第259話 気迫
「……」
────まさか、あのバイオレットが論理を無視して感情でものを言うなんて、驚いたわね。
それも……
────幼少の頃から私の侍従として私に仕えているというだけあって、侍従としての気迫も流石ねだわ……そこらに居る公爵貴族なんかよりも、気迫があるんじゃ無いかしら。
だが、シアナはこの国の第三王女フェリシアーナ。
少し予想外の気迫を見せられたからと言って、引くような性格ではない。
それに、ルクスを味方につけている以上、この状況は変わらない。
「何と言われたようと、ご主人様のメイドは私────」
シアナが言いかけた時。
「バイオレットさん……!僕だけでなく、僕に仕えているシアナに対しても、そこまで思ってくれていたんですね……!!」
────ルクスくん……!?
目を輝かせて言うルクスに動揺していると、バイオレットが頷いて言った。
「もちろんです、ロッドエル様はもちろんのこと、シアナ様も私にとって本当に大切な方ですから」
「バイオレットさん……!」
感銘を受けている様子のルクス。
バイオレットは全く嘘は吐いていないが、その言葉がシアナにとっては最悪な形でルクスと噛み合ってしまっていた。
────ダメよ、ルクスくん……!今のバイオレットは、私情でただ自分の淹れた紅茶をルクスくんに紅茶を飲ませたいだけなのだから……!
と言いたいところだったが、シアナとしての立場でそんなことは言えない。
いや、仮に今この場に第三王女フェリシアーナとして居たとしても、ルクスに否定の言葉を投げかけることなどできなかっただろう。
どれだけ心を鬼にしたとしても、ルクスに否定の言葉を投げることなどできない。
それが、フェリシアーナという人間だ。
「では、シアナ様……私がお二人に紅茶を淹れて差し上げたいと思いますので、お座りいただいてもよろしいでしょうか?」
「……わかりました」
ひとまず、ここは受け入れるしか無いと頷くと、シアナは椅子に座った。
────今回は受け入れるしかなかったけれど、ここから先はどんなことを企んでいたとしても絶対に好きにはさせないわ!
◇ルクスside◇
僕は、バイオレットさんが淹れてくださった紅茶を一口喉に通す。
「いかがですか?ロッドエル様」
「久しぶりに飲ませていただきましたけど、やっぱり本当に美味しいです!」
「お褒めいただき光栄です」
小さく頭を下げて言うバイオレットさん。
本当に、昔からずっとフェリシアーナ様のために紅茶の研鑽を積んできたことがわかる味で……
味そのものが美味しいことはもちろんだけど、僕はその長年の思いのようなものが感じられる部分も、バイオレットさんの紅茶の大好きなところの一つだった。
……そうだ。
「シアナは、バイオレットさんの紅茶を飲むの初めてだったよね?」
「え?は、はい!」
「どう!?すごく美味しくない!?」
「と、とても美味しいです!この紅茶を飲んでいると、王城を思い出します!」
「王城……?……あぁ、王城に出てきそうな高貴な味、みたいなことかな?」
「っ……!そ、そうです!」
慌てたように言うシアナ。
そのイメージは、確かによくわかる。
実際、バイオレットさんは王城でフェリシアーナ様に紅茶を淹れていたんだろうし……
というか、王族の人が飲む紅茶を飲ませていただいているなんて、よく考えなくても僕たちは今本当にすごい体験をしているのかもしれない。
「……バイオレットさんは、剣から体のことや、紅茶まで、どんなことでもできて本当にすごいですね」
ふと思ったことを口にすると、バイオレットさんは首を横に振って言った。
「いえ、私など……」
それから少し間を開けると、バイオレットさんは言う。
「その、ロッドエル様、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、何ですか?」
続けて、僕と目を合わせると、ほんの少しだけ弱々しい声色で言った。
「ロッドエル様は……婚約なされるのであれば、どのような女性と婚約したいとお思いになられますか?……やはり、しっかりと自らの足で立ち、自らの意思を第一優先として動いている輝かしい方々、なのでしょうか……?」
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