第263話 二つの本心

◇ルクスside◇

 まさか、フェリシアーナ様が昨日購入してくださったお花を王城の自室に。

 それもご自分の手で生けてくださっていたなんて……本当に嬉しいな。

 バイオレットさんが帰られた後。

 自室で勉強の準備をしながらそんなことを思っていると……

 部屋のドアがノックされた。


「ご主人様、少々よろしいでしょうか?」


 シアナの声だ。

 さっき別れたばかりだったから、こんなに早く何か用事があるとは思っていなかったけど、何かあるのかな。


「うん、入っていいよ」


 僕が伝えると、シアナはゆっくりとドアを開けて部屋の中に入ってくる。

 そして、僕の隣までやって来ると……どこか浮かない表情で言った。


「ご主人様、その……先ほど、バイオレット様に抱きしめられていかがでしたか?」

「……え、え!?」


 バ、バイオレットさんに抱きしめられて、どうだったか!?


「ど、どうしてそんなことを聞くの?」

「どうしても気になるのです!どうか、お答えください!」


 力強く言ってくるシアナ。


「え、えっと……どうだったかと聞かれると難しいけど、バイオレットさんは優しい人だから、抱きしめられることは別に嫌では無かったよ」

「でしたが、私がご主人様のことを抱きしめたらどう思いますか?」


 その問いに関しては言い淀んだり悩んだりするまでもなく即答できるため、僕は間を空けずに答える。


「もちろん、シアナに抱きしめられても嫌な気なんてしないし、むしろそれだけ僕のことを想ってくれていると思うと心が温まるよ」

「っ!でしたら、ご主人様のことを抱きしめても良いですか!?」


 ……あぁ。

 この突然行われ始めた問答の意味がわからなかったけど、これは────


「うん、良いよ」

「ありがとうございます!」


 そう言うと、シアナは僕のことを抱きしめてきた。


「……バイオレットさんが僕のことを抱きしめてるのを見て、僕のことを抱きしめたいと思ってくれたの?」

「はい……ご主人様は、私だけのご主人様なので」

「やっぱり、そういうことだったんだね……でも」


 続けて、僕はシアナの頭を撫でて。


「シアナだったら、わざわざそんなことを確認して来なくても、好きな時に僕を抱きしめてくれて良いよ……僕にとってシアナは、本当に大切だからね」

「ご主人様……!」


 僕のことを抱きしめる力を強めると、シアナはどこか恥ずかしそうにしながら言った。


「ご主人様、よろしければまた……二人で、街にお出かけさせていただきたいです」

「うん、もちろん良いよ……どこか行きたいところはある?」

「っ!ありがとうございます!行きたい場所は────」


 その後。

 僕とシアナは、普段通りとても楽しく話す時間を二人で過ごした。



◇フェリシアーナside◇

「では、ご主人様……失礼致します」

「うん、またね、シアナ」


 ルクスに頭を下げて部屋を後にしたシアナは、自らの部屋へ向けて足を進める。

 メイドのシアナとしてルクスと接すること。

 本当は第三王女であるためそういう意味では正体を偽っているが、メイドのシアナとしてルクスのことを敬ったり、仕えたいと思っていること自体に嘘偽りはない。

 ルクスの手を引いてルクスを幸せにしたいと願う気持ちの現れが第三王女フェリシアーナなのだとしたら、ルクスを支えて幸せにしたいという気持ちの現れがメイドのシアナというだけの話で、二つとも本心。

 そして、ルクスを幸せにしたいという心さえ本当であるなら、それ以外のことは全て表面的なことに過ぎないと考えているシアナにとっては、フローレンスの言い分が理解できないため、フローレンスとの敵対は避けられない。

 加えて、当然────今まさに、自らがルクスと結ばれるために画策して動いている、エリザリーナとの敵対も、避けることはできない。


「……ルクスくんのことを幸せにするのは、私よ」


 ────そのためにも、エリザリーナ姉様には……何としてでも、ルクスくんから手を引いてもらうわ。

 心の中で強く言い放ったシアナは、バイオレットの待つ自室に入ると、早速エリザリーナが催し事を行う日の前日に向けて計画を立て始めた。

 全ては、ルクスを幸せに、そしてルクスと共に幸せになるために────

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