第267話 愛情

◇ルクスside◇

 買い物に出向いたシアナのことを見届けてから、エリナさんと二人で屋敷の中に入ると、エリナさんが楽しそうに口を開いて言った。


「この屋敷の中に入るのも久しぶり〜!あの時は、ルクスと一緒にお風呂に入ったりしたよね〜!」

「っ……!」


 突然エリナさんの口から出たお風呂という単語によって、僕は前にエリナさんと一緒にお風呂に入った時のことを思い出す。

 あの時は、とにかくエリナさんが普段以上に色っぽい雰囲気で、後はエリナさんの胸が直接僕の背中に当たったりして────っ!こ、こんなことを考えたらダメだ!

 首を横に振ってその考えを振り払うと、エリナさんが両手を後ろに回して僕の顔を覗き込むようにしながら楽しそうに言った。


「ルクス、顔赤くなってるけど……もしかして、私とお風呂に入った時のこと思い出して恥ずかしくなっちゃった?」

「っ!そ、そんなことは……!大丈夫です!」

「そっか〜!じゃあ、今日も一緒にお風呂入る?」

「えっ!?えっと、それは、その……」


 僕がどう答えるのが正解なのかと悩み困惑していると、エリナさんが僕の顔を覗き込む姿勢をやめて明るく言った。


「なんてね!いきなり困らせちゃってごめんね?」

「い、いえ!気にしないでください!」


 自分でも顔に熱を帯びているのがわかるけど、とにかく今はエリナさんのことを客人として応対しないと……!

 そう思い直した僕は、気持ちを落ち着けると、エリナさんに向けて言った。


「夕食はシアナが帰って来てからにしたいので食堂に行くのは後にしたいんですけど、客室か庭、後は僕の部屋だとどこに行きたいですか?」

「え!?ルクスの部屋!?入っても良いの!?」

「もちろんです、大したものは置いていませんけど、それでも良ければ────」

「全然良いよ!ルクスの部屋入りたい!!」


 そう大きな声で意思を示してくれた後、エリナさんは僕には聞こえないほど小さな声で、頬を赤く染めながら一人何かを呟いていた。


「ていうか、どうしよ……!まさかルクスの部屋に行くことになるなんて思ってなかったから、元々の目的以外の準備は何もしてなかった……!……でも、ルクスが相手なら準備とか無くても別に────」

「エリナさん、とても楽しそうにしてくれているのは嬉しいんですけど、エリナさんのことをここにずっと立たせてしまうのは申し訳ないので、今から早速二人で僕の部屋に行きませんか?」

「っ……!」


 僕の言葉を聞いたエリナさんは小さく声を上げると。

 少し間を空けてから、頬は赤く染めたままでありながらも落ち着いた様子で言った。


「う、うん、そうしよっか」

「ありがとうございます……では、僕について来てください」


 そう言うと、僕は早速エリナさんのことを先導する形で、僕の部屋に向かい始めた。



◇エリザリーナside◇

 ルクスの部屋へと自分のことを案内してくれているルクスの背中を見て、エリザリーナは……

 ────ルクスの部屋で、ルクスと二人きり……!今日はあくまでもとしてここに来ただけだったのに、まさかこんなことになっちゃうなんて!!

 続けて、後ろから覗くルクスの横顔を見て。

 ────待って、本当にカッコいい……!なんでそんなにカッコいいの!?しかも、さっきお風呂の話したこともあって、耳まだ赤くなってる!なんでそんなに可愛いの!?あ〜!ルクス!好き好き好き好き!!ていうか、ルクスと二人きりでルクスの部屋とか、私我慢できるの!?

 エリザリーナとしてルクスと結ばれるためにも、ここで不用意なことをするわけにはいかないとわかっている。

 そのために、エリザリーナはこれまでその優秀な頭脳を用い計画を立て、現にそれは今シアナをも出し抜いている。

 だから、ここで絶対に不用意なことをするわけにはいかない……のだが。

 ────ルクス……大好き。

 そんなエリザリーナの優秀な頭脳も、ルクスへの愛情の前では無力なのか。

 エリザリーナは、今にも計画のことを忘れて、ルクスへの愛を直接ルクスに向けて解き放ちたい気持ちでいっぱいとなってしまっていた。

 そして、あっという間にルクスの部屋の前に到着すると……二人はそのまま、一緒にルクスの部屋に入った。

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