第264話 順調

◇エリザリーナside◇

「はぁ、昨日の商業体験のルクス可愛かった〜」


 食卓の場へ向かうべく王城の廊下を歩きながら、エリザリーナは昨日商業体験を営んでいたルクスに思いを馳せていた。


「あんなに可愛くお願いされたら誰でも断れないよね〜!しかも、ただお花が良いからっていうだけじゃなくて、ちゃんと私に似合った色合いまで考えてくれて……!好き好き!もう、本当どうしよ!」


 今の所問題は無いものの。

 このままでは、ルクスのことを考え過ぎるがあまり、いずれ仕事が手につかなくなるのでは無いかと少し不安に思っているエリザリーナ。

 と言っても、今エリザリーナがこの国を調停するのは第二王女としての責務だけでなく、同時にルクスのためでもあるため、そんな失態は絶対に起こさないと確信してもいる。


でまたちょっとだけ仕事が増えるけど、ルクスのためならどんなお仕事だってしてあげたくなっちゃうね〜」


 そんなことを呟きながら食卓の場に着くと、テーブルクロスの敷かれた長テーブルの上には料理が並べられており、その料理の前にある椅子にはすでにレザミリアーナが座っていた。

 エリザリーナはその対面となる場所に座ると、レザミリアーナに声を掛ける。


はお疲れ様〜!結構大変だったんじゃない?」


 その言葉に対し、レザミリアーナは落ち着いた様子で答える。


「労力などほとんど使っていない……公爵や侯爵たちの集まりと言っても、ほとんどが権力に物を言わせ懐を満たしていただけの者たちだ」

「流石レザミリアーナお姉様〜!させた後でも、いつも通りだね〜!」

「まだ、この件は完全に解決したわけではない……奴らによって有害な思想を植え付けられた者たちも居るはずだ」

「そうだね〜!確かに、それは今後気をつけないこととして……」


 エリザリーナは、昨日ラーゲ一派を壊滅させるという話を聞いた時から少し感じていたことを、やはりレザミリアーナに聞いてみることにした。


「レザミリアーナお姉様、最近好きになった男と婚約できなくなって落ち込んでたみたいだけど、昨日辺りから雰囲気元通り────ううん、むしろ今まで以上な感じになってるのって、何か理由とかあるの?」


 疑問を投げかけると、レザミリアーナが口を開いてその疑問に答える。


「あぁ、その件だが……私は、彼との婚約を諦めないことにした」

「えっ!?お父様から許してもらえたのっ!?」

「そういうわけでは無い……が、私は自分の意思で、この選択こそが私の、そしてこの国の未来のためになると判断した」


 ────自分の意思で……

 エリザリーナが知っているレザミリアーナとは、自分の意思よりも国のことを優先する人間。

 もちろん、今回も国の未来になるという判断基準を持ってはいるものの、今までのレザミリアーナであれば父から言われたことに背くようなことはしなかっただろう。

 ────変わったとは思ってたけど、本当に私が思ってる以上に変わったんだ……レザミリアーナお姉様にとって、それだけその男っていうのが、それこそ私が思ってる以上に大きい存在なのかな。

 だが、何にしても。


「そういうことなら、私はレザミリアーナお姉様の気持ちが成就することを応援するよ!もし何か困ったことあったら、何でも私に相談して!」


 心からの言葉として言うと、レザミリアーナは頷いて言った。


「わかった、私はこういったことに疎い自覚があるから、困り事があればお前に頼るとしよう……ところで、お前も婚約したいと思う相手を見つけたのだとお父様から聞いたが、その相手はどんな男なんだ?」

「え〜!そんなの語り始めたらキリがないけど、やっぱり何と言ってもあの子の魅力は優しさだよね〜!調停とかで色んな人間のことを見て来た私だからわかるけど、あの子の優しさは本当に純粋な優しさなの!優しい言葉を心からかけてくれたり、気遣ってくれたり、あの子の優しい話を一つするなら────」

「その話を聞いている間に、目の前にある料理が冷めてしまいそうだ……だから、聞くのは一つだけにしておこう────その相手とは、順調なのか?」


 その問いに対して、一瞬動きを止めたエリザリーナは────頷くと、口角を上げて堂々と言った。


「うん、順調だよ」

「そうか、なら良かった……では、冷めないうちに料理を食すとしようか」

「は〜い!」


 その後。

 二人は、目の前に並べられた料理を一緒に食べ始めた。

 ────全部順調、予定通り……あとはに行動を起こすだけ。

 ルクスと二人で幸せになっている未来を確実なものとして思い描いているエリザリーナは、早くその日が来て欲しくて堪らなかった。

 ────食事をしながら頭で思い浮かべているのが同一人物であることを、エリザリーナとレザミリアーナはまだ、知らない。

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