことを見て温かい気持ちになりながら、僕はエリナさんと対になるソファに座った。
「ルクスの淹れてくれた紅茶、飲んでみても良い?」
「もちろんです」
頷いて返すと、エリナさんはその紅茶を一口喉に通した。
一応、特に何か失敗するようなことは無かったから、不味いなんてことにはなっていないはず……と思っていると。
エリナさんは、ティーカップをテーブルの上に置いて、明るい笑顔で言った。
「美味しいよ!ルクス!」
「っ!本当ですか!?」
「うん!ちゃんと紅茶の味引き出せてるし、ルクスの飲み手に美味しく飲んで欲しいっていう気持ちが伝わってきたよ!」
「そうですか……良かったです」
僕が心から安堵していると、エリナさんはそんな僕のことを見て優しく微笑んでから言った。
「そうだ、ルクス……明日、第二王女のエリザリーナ様が催し事するって知ってる?」
催し事……
そういえば、フローレンスさんから、エリザリーナ様が公爵の人たちに声をかけているという話を聞いたような気がする。
「内容とかは知らないんですけど、少しだけ聞いたことがあります」
「そうなんだ〜!それでね?」
エリナさんは、テーブルの上に一枚の紙を置くと、それを僕の方に差し出して言った。
「これが、その催し事に必要な招待状なんだけど────良かったら、ルクスも明日のその催し事に参加しない?」
「……え?」
────ぼ、僕が、エリザリーナ様が主催として催される催し事に参加!?
突然の話に、僕は思わず体の動きや思考を硬直させてしまっていた。
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